【介護コラム】近くて遠いー第8話ー

第八話
「私はこの家でずっと暮らしていきたい」というのが、Yさんと私が初めて知り合った時からの本人の意向であった。娘も娘婿もこの考えに賛同しており、そのために必要な手立てを今までもずっと取ってきた。
しかしこの夏の出来事でその考えは揺らぎ始めていた。今回は乗り切ることが出来た、だが次はどうだろうか。万が一誰にも気付かれないうちに息を引き取ることになったら、様々な「もしも」が娘夫婦の中で現実味を帯び、「だったら元気な内に人の目が常にある環境に移った方が良いのではないか」という結論を導き出していた。
特養申請をした。いくつか見学するために近々娘が帰国予定。
そんな連絡をしてきたケアマネジャーも、電話口で肩を落としている様子が元気のない口調から伝わってきた。要介護5、認知症、独居、家族は海外、待機者がいくら多くても、入所の優先順位は高くなることが予想された。
数ヵ月後、とある特別養護老人ホームに空きが出来た。ユニット型で、のびのびとした雰囲気に娘の心象もよく、入所に際しての面談が組まれることになったとの報告が入った。