【介護コラム】近くて遠いー第11話ー

第十一話
当初はその予定ではなかった。自分が行った事のない臨時のケアの影響か、スタッフが一人急に休みになったのか、理由は全く覚えていないが、Yさんが自宅で過ごす最後の夜のケアを私が対応することになった。
とにかく平静を装おう、普段と変わらない様子で振舞おう、そう決めて玄関を開けた。
いつもどおり冷蔵庫の中から本人が食べられそうなものを出し、意向を確認。今晩はコンビニの卵サンド。そのままだと素気ないから皿に盛り付けて出そう。飲み物はコーヒー。まるで朝ごはんのような献立だな。そんなことを心の中でつぶやいているとは知らず、きょとんとした表情で食事を済ませるYさん。
口腔ケア、トイレ誘導、寝巻きへの更衣介助、いつものように淡々とケアは進んでいく。「眠たくなったらベッドまでは一緒に行きますから」と娘婿に就寝介助はお願いすることにして、さて、最後になんて声を掛けようか
「お元気で」「会いに行きますね」そんなことは言えない。本人はまさか明日から環境が変わるなんて思ってもいないのだから。散々悩んで振り絞るように「これで失礼しますね」と声を掛けた途端、Yさんは両手で顔を覆って泣き出した。