【介護コラム】ALS(コイツ)と戦うー第2話ー

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介護ヘルパーとALSを発症した医師との実話
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Sさんは沢山の事を話して聞かせてくれる。家電の電磁波が体に及ぼす影響、最近話題のドラマの見どころ、B‘Zのサポートメンバーは今が最強で、特にドラムが素晴らしいこと等話題は多岐に渡る。しかし、病気の進行は喉の筋肉にも及んでおり、その言葉を聞き取ることは容易ではない。

長年寄り添ってきた夫婦の会話は、サイレント映像だけ見れば、ごく自然な風景に映る。実際は、彼の発する言葉にならない音や些細な表情の変化を妻が読み取っている。他者との会話は、妻が通訳になってコミュニケーションをとることが「常」である。

例にもれず、私も彼の言葉を理解することが難しかった。ケアは膨大で細かな手順、容易ではないコミュニケーション。しかし、大変さより彼の人としての魅力に私は猛然ともっと話がしたいと思っていた。それからは一語一語、話しかけては通訳をお願いし、日に何度も繰り返されるやり取りに夫婦は根気良く付き合ってくれた。

ある日、音楽の話をしていると「ジャズはちょっと走ってズレてるぐらいが一番気持ちいいんだよ」と彼は言った。

通訳を介さず、私はその言葉をしっかり聞き取ることが出来ていた。「常」が変化した瞬間だった。そして、その時から彼との会話に通訳は必要なくなっていった。

つづく

 

CURATOR
コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノIllustrator/エム・コウノ
千葉在住。デイサービススタッフとして勤務しています。
休日はイラスト、マンガ描いてます。似顔絵などイラストのご相談承ります!