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【介護コラム】寝ている場合じゃない!③

【介護コラム】寝ている場合じゃない!③

車椅子に移ったものの、体幹は全く安定せず船に揺られるように前後左右を行ったり来たり。幸い腕の力はしっかりしていましたが、懸命に肘掛けをにぎって堪えている状態でした。数センチ単位で座り位置を調整し、どうにか安定したところでリビングダイニングへご案内しました。

全開の窓からは夏の暑さを吹き飛ばすような気持ちの良い風と、蛍光灯がいらないくらいの日差しが差し込んでいました。「ああ、これが家だよ、家なんだよ」と五感全てで我が家を堪能するように言うと、今度は「食卓の椅子へ移りたい」と。退院早々にあまり張り切りすぎない方が良いのではないかとも思いましたが、ご本人の想いの強さを信じ移乗をしてみると、今度は驚くほどしゃんとした姿勢で腰掛けることが出来ました。

「なんだか急に食欲が出てきたな」と言う姿を嬉しそうに見守りながら、奥様は手料理を次々と運んできます。ご本人の分と奥様の分。着々と整えられる食卓を見ながら「家内は大食いで、僕なんかよりよっぽど沢山食べるんですよ」と笑いながら言うご本人に「ほんと、この人は昔っから食べるよりも呑む専門で、しかも偏食なんですよ」と返す奥様。

こんなのろけシーンに立ち会えるのもこの仕事ならではだなと、改めて訪問介護の醍醐味を味わうことが出来ました。食卓が整い「お食事と一緒に何か飲みますか」と問いかける奥様にご本人の口から出た返事は「ビールを!」でした。

コラム原案/安部隼人
障害者の目線から、社内での研修講師をしたり、啓蒙活動のためのレポート作成等を担当しています。
晩酌のお供はカニカマ派です。
Illustrator/エム・コウノ