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【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第2話ー

【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第2話ー

私が勤めていた通所更生施設では、ご利用者の能力や体の状態に応じて活動内容が分かれていました。Yさんは外に出るのが大好きだったので、リサイクル用の空き缶を回収しながら地域を歩いて巡る、最も体育会系のグループに所属していました。

Yさんの体が隠れてしまうくらい大きな袋に空き缶がパンパンに詰まっても、涼しげな表情のまま踊るようなステップでヒョイヒョイと歩く姿は「頼もしい」の一言に尽きました。

また、輪ゴムと同じくらい草花が好きで、途中公園などに立ち寄ると、さっきまで隣にいたはずなのに、いつの間にか植え込みの中にペタンと座り込んで景色に溶け込んでいることもしばしば。脚力だけでなく、気配を断つことにかけても、Yさんは人並み外れた才能を持っていました。

過去には、いつの間にか施設から行方をくらまし、どういったわけか上手く電車を乗り継ぎ、数駅離れた駅で保護されたことがあったそうです。

それ以来、「Yさんの所在は常に確認しておく」が全職員間の共通認識になりました。それでも、まるで私達の気が緩んでいないかを試すかのように、不意に所在が分からなくなることは度々見られました。

コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ