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認知症の夕暮れ症候群とは?症状や原因から対応方法まで解説

認知症の夕暮れ症候群とは?症状や原因から対応方法まで解説

穏やかに過ごされていた認知症の利用者様が、夕方になると突然帰宅願望を訴えることがあります。

これは「夕暮れ症候群」と呼ばれ、認知症の周辺症状の一つです。

夕食前の忙しい時間帯ですと、介護職員が対応に手を取られ、業務が滞ってしまうことも少なくないでしょう。

この記事では、夕暮れ症候群の症状や原因、対応方法について解説するので、日々の業務に活用してください。

夕暮れ症候群とは

夕暮れ症候群とは認知症の高齢者に見られる症状で、落ち着きがなくなり、帰宅願望や徘徊、不穏、攻撃的言動などが現れるものです。

主に夕方から夜にかけて見られることが名前の由来で、「日没症候群」や「たそがれ現象」とも呼ばれます。

過去の調査によると、認知症高齢者の約10%に見られる症状であると推定されています。

認知症の周辺症状

 

夕暮れ症候群は周辺症状の一つとされています。

これは認知症の中核症状である記憶障害や、見当識障害に周囲の環境要因が加わることで発現するものです。

中核症状によって記憶力や判断力、認知機能が低下し、不安や焦り、居心地の悪さ、騒音、自己喪失感といった内的または外的ストレスを受けることで周辺症状が発症します。

周辺症状には不安や徘徊、抑うつ、攻撃的言動、帰宅願望などがありますが、周囲の適切な関わりによって症状の軽減や発症の抑制が可能です。

主な症状は帰宅願望

 

夕暮れ症候群においてもっとも主たる症状は帰宅願望です。

先ほどまで落ち着いて過ごしていた方が突然「家で家族が待っている」「帰って夕食を作らないといけない」などと話し、職員に帰らせてほしいと嘆願します。

時には力ずくでも出ようと暴れたり大声で叫んだりすることもあるため、職員が手を焼くこともしばしばです。

有効な治療法

 

夕暮れ症候群や認知症そのものの治療法は、今のところ存在しません。

ただ、環境調整や生活習慣の見直しが有効とされているため、室内の照明を明るく保ち、日中は十分な自然光を浴びることで、体内時計の乱れを防ぐことができます。

また、安心感を与えるために、家族や介護者が穏やかに接することが症状の軽減につながります。

さらに、症状に対する対症療法として薬物治療が用いられる場合もあるため、症状が強い場合や改善が見られない場合は、医療機関に相談することをおすすめします。

夕暮れ症候群が夕方に発生する理由

夕方という限定された時間にのみ発生することには、何か意味があるのでしょうか。

これには認知症の中核症状を中心に、高齢者特有の性質や周囲の環境因子などが関係し合っているとされています。

原因として考えられているものを一つずつ解説します。

過去に繰り返されてきた習慣としての行動(生活歴)

 

これまでに何度も繰り返されてきた行動が原因の一つと考えられています。

例えば、男性であれば夕方になると仕事を終えて帰宅する、女性であれば家に帰って夕食の支度をするといった経験が記憶障害と相まって、帰宅願望が見られているのではないかとの考えです。

認知症の方は、最近の記憶はなくても、古い過去のことははっきりと覚えていることが多く、夕暮れ症候群でも過去の記憶に引っ張られるように帰宅願望を引き起こしていると考えられています。

日中の疲労の蓄積

 

疲労が蓄積すると脳の認知機能も普段より低下するため、周囲の様子や自身の置かれている状況を認識しづらくなります。

日中の疲れが夕方にピークを迎え、認知機能が低下している状態で徐々に暗くなっていく外の景色を見て、「もうすぐ夜になるから家に帰らないと」という行動を自然と行っているのかもしれません。

これ以上暗くなったら帰れなくなってしまうという不安も、症状を強める要因になります。

体内時計の変化

 

認知症高齢者の中には夜になっても眠れず、昼間にウトウトしてしまう昼夜逆転の傾向が見られる場合があります。

夜間に眠気を感じる仕組みには脳温が関係しており、成人の場合、午後9時をピークに脳温が急激に下がり始めることで眠気が起きるとされています。

しかし年を重ねることで、成人よりも早い時間に脳温の低下が見られ、徐々に早寝早起き型に移行していくという研究報告もあります。

朝が早い高齢者は私たちよりも夜の訪れが早く、夕方の眠気と日中の疲労とが重なることで、認知機能や記憶力を低下させ、夕暮れ症候群の発現に至っているのかもしれません。

薬による副作用

 

認知症のための内服薬や、そのほかの症状を抑える治療薬が持つ副作用によるものも考えられます。

高齢者は薬の副作用が強く現れる場合があり、また継続服用によって徐々に副作用が蓄積されている可能性も否定できません。

薬の副作用には不安を助長するものや、混乱や睡眠障害を引き起こすもの、日中でも眠気を感じることで認知能力の低下を招くものもあります。

もし新しい薬が処方されるとともに夕暮れ症候群が見られるようになったら、一度その薬を中止してみることで、副作用によるものか試してみるのもよいでしょう。

落ち着かない環境

 

帰宅願望は自宅においても発生します。

夕食の準備や洗濯物の取り込みなどで、夕方は周囲の人が慌ただしく動きだす時間です。

また、子どもが学校から帰ってきたり、仕事を終えて帰宅する家族がいたりすると、雑音や話し声が増え、認知症高齢者の周囲は一気に騒がしくなります。

このような落ち着かない環境がもたらす不安の増長も、夕暮れ症候群の原因の一つです。

施設でも、夕食前は職員が忙しそうに動き回っているのを見かけることで、落ち着きがなくなり、徘徊や帰宅願望を引き起こしているとも考えられます。

身体的な不調

 

栄養状態の悪化や便秘といった身体的な不調が関係して、帰宅願望や不安症状を引き起こしている可能性もあります。

また、脱水は脳の血流を悪化させるため、認知機能の低下につながります。

場合によっては腹痛や腰痛、膝痛などが原因となっていることもあるかもしれません。

認知症の高齢者は、便秘の苦しみや体の痛みなどの説明が、認知機能の低下によって難しいことがあります。

ご自身にも理解ができない体の不調から「今日はもう家に帰ります」と話されることもあるでしょう。

夕暮れ症候群は、このような利用者様からの訴えであるのかもしれません。

夕暮れ症候群の対応方法

夕暮れ症候群を発症している高齢者には、どのような対応が求められるでしょうか。

誤った対応を行うと、症状が治まるどころか逆に悪化することにもなりかねません。

いくつかのポイントがありますのでご紹介します。

話を聞く

 

まずは相手の話をしっかりと聞くことが大切です。

なんらかの理由で夕暮れ症候群を発症している場合、原因は体の不調であったり、疲労の蓄積であったり、記憶の混濁であったりといくつも考えられます。

しかし、必ず本人なりの理由があるため、しっかりと傾聴する中で原因を探り、一緒に問題解決を図る姿勢を持ちましょう。

否定しない

 

「帰りたい」と訴える利用者様に、「今日は帰れませんよ」と本人の希望を真正面から否定することは逆効果です。

帰れないことを告げられると、利用者様は帰れないという事実を受け止めることができず、より不安を強めたり、強く反発したりしてしまいます。

一度相手の話を受け入れ、その方の感情や考えをくみ取るように対応することが大切です。

気持ちをそらす

 

話を聞き、相手の気持ちを受け止めることができたら、解決策を考えましょう。

もしも過去の記憶に戻っていて、ご本人にとっての真実が家に帰ることであるなら、否定したり理屈で丸め込んだりするのではなく、気持ちを別のものにそらすように持っていくことが重要です。

例えば「帰る前にお茶でもどうですか」「一つだけお手伝いをお願いできますか?」などと話しかけてみます。

また、一緒に散歩するのもよいでしょう。

少し景色が変われば、利用者様の気持ちにも変化が出ます。

そして、ご本人が興味のありそうな話を振ってみましょう。

女性であれば庭の花壇を見てもらったり、料理の話をしたりした後に、「もうすぐ夕食ができるので食べていかれませんか」など誘ってみます。

話をしたり、散歩したりしている間に気持ちがそれたなら成功です。

否定することなく、ご本人の気持ちに寄り添うことを心がけて対応してみてください。

夕暮れ症候群を引き起こさないためには

夕暮れ症候群が頻繁に発生する場合、なんらかの原因が潜んでいることがあります。

その場での対応だけでなく普段のケアで対策をして、夕暮れ症候群の発症自体を抑えることが大切です。

対策によって夕暮れ症候群が軽減したのであれば、利用者様にとって過ごしやすい環境を実現できたといえるでしょう。

夕暮れ症候群を引き起こさないために効果的な方法を解説します。

落ち着いた環境の提供

 

認知症の高齢者は、周囲の環境変化から敏感に影響を受けることがあります。

テレビやラジオがついていることで落ち着く方もいらっしゃれば、にぎやかな音楽や最近の流行曲をうるさく感じて落ち着かなくなる方もいらっしゃるでしょう。

逆に静かな環境を好む場合や、古くから慣れ親しんだ昭和の歌謡曲を流すことで落ち着いて過ごされる方も見られます。

その方にとって、最適な環境を検討するためにいろいろと試してみると、よい結果を得られるかもしれません。

室内の照明

 

外が暗くなる夕方に夕暮れ症候群は発症するため、なるべく室内を明るく保つことも対策の一つとして有効です。

晴れた日は気分もよく爽快であるのに対し、雨の日や曇天の日はなんとなく気分が落ち込むようなことは、私たちにもあると思います。

これは体内における「幸せの三大ホルモン」の一つである、セロトニンという物質の分泌が、光の少ない暗い環境下では抑制されるからです。

そのため、室内の暗さが夕暮れ症候群などの精神的な不調を引き起こしていると考えられます。

夕方になる前に早めにカーテンを閉め、照明をつけて明るい環境を維持することで、症状を抑えることができるかもしれません。

軽食やおやつの提供

 

夕方になって小腹が空くようになると、夕暮れ症候群を発症することもあります。

15時ごろは体内のコルチゾールという物質の分泌が減少し、血糖値が下がりやすくなるため、利用者様も体の不調を感じやすくなっているのかもしれません。

また、脱水も脳の認知機能に影響を及ぼすことが分かっています。

おやつとともに水分もとることで、血糖の低下も脱水も両方を同時にカバーできるため、有効な手段といえるでしょう。

趣味やレクリエーションの時間

 

夕食前の忙しい時間帯には、職員によるレクリエーションなどの実施が困難な場合も多く、利用者様は手持ち無沙汰に感じているのかもしれません。

歌謡曲や、昔の映像をテレビで流すなど、利用者様が集中できそうなものを用意するとよいでしょう。

一人で楽しめる塗り絵やパズルなどがあれば活用し、何かに集中できる状態をつくることで夕暮れ症候群を予防できます。

役割の創出

 

高齢者の方も昔は会社の役職であったり、地域コミュニティの一員であったりと、社会や家庭においてなんらかの役割を担っていたかもしれません。

しかし年を重ねるにつれて役割を失い、認知症を発症してからは、ますます役割を持つことが難しくなっているでしょう。

役割の喪失がもたらす自己肯定感の低下が、周辺症状をより強めている可能性があります。

そのため、洗濯物を畳むのを手伝ってもらったり、食事の準備を手伝ってもらったりと、本人が得意なことを役割として持つことで、自身の居場所を認識して夕暮れ症候群の発症を抑えることにつながります。

生活リズムを整える

 

生活リズムが乱れると体内時計に変化が生じ、ホルモンバランスや脳の活動に影響が出ます。

朝は決まった時間に起きて、日光を浴びるようにしましょう。

太陽の光を浴びることでセロトニンが分泌され、体内時計をリセットすることができます。

日中に運動を行うことでもセロトニンの分泌が促進されるため、すっきりとした気分になり、うつ病や不安症状に対しても効果的です。

昼寝は控えめにし、夜は早めに寝ることで、次の日もしっかりと起きられるようになります。

生活リズムを整えることは日々の活動を支える土台となり、認知症による不安や夕暮れ症候群の解消にも有効です。

まとめ

夕暮れ症候群は、認知症の中核症状にさまざまな要因が関係することによって引き起こされる周辺症状です。

夕方になって空が暗くなり始めると、ホルモンバランスの乱れや疲労の蓄積、認知力の低下、過去の記憶との混濁などから帰宅願望を訴えるのが主な症状になります。

夕暮れ症候群の症状が見られたら、相手の発言を否定せずにしっかりと傾聴し、不安を引き起こしている原因を探りましょう。

そして、少しずつ気持ちをそらすように働きかけることが大切です。

ただし、夕暮れ症候群は忙しい時間帯に起こることから、対応が困難な場合もあるため、利用者にとって落ち着ける環境を普段のケアで実現していくことが大切です。