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傾眠傾向とは何か?症状や対処法、リスクについても解説

傾眠傾向とは何か?症状や対処法、リスクについても解説

「傾眠(けいみん)」とは、本人に意識はあるものの、周囲からの刺激がないとすぐに眠ってしまうような状態を指します。

一見すると単なる「眠気」と受け取られがちですが、実際には日中の活動量や生活リズムに影響するだけでなく、体調不良や疾患のサインであることもあるため、適切な観察と対応が求められます。

本記事では傾眠の特徴や原因、関連する病気、そして介護の現場でできる対応のポイントについて、分かりやすく解説します。

傾眠の症状

まずは「傾眠」とは何かについて説明し、それがどのような意識障害の段階に位置づけられるのかを解説していきます。

傾眠がどの段階にあたるのかを理解しておきましょう。

傾眠とは

 

傾眠とは意識障害の一種で、外からの刺激があれば一時的に覚醒するものの、すぐに眠り込んでしまう状態を指します。

場所や時間が分からなくなる見当識障害や、直前の記憶が抜けているなどの症状が見られることもあります。

自発的な動きは少なく、寝たきりになりやすい一方で、食事を口に入れれば自分で咀嚼・嚥下できるケースも少なくありません。

傾眠の段階

 

意識障害には大きく分けて「正常(意識清明)」「傾眠」「昏迷」「昏睡」の4つの段階があります。

それぞれの状態には特徴があり、症状の程度や対応方法も異なります。

ここでは、これら4段階の意識レベルについて詳しく見ていきましょう。

 

1.正常な状態

意識が明瞭で周囲の状況を正しく把握でき、必要に応じて適切な判断を下すことができる状態を、意識清明といいます。

本人の思考や感情、感覚、言語などのやり取りに問題がなく、他者との円滑な意思疎通も可能であるため、一般的には正常な意識状態と表現されています。

このような状態からなんらかの原因によって意識が混濁し、判断力や認識力に支障が出るようになると、意識障害として医学的に評価されるのです。

 

2.傾眠の状態

傾眠とは、ウトウトと浅い眠りに入っているような状態で、完全に眠っているわけではないものの、意識がやや低下している状態を指します。

この状態では、軽く声をかけたり肩を軽くたたいたりと軽度の刺激を与えることによって、比較的簡単に意識を取り戻すことが可能です。

呼びかけに対して返答があり簡単な会話ができることもありますが、刺激がなくなると再び意識が薄れ、自然と眠りに戻ってしまうのが特徴です。

こうした状態が継続する場合は、傾眠と表現されます。

 

3.昏迷の状態

昏迷とは、強い刺激を与えなければ意識が戻らない状態を指します。

大きな声で呼びかけたり、体を強く揺さぶったり、爪でつねったりと比較的強い痛みや刺激を加えない限り、反応はほとんど見られません。

このような状態では周囲の状況に対して十分な反応ができず、意識レベルはかなり低下しています。

ただし、完全に無反応というわけではなく、痛みや刺激に対しては不快感から手で払いのける仕草をする、うめき声を上げる、叫ぶなどの反応が見られることもあり、このような意識レベルの状態を「昏迷」と呼びます。

 

4.昏睡の状態

昏睡とは、外部からどれほど強い刺激を加えても意識が戻らず、反応が一切見られない状態です。

声をかける・体を強く揺さぶる・痛みを与えるなどの行為をしても、目を開けたり不快感を示したりする素振りすらありません。

ただし、膝をたたいた際に足が動くといった脊髄反射や、排尿・排便などの自律的な生理機能は残っている場合が多く、完全に反応が消失している脳死とは異なります。

昏睡は、意識障害の中でももっとも重い段階に当たる状態とされています。

傾眠と嗜眠・浅眠の違いについて

傾眠と似た症状として混同されがちな「嗜眠(しみん)」と「浅眠(せんみん)」について、それぞれの特徴や違いを解説します。

いずれも眠気や反応の鈍さが見られますが、医学的な分類や原因には明確な違いがあります。

正しく理解することで、より適切な対応や判断につながるでしょう。

嗜眠と傾眠の違い

 

嗜眠とは、意識障害の中で傾眠と昏迷の中間に位置する状態であり、強い刺激を加えることで一時的に覚醒させることができるレベルの意識状態を指します。

この状態の方は普段よりも周囲の状況を把握しづらく、思考力や判断力も低下しているため、受け答えが遅くなったり、ぼんやりとした印象を与えたりすることがあります。

周囲からは、まるで極度に疲れているように見える場合もあるでしょう。

傾眠は名前を呼ぶ、肩を軽くたたくなどによって比較的容易に覚醒することが可能で、嗜眠よりもさらに軽度の状態を指します。

浅眠と傾眠の違い

 

眠りが浅く、日中に眠気やあくびが続くような状態は浅眠と呼ばれ、睡眠の質が低いことが原因です。

寝つきが悪いわけでもなく、睡眠時間も足りているのに疲れが取れない、夢ばかり見て熟睡できていないと感じる方も多くいます。

自律神経の乱れが浅眠につながることもあり、逆に浅眠が自律神経に悪影響を与える場合もあります。

一方の傾眠は睡眠障害ではなく、意識障害の一種です。

浅眠と傾眠は、いずれも眠気が見られる点では似ていますが、浅眠は睡眠の質の問題、傾眠は脳の意識レベルの低下という本質的な違いがあります。

傾眠の原因

ここからは、傾眠の原因として考えられる代表的な要因について詳しく解説していきます。

傾眠は単に眠気が強い状態というだけでなく、さまざまな身体的・精神的な異常や疾患のサインであることもあります。

原因を正しく理解しましょう。

認知症

 

認知症の方に見られる症状の一つとして、昼夜逆転による夜間の睡眠不足が挙げられます。

夜に十分な睡眠が取れないことで、日中に強い眠気が生じやすくなり、傾眠の状態に陥るからです。

これは、生活リズムの乱れが影響していると考えられています。

また、認知症の初期段階では「無気力な状態」や反応の乏しさが見られることがありますが、こうした状態が進行することで、周囲の刺激に対する反応がますます鈍くなり、結果として傾眠のような意識の低下になるケースもあります。

過眠症

 

傾眠と似た症状が見られるものに「過眠症」と呼ばれる睡眠障害があります。

過眠症の方は夜に十分な睡眠をとっていても、日中に強い眠気に襲われて眠り込んでしまうのが特徴です。

単なる疲れや寝不足とは異なり、生活に支障をきたすほどの眠気が突然現れるのが特徴で、代表的なのが「ナルコレプシー」と呼ばれる病気です。

発作的に強い眠気に襲われ、前触れもなく突然入眠してしまうもので、過眠症の一種に分類されます。

傾眠と同様に昼間に眠ってしまう点は共通しますが、原因や治療法は異なるため、正しい診断と対応が重要です。

慢性硬膜下血腫

 

「慢性硬膜下血腫」は、頭部への衝撃が原因で発症する脳の病気の一つです。

頭を打った際に脳とその外側にある硬膜の間に血液がたまり(血腫)、時間とともに徐々に血腫が大きくなり、脳を圧迫することでさまざまな症状が現れます。

血腫が拡大するにつれて傾眠傾向が見られるようになり、頭部を打ってから1~2カ月ほど経った頃に、頭痛や片側の手足の麻痺、それによる歩行困難などの症状が現れることがあります。

この病気は基本的に外科的な手術による治療が必要となるので、できるだけ早く異変に気づき、医療機関を受診することが重要です。

内科的疾患

 

発熱や代謝異常が起こると、体は不調を回復しようと強い眠気を感じ、傾眠状態に陥ることがあります。

これはエネルギーを節約し、修復に集中する生理的な反応と考えられます。

重い病気に限らず、かぜや疲労といった軽い体調不良でも同様の傾眠が見られるので、こうしたときは無理をせず、睡眠や休養をしっかりとることが回復を早めるポイントです。

脱水

 

高齢者は若い方に比べて喉の渇きを感じにくく、水分不足に気づかないまま脱水症状を起こしやすくなります。

脱水が進行すると脳を含む全身の機能が低下し、強い眠気や反応の鈍さといった傾眠傾向が現れることもあります。

年齢とともに体内に水分を蓄える力も落ちていくため、若い頃と同じ感覚で過ごしていると脱水症状になるかもしれません。

喉の渇きを感じていなくても、日頃から意識してこまめに水分補給を行うことが重要です。

薬の副作用

 

かぜ薬に含まれる成分や抗てんかん薬、認知症の治療に使われる薬の中には、傾眠傾向を引き起こしやすい性質を持つものがあります。

これらの薬は脳の働きに影響を与える作用を持っており、副作用として軽度の眠気や意識の低下が現れることがあるからです。

こうした薬を服用する際には、あらかじめ医師や薬剤師に副作用について確認しておくことが大切です。

特に高齢者や体調が不安定な方の場合は、少しの傾眠でも転倒や事故につながるおそれがあるため、慎重な服薬管理が求められます。

体力の低下

 

年齢を重ねるにつれて体力は徐々に低下します。体力が低下すると疲れやすくなり、その結果日中に眠気を感じやすくなるというケースもあります。

体力の低下に加えて神経伝達の働きも鈍くなるので、日中に強い眠気を感じたり、ぼんやりして反応が鈍くなる傾眠傾向が見られたりすることがあります。

低血圧

 

食事性低血圧も、傾眠の原因の一つです。

食後に血圧が急激に下がってしまう状態のことで、脳への血流が一時的に不足して眠気や倦怠感、場合によっては意識レベルの低下を引き起こすことがあります。

食事性低血圧は特に高齢者に多く見られる傾向があり、パーキンソン病やアルツハイマー病といった神経系の疾患、高血圧や糖尿病、脳血管障害などを持つ方に起こりやすいとされています。

傾眠のリスク

傾眠状態にあることで起こり得る、さまざまなリスクについて解説します。

傾眠はただ単に眠そうな状態と見られがちですが、実際には注意力や判断力の低下を伴い、転倒・誤嚥・生活リズムの乱れなど、日常生活に重大な影響を及ぼす可能性があります。

傾眠のリスクについて確認していきましょう。

誤嚥・窒息

 

誤嚥とは、食べ物や唾液が誤って気管に入り込むことです。

通常は咳で排出されますが、うまく吐き出せずに肺に入り込むと、肺炎や窒息といった深刻な問題を引き起こすことがあります。

傾眠傾向のある方は食事中にウトウトしてしまいやすく、特に嚥下機能が低下している高齢者では誤嚥のリスクがさらに高まります。

命に関わる事態を防ぐためにも、食事中の見守りや適切な介助が重要です。

転倒・転落

 

傾眠傾向にあると意識がはっきりせず、反応や判断が鈍るため、移動時にふらついて転倒や転落する危険があります。

特に車椅子に座っている際でも強い眠気から姿勢が崩れてずり落ち、骨折に至るケースも見られます。

こうした事故を防ぐには、傾眠が見られる段階でこまめに声をかけたり軽く刺激を与えたりしながら、姿勢を整えて安全を保ちましょう。

食欲低下

 

傾眠傾向が強まると食欲も徐々に低下し、次第に生活リズムが乱れやすくなります。

日中の活動量が減少すると食事の時間や睡眠のパターンも不規則になり、体力の低下や全身状態の悪化を引き起こす危険性が高まります。

特に食事量が少しずつ減っていく状況は注意が必要で、十分な栄養がとれなくなると栄養状態が悪化し、最終的には生命の危機に直結する可能性もあるので油断はできません。

こうした悪循環を防ぐには、日々のわずかな変化を見逃さずに早めの対応を心がけることが重要です。

傾眠の対処法

ここでは、傾眠傾向が見られる場合にどのように対処すべきか、その基本的な対応方法について解説します。

傾眠は単なる眠気とは異なり、体調や脳の働きになんらかの変化が起きているサインであることもあります。

適切な対処を行うことで症状の悪化を防ぎ、本人の安全と健康を守ることになるでしょう。

生活リズムを整える

 

朝起きたら、まずはカーテンを開けて朝の日差しを浴び、体内時計をリセットしてしっかりと体を目覚めさせるようにしましょう。

朝の光には、脳を活性化させて自然な覚醒を促す効果があります。

また、日中の活動量を確保して夜は早めに就寝するなど、早寝早起きを意識して規則正しい生活リズムを保つことが大切です。

このような生活習慣を意識することで、高齢者に多く見られる睡眠障害や日中の傾眠傾向といった不調の予防にもつながります。

睡眠環境を調整する

 

夜の睡眠の質を高めるには、寝具や環境を整えることが大切です。

肌触りのよいシーツや使用する方に合った枕・マットレスを使うことで、眠りにつきやすくなり、深い睡眠が得やすくなります。

また、近年ではスマートフォンを好んで使う高齢者も増えていますが、寝る直前にスマートフォンを使うのは避けるように伝えましょう。

スマートフォンやタブレットのブルーライトは脳を刺激し、眠気を妨げる原因となります。

遅くとも就寝の2時間前には電子機器の使用を控え、目と脳をしっかり休ませることが大切です。

熱や血圧を測る

 

急激な血圧の低下は、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症、高血圧、糖尿病といった慢性疾患や神経系の異常が背景に潜んでいる可能性があります。

一見すると軽い体調の変化のように感じられても、実は重大な病気の初期サインであることも少なくありません。

こうした体の異変を見逃さないためにも、日頃からこまめに血圧や体温を測定し、日々の健康状態を記録・観察することが大切です。

小さな変化に早く気づくことができれば、大きな病気の早期発見や重症化の予防につながる可能性が高まります。

医師に相談する

 

傾眠傾向が続く場合はなんらかの病気が隠れている可能性もあるため、早めにかかりつけの医師に相談するとよいでしょう。

中には、外科的な処置や手術が必要となる病気が潜んでいるケースもあり、放置すれば症状が悪化するおそれもあります。

原因が病気でなかったとしても、傾眠によって水分や栄養が十分にとれず、脱水症状や栄養不足に陥ることで、別の病気を引き起こす可能性もあります。

少しでも異変を感じたら自己判断で様子を見るのではなく、早めに医師に相談して判断を仰ぐことが大切です。

傾眠の方に気を付けること

最後に、傾眠傾向が見られる方に対して、周囲が特に気を付けておくべき重要なポイントについて解説します。

傾眠は単なる眠気とは異なり、体や脳の異常のサインであることもあります。

見過ごさずに日常の様子をしっかり観察して、適切な対応を行うことが大切です。

食事形態は適切か

 

食事中には、誤嚥による危険が伴うことがあります。

特に傾眠傾向のある方は、しっかりかまずに飲み込んでしまったり、汁物を口にした際にむせて咳き込んだりと、誤嚥のリスクが高くなります。

そのため、食事介助を行う際には体調や意識レベルをしっかり観察しながら、慎重に対応することが大切です。

必要に応じて医師や看護師、管理栄養士と連携し、本人が比較的覚醒しているタイミングでの食事提供や、適切な食事形態(とろみをつける・刻み食にするなど)について検討しましょう。

誤嚥を防ぐためには、多職種による協力と日々の観察が重要です。

運動をする機会はあるか

 

室内で過ごすだけでなく、天気のよい日には外に出て散歩をすることも、よい気分転換になります。

外の空気に触れたり、景色を楽しんだりすることでリフレッシュにもなり、また歩くことで適度な運動になって体力や身体機能の維持・向上も期待できます。

無理のない範囲で、ラジオ体操のような軽い運動を取り入れたり、近所を散歩する時間を設けたりするのがおすすめです。

昼寝の時間はあるか

 

日中の強い眠気が続く場合は、無理に我慢するのではなく、時間を決めて短時間だけ昼寝を取り入れるのも効果的です。

ただし、昼寝の時間が長くなりすぎると、かえって夜の睡眠に悪影響を及ぼすおそれがあるため注意が必要です。

昼寝の効果を最大限に引き出すためには、30分以内の短い時間にとどめるのがポイントで、時間になったらやさしく声をかけて起こすようにしましょう。

短時間の昼寝は、日中の眠気を軽減して脳の覚醒を促すとともに、夜の睡眠にも大きく影響しないとされています。

水分補給はできているか

 

高齢者の健康を維持する上で、水分補給は非常に重要です。

十分な水分をとることは、傾眠傾向の予防だけでなく高齢者に多く見られる熱中症や脱水症状の予防にもなります。

体内の水分量が減少しやすい高齢者にとっては、意識してこまめに水分を摂取する習慣が必要です。

特に午前中にしっかりと水分を補給しておくことで、体の巡りがよくなり、日中に感じる強い眠気や傾眠の頻度を徐々に減少させることも期待できます。

喉の渇きを感じていなくても、定期的に水分をとるよう心がけましょう。

まとめ

傾眠傾向は単なる眠気や疲労と捉えられがちですが、実際には体調の変化や疾患の初期サインであることも少なくありません。

特に高齢者では日常生活への影響が大きく、転倒や誤嚥、栄養状態の悪化といった深刻なリスクへとつながる可能性があります。

傾眠には多様な原因や症状があり、必要に応じて医療機関と連携をとることが大切です。

傾眠について正しく理解し、日々のケアに生かしていきましょう。