【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第1話ー

第1話
Yさん(当時35歳)は色白で、目はパッチリ二重瞼、鼻がスッと高く、いつもニコニコと笑顔の絶えない女性で、そして、重度の知的障害者です。自閉症もあって、輪ゴムと草花が大好きです。
室内ではいつも輪ゴムを口にピタピタと当てて、「ヨーヨーヨー」と満足そうに声を出します。
そんなYさんと私は、重度の知的障害者が日中利用する通所更生施設で、職員と利用者という関係で知り合いました。毎日がとにかく賑やかに過ぎていく施設の中で、Yさんはうっかりすると、そこにいることに気付かれないくらいに静かで、穏やかで、「凪」を擬人化したような存在でした。
「Yさんはしゃべらない人」、そんな認識でいたある日、先輩職員から「何年か前までは時々しゃべってた」という情報が舞い込んできました。いつもの笑顔のまま「この子はダメだあ」と歌うようにしゃべるのだそうです。
恐らく、生まれてからよく耳にしてきた「音」で自然と覚えてしまったのだろう、ということでしたが、「しゃべれるんだ」という喜びよりも、言いようのないもやもやが鳩尾の下あたりにこみあげてきました。
その日を境に、私の「『お早う』を聴こう作戦」が始まりました。戦略は至ってシンプルで、来る日も来る日もひたすら「お早う」を言い続け、いつかYさんからも「お早う」が返ってくるのを待つというものでした。