【介護コラム】勝ち逃げー第3話ー

第3話
同行訪問自体は、大きなトラブルなく進んでいった。
入退室にはキーボックスの中の鍵を使用すること、台所は1階にあって、本人用の食器や本人用の食材がどこにしまってあるのか、後片付け後の生ごみ処理のルールや薬の保管場所について等々、ひと通りのレクチャーを受けた。
私が諸々の指導を受けている間、Iさんは終始穏やかにその様子を見守りながら、時々「そんなの適当でいいんだよ」と笑いながら声を掛けてきたりした。
入室時に感じた違和感が嘘のように晴れ、なんとも言えない和んだ空気の中で、私の初日は終了した。
事務所に戻ると、私は直ぐに事前のイメージと現実のギャップを埋めようと、手順書に注意点などを書き加えていった。自分用の資料が出来上がると、「これでいつでも一人立ちできる準備が整った」という気持ちが湧いてきた。
瞬間的に感じた違和感は、きっと緊張から来る一種の気の迷いのようなもので、いちいち思い悩むほどのことでもない。きっと直ぐに打ち解けて、お互いに訪問が楽しみになるに違いない。
その時の私には、まだそんな風に前向きに考えるだけの気持ちの余裕があった。