離床の意味や目的とは?臥床との違いや実施するメリットについて解説

介護や医療の現場で、離床という言葉を聞いたことはありませんか?
離床は、介護に携わる場合に把握しておきたい介護用語です。
この記事では、離床の意味や目的について解説します。
離床のメリットや、離床できない場合のリスクについても解説しているので、高齢者の介護を予定している方は参考にしてください。
離床の意味とその目的
離床とは、どのような状態を表す言葉なのでしょうか。
離床の意味や目的について解説します。
離床(りしょう)とは
離床とは、寝ている状態から起き上がってベッドを離れることを表す言葉です。
介護や医療の現場で、食事や排泄、入浴、診察などのために、ベッドから起き上がるときに使用されています。
離床はすべてのリハビリテーションの始まりです。
寝たままの状態でいることにはさまざまな弊害があるので、一日を寝て過ごすのではなく、歩行や立位で体の機能回復を目指すことが重要になります。
【臥床(がしょう)との違いは】
離床の対義語として、臥床という言葉があります。
臥床とは、ベッドに横になることです。
介護の現場では、起きている状態から寝かせる状態に介助することを、臥床介助と呼びます。
病気やケガにより、臥床の状態が長くなってしまうのが、長期臥床や安静臥床です。
臥床の状態が続いてしまうと、筋力や呼吸の機能が低下したり、認知機能が低下したりする危険性があります。
最終的に寝たきりに陥ってしまうため、体調を見て離床を促すなど、身体機能の低下を予防することが必要といえるでしょう。
離床介助とは
離床介助は、介護技術の一つです。
普段寝たきり状態の方に対して、食事や排泄、入浴のために寝ている状態から起き上がるまで介助することを、離床介助と呼びます。
【就寝介助・起床介助・離床介助との違いは】
離床介助や臥床介助と混同されやすい、就寝介助、起床介助という言葉があります。
どちらも介護や医療の現場で使用される言葉です。
就寝介助は、歯磨きや排泄、パジャマへの着替えなど、夜寝る前の行動全般を介助することです。
就寝のためにベッドに横たわるのをサポートする行為は、臥床介助であり、就寝介助にもなります。
起床介助は、歯磨きや排泄、普段着への着替えなど、朝起きてからの行動全般を介助することです。
起床のためにベッドから起き上がるのをサポートする行為は、離床介助であり、起床介助でもあります。
離床が高齢者にもたらす効果
高齢者の健康を維持するために、早期の離床は大変重要です。
ここでは、高齢者の早期離床によるメリットについて解説します。
嚥下機能が維持できる
離床している時間が長いと、高齢者の嚥下機能がよくなることが、旧東京医科歯科大学(現東京科学大学)の研究により明らかになっています。
この研究は、要介護高齢者を対象に、離床時間と全身の筋肉量および摂食嚥下機能との関連を調べたものです。
介護状態に関わらず、4時間離床した場合は摂食嚥下機能が保たれていました。
また6時間離床した場合は、常食に近い食事がとれています。
このように研究結果から、4時間から6時間離床すれば、摂食嚥下機能を維持しやすくなることが分かりました。
出典:東京科学大学「要介護高齢者の離床時間、全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関連」
全身の筋肉量が保たれる
嚥下機能の維持だけでなく、離床によって全身の筋肉量が維持できることも、旧東京医科歯科大学(現東京科学大学)研究によって明らかになっています。
要介護高齢者の四肢骨格筋と体幹の筋肉量が維持できたのは、6時間離床している場合です。
また、離床時間が0~4時間と比較しても、4時間離床している場合のほうが、四肢骨格筋量が保たれていました。
この研究により、4~6時間離床している場合は、要介護高齢者の全身の筋肉量を維持しやすくなることが分かっています。
出典:東京科学大学「要介護高齢者の離床時間、全身の筋肉量および摂食嚥下機能の関連」
生活の質が向上する
寝ている状態から起き上がって生活することは、高齢者の生活の質(QOL)の向上にも貢献します。
人間は動くことで精神や身体のバランスを取っている生き物です。
ベッドを離れることでストレスが減少し、気分転換になります。
生活のリズムを整えることができるので、退院後の自宅での生活もスムーズになるでしょう。
離床による精神的な刺激は、術後合併症である術後せん妄の予防にもつながります。
血液循環がよくなる
立位や歩行による運動は、全身の血液循環をよくします。
高齢者の手術後は、合併症が発症するリスクが高いです。
早期離床は、足の血管が詰まることによる深部静脈血栓症や、血管に詰まった血栓が肺の血管に流れる肺血栓症の発症の予防が期待できます。
また、血流がよくなることで、起き上がったときのめまいを防いだり、ケガが治癒するスピードを早めたりすることが可能です。
仙骨を圧迫することもなくなるので、寝たきりの方がなりやすい褥瘡もできにくくなるでしょう。
腸の動きが活発になる
離床によって体を動かす時間が長くなると、腸の蠕動運動が促進されます。
腸の動きが活発になるのは、腸内環境の改善や便秘の予防に効果的です。
消化管の動きが確認できれば、胃液を排出するために挿入している胃管の早期抜去が可能となるでしょう。
術後イレウスの予防にもなり、食事の経口摂取もできるようになります。
介助による離床が困難な場合に生じる長期臥床のリスク
長期臥床にはさまざまな弊害があり、寝たきりの状態で放置するのは危険です。
離床介助がうまくいかず、臥床状態が続いた場合のリスクについて解説します。
身体的な問題の発生
寝たきりの状態が長く続いてしまうと、身体機能が衰えてしまいます。
背骨を支える筋肉や太ももやふくらはぎの筋肉量が減少し、重力に耐えきれず、座ることすら困難になってしまう可能性が高いです。
さらに、骨からもカルシウムが排出されてしまうため、骨密度の低下が発生します。
骨粗しょう症が進行して骨がもろくなると、些細なことで骨折してしまう危険性が高くなるでしょう。
また、寝たきりの状態から急に起き上がると、血液が下半身に集中して脳に酸素が回りにくくなるので、めまいや立ちくらみが発生しやすいです。
臥床の状態が続くと血液量が減少したり、循環機能が低下したりするため、時には失神することもあります。
精神的な問題の発生
長期間寝たきりの状態が続いてしまうと、他者と接触したり、コミュニケーションをとったりする機会が減少します。
頼れる家族が近くにいない場合は、社会的に孤立してしまう可能性があるでしょう。
孤独感が増すと、不安になったり自尊心が低下したりと、精神にさまざまな悪影響があります。
精神的に不安定な状態が続くと、うつ状態になったり認知症が悪化したりする危険性も高いです。
介護者の負担増大
離床介助ができず臥床状態が続いてしまうと、介護に関わる職員や家族への負担が大きくなります。
臥床介助は、腰や背中への負担が大きいです。
さらに、寝たきりの状態となると食事や排泄、入浴など、すべての介助が必要となります。
介護者の負担は肉体的なものだけではありません。
特に、家族の介護は精神的な負担が重いです。
急激な生活の変化がストレスになり、介護うつや介護放棄につながるおそれもあります。
合併症の誘発
長期臥床では、体の各部位で次のような合併症を誘発するリスクが高いです。
- 筋骨格(関節拘縮、筋萎縮、骨萎縮)
- 循環器(心機能低下、起立性低血圧、血栓塞栓症)
- 呼吸器(換気障害、沈下性肺炎、誤嚥性肺炎)
- 消化器(体重減少、低栄養、食欲低下、便秘)
- 泌尿器(尿路結石、尿路感染症)
このほかに、精神面ではうつ状態、せん妄、見当識障害、睡眠覚醒リズム障害などの合併症を引き起こすことも心配されます。
離床を進める際の手順
離床の手順は、次のとおりです。
- ベッドを起こす(ギャッジアップ)
- 手足の運動をする
- 座位で足踏みをする
- 介助しながら立位になる
- 歩行を開始する
術後の場合は、早期離床を目指して、離床を段階的に進めていく必要があります。
離床の流れを詳しくチェックしていきましょう。
ベッドを起こす(ギャッジアップ)
医師から離床の許可をもらったら、リクライニングベッドの背もたれを立てて、頭部を高くするギャッジアップと呼ばれる動作をします。
ギャッジアップの前に、バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸)を測定しておくことが大切です。
角度は30度から45度が、胃食道逆流や誤嚥のリスクを低くします。
ギャッジアップの最中やギャッジアップの後は、めまいや吐き気などの症状がないか、様子をしっかりと確認してください。
可能な範囲でゆっくりとギャッジアップを行い、ヘッドアップができるようになったらその状態をしばらく維持しましょう。
手足の運動をする
ヘッドアップの状態でも問題がなければ、手足を軽く動かしていきます。
肘やひざ、足首や手首などの関節をゆっくり曲げて、手足を運動させましょう。
座位で足踏みをする
ベッドの上で手足を動かしても問題がなければ、ベッドサイドに足を下ろして座位をキープさせてください。
急に血圧が上がって意識を失う場合もあるので、周りに数人の介護者がいると安心です。
端坐位をする際は、ベッドまわりの点滴やドレーンが抜けないように注意してください。
足踏みを開始するのは、端坐位の姿勢に慣れてからです。
ベッドの柵につかまるなど、転倒の危険がないように安全を考慮しましょう。
介助しながら立位になる
端坐位の足踏みに慣れてきたら、介助しながらゆっくりと立位の姿勢になります。
介護者は、めまいやふらつきが起こらないように、しっかりと体を支えましょう。
立位の状態をキープできたら、その場で足踏みを行います。
歩行を開始する
立位の状態で足踏みができたら、歩行にチャレンジします。
慣れないうちは、必ず介護者が付き添いましょう。
点滴棒や歩行器につかまりながら歩行する場合は、車輪が滑らないように介助する必要があります。
歩行を開始しても問題がない場合は、徐々に歩行距離を伸ばしていきましょう。
離床時のポイントや注意点
知識がないまま離床を進めてしまうと、スムーズにいかない可能性が高いです。
ここでは、離床のポイントや注意点について解説します。
疼痛をコントロールする
離床を成功させるために、患者のストレスになりやすい疼痛のコントロールは必要不可欠です。
臥床の状態で疼痛がない場合でも、離床の際に痛みが発生する可能性があります。
疼痛を我慢しながら離床を試みても、うまくいくことはありません。
痛みを訴えている場合は、鎮痛剤の使用を検討しましょう。
身の回りを整える
離床をスムーズに進めるために、次のような身の回りのケアが必要です。
- 衣服を整える
- 歩きやすい靴を用意する
- 点滴やドレーンを整える
履き物はスリッパだと滑りやすいので、運動靴や足にしっかりと固定できるものを選択してください。
点滴はルートを延長すると、歩行の際に邪魔になりません。
ドレーンは袋の中にまとめると歩きやすいです。
周囲に障害物がないか、十分に注意しながら歩行を進めていきましょう。
状態観察を十分に行う
術後の状態は不安定なため、離床の前後には状態に変化がないか十分に観察する必要があります。
離床前後に行う状態観察は、次のとおりです。
- バイタルサイン
- 疼痛はないか
- 下肢の発赤がないか
- 浮腫がないか
- 創部に炎症はないか
離床により合併症を引き起こす危険性もあるので、状態観察を行ってから離床に臨みましょう。
挿入物を管理する
術後の場合は点滴やドレーンだけでなく、カテーテルなどの挿入物が留置されている場合があります。
歩行訓練時に抜けてしまわないように、固定テープが剥がれていないか、歩くときに突っ張らないかを確認しておきましょう。
中止する基準を把握しておく
離床のようなリハビリには、中止基準が設けられています。
リハビリの中止基準は、次の3パターンです。
積極的なリハを実施しない場合 | ・安静時脈拍40/分以下または120/分以上 ・安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上 ・安静時拡張期血圧120mmHg以上 ・労作性狭心症の方 ・心房細動のある方で著しい徐脈または頻脈がある場合 ・心筋梗塞発症直後で循環動態が不良な場合 ・著しい不整脈がある場合 ・安静時胸痛がある場合 ・リハ実施前にすでに動悸、息切れ、胸痛のある場合 ・座位でめまい、冷や汗、嘔気などがある場合 ・安静時体温が38度以上 ・安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下 |
途中でリハを中止する場合 | ・中等度以上の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛、頭痛、強い疲労感などが出現 した場合 ・脈拍が140/分を超えた場合 ・運動時収縮期血圧が40mmHg以上、または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合 ・頻呼吸(30回/分以上)息切れが出現した場合 ・運動により不整脈が増加した場合 ・徐脈が出現した場合 ・意識状態の悪化 |
いったんリハを中止し、回復を待って再開 | ・脈拍数が運動前の30%を超えた場合 ・脈拍が120/分を越えた場合 ・1分間10回以上の期外収縮が出現した場合 ・軽い動悸、息切れが出現した場合 |
そのほかの注意が必要な場合は、次のとおりです。
- 血尿の出現
- 喀痰量が増加している場合
- 体重増加している場合
- 倦怠感がある場合
- 食欲不振時・空腹時
- 下肢の浮腫が増加している場合
出典:公益社団法人日本リハビリテーション医学会「リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン」
離床の際には、リハビリの中止基準を把握して、合併症のリスクを回避しましょう。
離床に関するよくある質問
最後に、離床に関するよくある質問に答えていきます。
離床を拒否する原因は?
高齢者が、離床などのリハビリを拒否する原因として、意欲の低下が挙げられます。
意欲が低下する理由は、精神的なものから身体的なものまでさまざまです。
離床を行う前にカルテから情報を収集して、原因の特定と対策を考えましょう。
離床時に起こりやすい合併症は?
離床時には、次の合併症への注意が必要です。
- 起立性低血圧
- 肺血栓・塞栓症
- 不整脈
これらの合併症を防ぐために、離床の手順は段階的に進めていく必要があります。
初回離床時の付き添いやバイタルサインの確認、心電図モニターによる監視で合併症の発症を未然に防ぎましょう。
まとめ
今回は、離床の意味や効果、初回離床の手順について詳しく解説しました。
術後や要介護高齢者の早期離床には、さまざまなメリットがあります。
離床の時間が長くなればなるほど、身体機能を保持することが可能です。
精神面にもよい影響を与えるので、退院後の生活のためにも、離床を積極的に促していくことは重要だといえます。
離床をスムーズに進めるためには、手順を段階的に進めていくことが大切です。
いきなり離床させると合併症のリスクがあるので、離床に関する専門的な知識を事前に把握して離床を進めていきましょう。