呼吸状態観察項目まとめ!正常値・チェック方法・異常の見分け方
呼吸は生命活動の根幹を担っており、そのわずかな異常が重篤な状態へとつながることも少なくありません。
特に看護や介護の現場では、呼吸状態の変化をいち早く察知し、適切な判断や対応につなげる力が求められます。
的確な呼吸観察は、急変予防や患者の安全確保に直結する、極めて重要なスキルです。
本記事では、呼吸状態の主な観察項目や異常パターンの見分け方をはじめ、視診・聴診といった具体的な観察方法を分かりやすく解説していきます。
さらに、呼吸状態の客観的な評価に役立つ測定ツールの種類や特徴についてもご紹介します。
日々のケアにすぐに生かせる知識を盛り込んでいますので、ぜひ最後までご覧ください。
呼吸状態の観察とは?
呼吸状態の観察は、患者さんの生命維持に直結する重要なフィジカルアセスメントです。
最初に、呼吸観察の基本と緊急性の判断について解説していきます。
呼吸観察の目的
呼吸観察の最大の目的は、患者さんの呼吸状態を正確に把握し、異常の兆候をいち早く発見することにあります。
呼吸は生命維持の根幹をなす重要な機能であり、その変化は時に生命の危機へと直結します。
そのため、日々の観察を通じて得られた情報をもとに、迅速かつ的確にアセスメントを行い、必要に応じて医師への報告や適切なケアにつなげることが看護師の重要な役割です。
呼吸困難のリスクと緊急性
呼吸困難には、「急性」と「慢性」の2種類があり、急性呼吸困難と見なされる状態は、緊急性が非常に高いです。
放置すると脳や心臓など重要な臓器にダメージが及び、生命の危機にさらされます。
このような状態に陥った場合は、ただちに医師へ報告し、早急に原因を突き止めて対処することが必要です。
呼吸困難のアセスメント方法
最初に行うのはバイタルサインの測定です。
同時にパルスオキシメーターで動脈血酸素飽和度も確認し、これらの情報から緊急に対応すべき状況かを判断します。
続いて、呼吸数や呼吸パターン、チアノーゼの有無といった情報を評価しましょう。
「息が苦しいですか?」などと問いかけ、患者さん自身が感じる苦痛の程度(主観的情報)を確認することも大切です。
これらを統合し、呼吸困難の程度や発生状況を把握しつつ、原因がどこにあるのかを分析・推測していきます。
呼吸状態を観察する方法
呼吸状態を観察する方法として、「視診」「聴診」「触診」「打診」という4つの評価項目を用いてフィジカルアセスメントを行います。
これらはそれぞれ異なる視点から情報を得る手段であり、組み合わせて活用することで、より正確な評価が可能となります。
ここでは、各評価方法の具体的な観察ポイントや活用場面について詳しく解説していきます。
視診
視診は、目で見て患者さんの呼吸状態を評価する、基本的な観察方法です。
呼吸の数、リズム、深さ、そして胸郭の動き(左右差、奇異呼吸の有無)を総合的に観察し、評価します。
肩を上下させて呼吸する「呼吸補助筋の使用」や、唇や爪が紫色になる「チアノーゼ」も、呼吸困難の重要なサインです。
声が出せるか、顔や首にケガはないか、喉をつかむような仕草(チョークサイン)はないかなどを確認し、全身の状態を素早く評価します。
聴診
聴診は、聴診器を使って呼吸音を聴き、肺や気道の状態を評価するアセスメントです。
左右差を評価するため、聴診器を肌にしっかり当て、片方ずつ交互に音を聴いていきます。
明瞭な呼吸音を得るため、患者には深呼吸を促しましょう。
正常な呼吸音だけでなく、「ゴロゴロ」「ヒューヒュー」といった異常な呼吸音(副雑音)が聴こえないかも確認します。
触診
触診は、患者さんの胸郭に直接触れることで、呼吸の状態を評価する方法です。
両手を胸に当て、呼吸による胸の膨らみに左右差がないかを確認します。
皮下に空気が漏れている皮下気腫の独特な感触(握雪感)も、触診によって発見できる重要な所見です。
口腔内や頸部の痛み・腫脹・変形の有無も、両手でやさしく確認します。
打診
打診は、胸郭を指で軽くたたき、その音の響き方から肺の状態を推測する手技です。
たたいた部位によって、以下のような3種類の音が聴かれます。
- 清音(せいおん):正常な肺など、空気を適度に含む部分の澄んだ音
- 濁音(だくおん):肝臓や心臓など、空気がなく中身が詰まった部分の鈍い音
- 鼓音(こおん):胃や腸など、空気がたくさん詰まった部分のよく響く音
正常な肺は空気を多く含むため清音がしますが、肺炎や胸水があると濁音に変わります。
主な呼吸状態観察項目の一覧
呼吸状態を正確に評価するには、複数の項目を統合的にアセスメントすることが重要です。
呼吸数やリズム、SpO2といった数値だけでなく、チアノーゼの有無や胸郭の動きなども見逃せません。
ここでは、臨床現場で必ずチェックすべき主な観察項目を具体的に解説します。
呼吸数
呼吸数は、1分間あたりの呼吸回数を示す値で、呼吸状態の基本となる指標です。
成人の正常値は12~18回/分とされ、これを基準に評価します。
25回/分以上の場合は「頻呼吸」、12回/分以下の場合は「徐呼吸」と呼び、どちらも体の異常を示すサインです。
ほかにも、「多呼吸」や「無呼吸」といった異常状態の種類があります。
呼吸リズム
呼吸リズムは、吸気と呼気、そして呼吸と呼吸の間の時間が一定であるかを見る項目です。
正常な呼吸は、規則正しく一定のリズムを刻んでいます。
リズム以上の呼吸として、無呼吸、過呼吸、減呼吸を周期的に繰り返す「チェーンストークス呼吸」や、不規則に速く深い呼吸と無呼吸を繰り返す「ビオ呼吸」などがあります。
呼吸の深さ
呼吸の深さは、一回あたりの換気量が適切であるかを示す指標です。
呼吸数だけでなく、一回ごとの深さも合わせて観察することが大切になります。
呼吸の深さが増大する「過呼吸」や、呼吸の深さが減少する「減呼吸」、非常に深い呼吸となる「クスマウル呼吸」などの異常のサインがあります。
呼吸音
呼吸音とは、聴診器を通して聴こえる「空気の出入り音」を指します。
「気管呼吸音」「気管支呼吸音」「肺胞呼吸音」「気管支肺胞呼吸音」の4つを、左右対称に1カ所1呼吸ずつ聴診するのが基本です。
音の減弱や、異常のサインである「副雑音の有無」を聴診し、肺や気道の状態を把握する情報とします。
サチュレーション(SpO2)
サチュレーション(SpO2)とは、パルスオキシメーターで測定される経皮的動脈血酸素飽和度のことです。
血液中のヘモグロビンが、どのくらいの割合で酸素と結合しているかを示します。
正常値は96~99%ですが、高齢になるほど数値が低下していく傾向です。
90%以下になると呼吸不全の状態を示唆するため、迅速な対応が求められます。
チアノーゼ
チアノーゼは、血液中の酸素が不足し、皮膚や粘膜が青紫色になる状態です。
酸素と結合していない還元ヘモグロビンが、100mLの血液中に5g以上増加すると出現します。
チアノーゼの種類として、「中心性チアノーゼ」と「末梢性チアノーゼ」があります。
胸郭の動き
呼吸に伴う胸郭の動きを見ることで、全体的な呼吸の状態だけでなく、左右の肺がきちんと機能しているかを判断できます。
片方の肺に気胸や無気肺、大量の胸水などがあると、患側の動きが健側に比べて悪くなります。
吸気時に胸郭下部が内側に陥没する現象は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんに見られる特徴的な所見です。
呼吸補助筋の使用
呼吸補助筋の使用は、呼吸困難が進行していることを示す重要なサインです。
安静時の呼吸は主に、横隔膜や外肋間筋などの動きによって行われます。
通常時とは異なり、首の「胸鎖乳突筋」や肩の「僧帽筋」といった筋肉(呼吸補助筋)を使用しているのは、呼吸にかかる仕事量が増大している証拠です。
患者さんが肩を上下させて息をしているように見えます。
会話の状態
会話の状態は、呼吸困難の程度を客観的に評価する指標となります。
患者さんが息切れしながら途切れ途切れにしか話せない場合は、呼吸状態がかなり悪化していると考えられ、緊急の対応が必要です。
意識状態の悪化が見られる場合、その背景に高度の低酸素血症、CO2ナルコーシス、アシドーシスなどの危険な状態が隠れている可能性があります。
呼吸状態異常の原因とその見極め方
呼吸の異常を発見したら、次はその原因を考えるアセスメントが必要です。
ここからは、観察された異常の原因と見極め方について詳しく見ていきましょう。
呼吸異常のタイプ別分類と主な原因
呼吸の異常は、主に「数(回数)」「深さ(換気量)」「リズム(規則性)」の3つの観点から評価・分類されます。
それぞれの異常パターンと推測される原因を、以下にまとめます。
【頻呼吸】
頻呼吸とは、呼吸数が正常範囲を超えて増加した状態、具体的には25回/分以上を指します。
1回の換気量は正常時よりも低下する傾向です。
発熱や不安、肺炎、低酸素血症、心不全の初期症状など、さまざまな原因で生じます。
【徐呼吸】
徐呼吸とは、呼吸数が正常範囲を下回り、12回/分以下に減少した状態を指します。
深さに変化はなく、1回の換気量は400~500mlです。
主な原因として、麻酔時、睡眠薬服用時、頭蓋内圧亢進、脳幹部の障害などが挙げられます。
【多呼吸】
多呼吸は、呼吸数が増加するだけでなく、一回ごとの呼吸の深さも増大した状態を指します。
呼吸数は20回/分以上、1回の換気量は500ml以上です。
主な原因として、胸水の貯留、二酸化炭素の蓄積、神経症、過換気症候群・肺梗塞が推測されます。
【無呼吸】
無呼吸とは、呼吸が10秒以上停止した状態を指します。
睡眠中に、この無呼吸が1時間に平均5回以上起こるようであれば、睡眠時無呼吸症候群と診断される可能性が高いです。
無呼吸による血液中の酸素不足は、心臓や脳の血管に大きな負担をかけ、脳卒中、狭心症、心筋梗塞といった重篤な合併症のリスクを増大させます。
【少呼吸】
少呼吸は、呼吸の深さが著しく浅くなる状態を指します。
呼吸数は12回/分以下で休息期が長く、1回の換気量は400ml以下です。
「低呼吸」とも呼ばれ、胸郭や腹部の動きが非常に小さくなり、換気量が大幅に低下します。
不可逆的な呼吸停止の直前、麻痺などで見られる状態です。
【過呼吸】
過呼吸とは、呼吸数が増加し、1回の換気量も増えた状態を指します。
主な原因として推測できるのは、運動直後や甲状腺機能亢進症、貧血です。
過呼吸が発生する代表的な疾患としては、精神的不安による過換気症候群が知られています。
呼吸リズムの異常パターンと原因
続いて、呼吸リズムの異常パターンと原因について解説します。
呼吸リズムの異常は、生命の危機に直結する重篤な病態を示唆することが多いため、特に注意深い観察が必要です。
【クスマウル呼吸】
クスマウル呼吸は、「速くて深い」規則的な異常呼吸パターンです。
呼吸数は20回/分以上で、1回の換気量は大きいもので1,000ml以上になります。
糖尿病ケトアシドーシスや尿毒症などの、代謝性アシドーシス患者に見られる異常パターンです。
体が酸性に傾く代謝性アシドーシスの状態を、呼吸によって代償しようとするときに現れます。
【チェーンストークス呼吸】
チェーンストークス呼吸は、浅い呼吸から徐々に深い呼吸へと変化し、その後また浅くなって10~20秒程度の無呼吸期間へと移行するものです。
これらの異常パターンが、30秒~2分程度、周期的に続きます。
チェーンストークス呼吸は、重度の心不全や腎不全、脳血管障害、薬物中毒(アルコール、モルヒネなど)、またさまざまな疾患の終末期などで認められる現象です。
【ビオ呼吸】
ビオ呼吸とは、呼吸リズムや呼吸数、換気量および無呼吸期間が、すべて不規則に混在する状態を指します。
チェーンストークス呼吸のような呼吸のリズムの周期性変化はありません。
主な原因として、脳炎・脳腫瘍・髄膜炎などによる頭蓋内圧の上昇や、脳卒中(脳血管障害)が挙げられます。
【減呼吸】
減呼吸は、呼吸の回数(リズム)と深さの両方が減少した状態です。
「低換気」ともいわれ、睡眠時にも見られることがあります。
代表的なのは、呼吸中枢の機能が低下して換気が不十分になる、中枢性肺胞低換気症候群です。
【失調性呼吸】
失調性呼吸とは、呼吸の深さ、リズム、回数のすべてが完全に不規則になった呼吸パターンです。
脳橋・小脳・延髄の出血や外傷、頭蓋内圧亢進、重症髄膜炎といった疾患が、呼吸中枢のある下部延髄に障害を及ぼすことで引き起こされると考えられています。
無呼吸失調性呼吸
聴診で聴こえる水泡音などの異常な呼吸音(副雑音)は、肺や気道の状態を知る重要な手がかりです。
以下より、代表的な副雑音であるラ音の種類と、主な原因疾患について解説します。
水泡音(コースクラックル)
水泡音は、「ゴロゴロ」「ブツブツ」といった低音の断続音で、発生する原因は気管支や細気管支に分泌物が貯留していることだと推測されます。
主な原因疾患は、肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、慢性気管支炎などです。
捻髪音(ファインクラックル)
捻髪音は、髪の毛を指でひねったときのような「パリパリ」「パチパチ」という、高音で細かい断続音です。
肺の間質という組織が厚く硬くなることで、虚脱していた肺胞が吸気時に急に開く際に発生する音を指します。
主な原因疾患は、過敏性肺炎、特発性肺線維症、じん肺、膠原病肺、放射線肺炎などです。
いびき音(ロンカイ)
いびき音とは、咽頭から気管支にかけての比較的太い気道が狭くなることで生じる、「ボーボー」という低音の連続音です。
主に、粘り気の強い痰などが気道に絡みついていることが原因と考えられます。
主な原因疾患は、気管支喘息、COPD、慢性気管支炎、DPB、気管支拡張症、分泌物の貯留、腫瘍による狭窄などです。
笛声音(ウィーズ)
笛声音は、末梢の細い気管支が狭くなることで生じる、「ヒューヒュー」「キューキュー」といった高い音の連続音です。
気管支喘息などで気道が収縮したり、むくんだりしていることが原因と考えられます。
主な原因疾患は、気管支喘息、COPD、うっ血性心不全、分泌物の貯留などです。
呼吸状態評価で使われる測定ツールの種類
フィジカルアセスメントを補完し、より客観的なデータを得るために使われるのが、さまざまな測定ツールです。
呼吸状態の評価で使われる主な測定ツールの種類と、それぞれの特徴について解説していきます。
測定ツールの正しい理解と適切な活用により、異常の早期発見や重症度の見極めにつなげることが可能になります。
肺機能検査(スパイロメトリー)
肺機能検査は、「スパイロメーター」という機械を使い、肺の換気能力を測定する検査です。
患者さんは、鼻をクリップで閉じた状態でマウスピースをくわえ、スパイロメーターに向かって呼吸し、吸気・呼気の量と速度を測定します。
喘息や慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患などの病気が疑われるときに使用される機器です。
カプノメトリー
カプノメトリーは、患者さんが吐き出す呼気の終末二酸化炭素濃度(EtCO2)をリアルタイムで測定・監視するツールです。
体内の換気が適切に行われているかを評価できます。
主に、人工呼吸器を装着している患者さんの呼吸管理に用いられる機器です。
心電図 / インピーダンス
心電図モニターの中には、「インピーダンス法」という原理を利用した、呼吸数の測定機能を備えているものがあります。
胸部に貼り付けた心電図電極間に微弱な電流を流し、呼吸に伴う胸郭の動き(インピーダンス=電気抵抗の変化)を検出して、それを呼吸数として表示する仕組みです。
この方法では体動なども呼吸として感知してしまうため、モニターの表示と実際の呼吸数にずれが生じることがあります。
そのため、正確な呼吸数を把握するには、呼吸測定も併せて行うことが重要です。
胸郭呼吸(圧電)
胸郭呼吸の測定には、「圧電センサー(ピエゾセンサー)」を用いた方法もあります。
これは、呼吸による胸郭や腹部の動きを圧力の変化として捉えるセンサーです。
センサーが埋め込まれたバンドを胸やおなかに巻き付けて使用します。
呼吸によってバンドが伸縮すると、センサーがその圧力を感知して呼吸波形として記録し、呼吸数を測定します。
フォトプレチスモグラフィ(PPG)
フォトプレチスモグラフィ(PPG)は、パルスオキシメーターでSpO2を測定する際に用いられている技術です。
指先に光を当て、血液量の変化(脈波)を検出しますが、この脈波には呼吸による周期的な小さな波が含まれています。
この小さな波を解析することで、呼吸数を推定することが可能です。
専用の機器を必要とせず、SpO2測定と同時に呼吸数もモニタリングできる技術として注目されています。
まとめ
呼吸は生命に直結するため、その変化を捉えることは看護の基本であり、患者さんの急変を早期発見するために不可欠です。
特に、急変の兆候を見逃さず、適切な初期対応へとつなげるためには、日々の観察が何よりも重要です。
呼吸数やSpO2といった数値だけでなく、視診・聴診で得られる情報や異常呼吸パターンに関する知識を統合し、アセスメントを進めなければなりません。
また、呼吸補助筋の使用やチアノーゼの有無、体位の変化など、わずかな変化にも注意を払う必要があります。
本記事で学んだ知識を参考に、患者さんの小さな変化も見逃さない確かな観察眼を養ってください。
患者さんの「いつもと違う」を見逃さないことが、命を守る第一歩となります。