トイレ介助の適切な方法をシーン別に詳しく解説!配慮ポイントやよくある悩みも紹介

トイレ介助は、高齢者の方や障がい者の方が快適に過ごすために欠かせない重要なスキルです。
しかし、利用者の方に配慮しつつ介助するには、適切な方法や注意点を知る必要があります。
記事では、トイレ介助の基本手順をはじめ、シーン別の介助方法や負担を軽減するコツを詳しく解説します。
よくある悩みを解決するポイントも紹介していますので、参考にしていただけると幸いです。
トイレ介助(排泄介助)とは?必要なシーンは?
介護におけるトイレ介助とは、身体機能の低下により自ら排泄行為ができない方を補助することです。
しかし、その目的や種類などを知らない方も多いのではないでしょうか。
まずは、トイレ介助の目的や種類を確認していきましょう。
トイレ介助の目的
トイレ介助には、身体的・心理的・社会的な3つの目的があります。
まず、身体的な目的として、不要な老廃物を排出し、体内に毒素がたまるのを防ぐ役割があります。
排泄がスムーズに行えることで、健康を維持し、体の負担を軽減することが可能です。
心理的な目的では、失禁を防ぐことで、利用者が感じる恥ずかしさや情けなさといった精神的な負担を軽減できます。
これにより、要介護者の方の日々の安心感にもつながるでしょう。
さらに、排泄がうまくできるようになることで、外出の機会が増え、人との関わりやコミュニケーションの幅が広がります。
社会参加が可能になることで、生活の質(QOL)も向上し、生きがいを感じられるようになるでしょう。
トイレ介助の種類
トイレ介助には、次の3つの種類があります。
【ポータブルトイレ介助】
こちらの方法は、ポータブルトイレと呼ばれる持ち運び可能な簡易トイレを使用して行われます。
ポータブルトイレは少しのスペースがあれば、どこでも設置できるので、自らトイレに行くことが難しい場合に使用されるのです。
いくつか種類があり、高さ調整が可能なタイプや肘置きが備えられたタイプなどがあります。
【ベッド上の差込便器・尿器の介助】
こちらの方法は、寝たきりの方などがベッドに横になった状態で、差込便器や尿器を使用して行われます。
主に、尿意や便意を感じられたり伝えられたりできるが、立位や座位が保ちにくい場合に使用されます。
なお、尿器は男性用と女性用で受け口の形が異なります。
【おむつ交換】
こちらは、尿意や便意を感じにくかったり伝えるのが難しかったりする方に行う方法です。
定期的なタイミングでおむつをチェックし、排泄されていれば交換するという流れです。
また、交換する際は陰部の拭き取りや洗浄も同時に行います。
なお、おむつには「履くタイプ」と「テープタイプ」の2つの種類があります。
【シーン別】トイレ介助(排泄介助)の具体的な手順
トイレ介助は要介護者の方にとって非常にデリケートで、身体的にも心理的にも負担の大きい介助です。
そのため、適切な準備や手順が欠かせません。
ここでは、シーン別のトイレ介助の具体的な手順や気を付けるべき点を紹介していきます。
トイレ介助をする前に準備するもの
トイレ介助をする前に、いくつかの物品を事前に準備しておくことが大切です。
具体的には以下のものを用意しましょう。
- トイレットペーパーやお尻ふき
- 使い捨て手袋
- 新しいおむつや尿取りパッド(状況に応じて)
- 陰部洗浄ボトル
- お尻洗い(状況に応じて)
- 保湿剤(状況に応じて)
基本的には、どのトイレ介助でも上記のものを準備しましょう。
車椅子の方へのトイレ介助
ここからは、車椅子を使用している方へのトイレ介助について説明します。
全介助と一部介助に分けていますので、身体状況に合わせた方法を実践してください。
【全介助の場合】
全介助の場合は以下の手順で行います。
- 車椅子を便器に対して90度の角度に設置する
※狭いトイレでは車椅子を便座と向かい合わせにとめる - フットサポートを外し、床に足をつけてもらう
- 体に密着しながら肩甲骨と腰を支え、臀部を上げつつずらすように前方に移動する※この時点でベルトやファスナーを外しておくと、後の負担を減らせます。
- そのまま前傾姿勢にしつつ立ち上がる
※同時に手すりにつかまってもらう - 立ち上がった状態で便座の方に体を回転させる
- ズボンと下着を下げる
- 再び体に密着しながら肩甲骨と腰を支え、要介護者の方の高さに合わせたままゆっくり座る
- 体勢が安定しているか確認する
- プライバシーに配慮しつつ見守る
- 排泄が終われば清拭する
- 手すりにつかまってもらう
- 体に密着しながら肩甲骨と腰を支えた状態で要介護者の方の高さに合わせたままゆっくり立ち上がる
- 衣類を上げる
- 便座に座る際と反対の手順で車椅子に移乗する
【一部介助の場合】
一部介助の場合は、できるところは要介護者の方に行ってもらいます。
手順は以下のとおりです。
- 車椅子を便器に対して90度の角度に設置する
※狭いトイレでは車椅子を便座と向かい合わせにとめる - フットサポートを外し、床に足をつけてもらう
- 車椅子の前方へ少し移動してもらう
※この時点でベルトやファスナーを外しておく - 手すりにつかまってもらい立ち上がりを促す
※介助者は転倒を避けるために上半身や腰あたりを補助しましょう - 立ち上がったらお尻が便座に向くように体勢を変えてもらう
- ズボンと下着を下げる
- 便座に座ってもらう
※転倒しそうな場合は補助しましょう - 体勢が安定しているか確認する
※終わったら声かけするよう伝え、一度退出する - 排泄が終わったら拭くよう促す、もしくは介助者が清拭する
- 手すりにつかまってもらい立ち上がりを促す
※このときも転倒を避けるために上半身や腰あたりを補助しましょう - 衣類を上げる
- 便座に座る際と反対の手順で車椅子に移乗する
歩行可能な方へのトイレ介助
歩行可能な方への介助は、以下の手順で行います。
- 手引きや寄り添いをしながらトイレへ誘導する
※進行方向に障害物や段差がないか確認しつつ、要介護者の方のペースに合わせて誘導しましょう - 便座に背中を向ける形で立ってもらい手すりにつかまってもらう
- ズボンと下着を下げてもらう
- 難しい場合は介助者が行いましょう
- 手すりを使いながら座ってもらう
※不安定な方は上半身を補助する - 体勢が安定しているか確認する
- 安定している場合は一度トイレから退出する
※安定していない場合はプライバシーに配慮しつつ見守る - 排泄が終わったら拭くよう促す、もしくは介助者が清拭する
- 手すりを使いながら立ってもらい衣類を上げる
できる部分は自分で行ってもらいつつ、本人のペースに合わせて介助しましょう。
ポータブルトイレでのトイレ介助
ポータブルトイレでの介助は、以下の手順で行います。
- ポータブルトイレの近くに座ってもらう
※ベッドからの起き上がりが難しい場合は補助する - ベッドに浅く座るよう促し、足も引いてもらう
- 要介護者の方の腰と肩甲骨を支えながら前傾姿勢になってもらう
- 前傾姿勢になりながら立ち上がる
- そのままの状態でポータブルトイレに背中を向ける形で体を回転させる
- 介助者の肩に手を置いてもらい立位が保持できたらズボンと下着を下げる
- 要介護者の方の腰と肩甲骨を支えながらゆっくり座る
- 肘置きや手すりがある場合はつかんでもらう
- 体勢が安定しているか確認する
- 安定している場合は一度その場を離れる
※排泄が終わったら知らせるよう促す
※安定していない場合はプライバシーに配慮しつつ見守る - 排泄が終わったら拭き取りを促す
- 拭き取りが難しい場合は介助者が行う
- 便座に座るのとは逆の手順でベッドに移乗する
- ポータブルトイレの中身を片付ける
排泄が終わったら排泄物の処理を忘れずに行いましょう。
ベッド上でのトイレ介助
ベッド上でのトイレ介助は、次の3つがあります。
【差込便器を使う場合】
差込便器を使う場合は以下の手順で行います。
- ベッドに防水パッドを敷いておく
- おなかから太ももあたりが隠れる程度のバスタオルを用意し、要介護者の方の下半身を覆う
- ズボンと下着を脱ぐよう促す
※難しい場合は介助者が行う - 腰を上げるよう促し、便器が肛門の中心に位置するようにセットする
※このとき要介護者の方に声かけすることを忘れずに行いましょう。また、女性の場合は尿の飛び散りを防ぐため、陰部にトイレットペーパーを当てておきます。 - ベッドがリクライニングできる場合は上半身を上げる
※上半身を上げることで排泄しやすい姿勢にできます。ない場合はクッションなどを活用するとよいです。 - バスタオルで陰部が隠れているか、姿勢が安定しているかを確認する
- 排泄が終わったら知らせるよう声かけし、一度その場を離れる
- 排泄が終われば清拭する
- 陰部を洗浄する場合は、陰部洗浄ボトル(お湯)とお尻ふきで洗う
- 腰を上げるよう促し、衣類を上げる
腰を上げるのが難しい場合は、一度横になってもらい便器を当てた状態で再び仰向けになる手順となります。
【尿器を使う場合】
尿器を使う場合は以下の手順で行います。
- 介助する前にベッドに防水パッドを準備します
- 腰を上げてもらうよう促し、ズボンと下着を下げます
- 尿器を陰部に当てて準備ができたことを知らせます
※男性は横向き、女性は仰向けの状態の方が排尿しやすいです - 陰部が隠れるようにバスタオルをかける
- プライバシーに配慮しつつ見守る
- 排尿が終わったら拭き取りをする
- 腰を上げてもらい衣類を上げる
【寝たきりの方のおむつを交換する場合】
寝たきりの方のおむつを交換する場合は、以下の手順で行います。
- 腰を上げてもらい衣類を下げます
※難しい場合は一度横になってもらうとスムーズに下げられます - 排泄されているか確認する
- テープタイプの場合はおむつを開き、履くタイプの場合は横部分を手で切って広げる
※このとき、ある程度の汚れを取り除いておけば、後の負担が減らせます - 残った汚れをお尻ふきで拭き取ります
※拭き取りが難しい場合は、一度横向きにするとお尻全体を拭き取れます。また、水分を残さないようにしっかり拭き取りましょう。 - 皮膚トラブルがないか確認し、必要に応じて保湿剤を塗布する
- 要介護者の方の体を横向きにし背中側からおむつを当てる
- 再び仰向けになってもらいおむつをテープでとめる
- 腰を上げてもらい衣類を上げる
立位保持が困難な方のトイレ介助
立位保持が困難な方のトイレ介助は基本的に2人で行います。
しかし、何かにつかまれば立位できる場合は、1人で行う場合もあります。
【2人で行う場合】
2人で行う場合は、1人が体を支えて立位を保持し、もう1人が衣類の上げ下げや拭き取りを行います。
このとき、どちらがどの介助をするのかは、要介護者の方の体の大きさや体重、室内の広さを考慮して決めることが大切です。
また、介助者によっては腰を痛めやすい方もいますので、よく相談してから役割分担しましょう。
【1人で行う場合】
手すりや壁などにつかまることで立位を保てる場合は、1人で介助が可能です。
要介護者の方には手すりや壁につかまってもらい、その間に介助者がズボンや下着の上げ下げ、そして拭き取りを行います。
必要に応じて、便座に座る際のサポートも行い、利用者の安全を確保しながら介助を進めます。
トイレ介助(排泄介助)を行う際の配慮や注意ポイント
トイレ介助は、要介護者の方にとって非常にデリケートなことですので、介助者はプライバシーに配慮する必要があります。
ここからは、トイレ介助をする際の配慮や注意ポイントを紹介します。
トイレ周辺の環境を整える
トイレ介助はトイレの中はもちろん、周辺環境を整えておく必要があります。
具体的には以下のポイントを整えましょう。
- トイレや廊下、足元の照明
- 廊下やトイレの手すり
- 段差をなくす
- 開けやすいドアノブ
- 介助しやすい空間
上記のほかにも排泄中はなるべく1人になれるような配慮も必要です。
プライバシーに配慮する
排泄中に誰かに見られていると、うまくできないことは普通のことです。
座位が維持できる場合は外で待機し、座位が難しい場合は介助しつつも目線や姿勢は要介護者の方とは反対の方向に向けておくといった配慮が必要です。
また、ポータブルトイレや差込便器や尿器を使う場合も、タオルで陰部を隠すなどして対応しましょう。
声かけは積極的に行う
要介護者の方は、介助を受けているときに声かけがないと、とても不安になってしまいます。
そのため、動作をするタイミングで「立ちますね」「ズボンを下ろしますね」といった声かけは積極的に行いましょう。
また、自分でトイレを知らせるのが恥ずかしい方もいます。
トイレに誘うときは周りに配慮しながら声かけしましょう。
排泄のタイミングを把握する
排泄のタイミングを把握しておけば、トイレ誘導がしやすくなり、加えて失禁の心配を減らすこともできます。
タイミングは個々によって異なるかもしれませんが、毎日同じタイミングでトイレ誘導をすれば、排泄パターンを把握しやすくなります。
できる部分は自分でしてもらう
手順で紹介したように、トイレ介助といってもいくつかのステップに分けられます。
立ち上がりや衣類の上げ下げ、陰部の拭き取りなど、できる部分は自分でしていただくことも大切です。
自分で行ってもらえれば、リハビリにもつながり、運動機能の維持も期待できます。
せかすことは絶対にしない
要介護者の方は、できるだけ自分で排泄したいと思っています。
そのため、せかしてしまうと申し訳ない気持ちになり、排泄介助のお願いができなくなったり、トイレを我慢したりするようになります。
介助者側の発言には十分注意し、せかしたり失敗を責めたりせず、本人のペースに任せるようにしましょう。
寝たきりの方の場合は排泄しやすい方法を模索する
寝たきりの方は、もともとはトイレで排泄していたのが、急にベッド上で排泄するようになります。
突然環境が変わることになりますので、排泄がうまくいかなくなるのは当たり前のことです。
排泄時には、ベッド上での姿勢を工夫するなど、排泄しやすい方法を模索しましょう。
拭き方にも配慮する
拭き取りをする際は、以下のポイントに注意しましょう。
- 尿道から肛門に向かって拭く
- 粘膜部分は優しく拭く
- ガシガシ拭きすぎない
また、陰部はとてもデリケートな部分となりますので、素早く終わらせることが大切です。
陰部洗浄は1日1回以上行う
陰部はとても蒸れやすく、清潔にしておかないと尿路感染が起こりやすいです。
そのため、陰部洗浄は1日1回以上行うことが大切です。
特に排便時は清潔さを保つためにも、確実にやることをおすすめします。
水分摂取は積極的に
排泄で失敗させたくないために、水分摂取を制限するのは絶対にやめましょう。
高齢者は若い方と比べて脱水症状を起こしやすく、脳梗塞などの病気のリスクが高くなります。
また、便秘にもなりやすくなるので、体にとって負担になる可能性が非常に高いです。
そのため、適切な水分摂取を積極的に行うよう心掛けましょう。
気になることはすぐに相談する
トイレ介助では、排泄物も確認する必要があります。
排泄物は、その方の体の状態を知る上で非常に大切なものです。
場合によっては薬の服用が必要なケースもありますので、気になったことはすぐに相談し、適切な処置を検討しましょう。
事故の対策を講じる
トイレ介助は、足元が不安定な方の介助となりますので、事故が発生しやすいです。
要介護者の方を傷つけないためにも、事故の対策はしっかり行っておきましょう。
具体的には、室内で倒れても開けられるドアにしたり、段差を解消したりといった環境整備はもちろん、トイレ内の温度調整ができるように整備することも挙げられます。
トイレ介助の負担を軽くする福祉用具
トイレ介助は、介助する側にとっても身体的な負担が大きいものです。
便利な福祉用具をうまく活用することで、利用者の自立を促し、介助者の負担を大幅に軽減できます。
トイレ環境を改善する代表的な福祉用具を紹介するので、参考にしてみてください。
さまざまな形状の手すり
手すりは、移動や立ち座りの動作を安定させるもっとも基本的な福祉用具です。
廊下で体を支える「横手すり」や、立ち座りの際に縦方向に力を入れやすい「I字型(縦手すり)」、水平部分と垂直部分を組み合わせた「L字型手すり」などがあります。
また、車椅子からの移乗の際に邪魔にならないよう、使わないときに跳ね上げることができる「可動式手すり」も非常に便利です。
工事を伴う手すりの設置は介護保険の住宅改修の対象となりますので、まずはケアマネジャーに相談してみましょう。
滑り止めマット
トイレの床は、スリッパでの移動や尿の飛散などで滑りやすくなりがちで、転倒事故の危険性が高い場所といえます。
特に足腰の筋力が低下した高齢者にとって、足元の不安定さは無視できない不安要素です。
便器の周りやトイレの出入り口に滑り止めマットを敷くことで、転倒リスクの軽減に期待できます。
滑り止めマットを選ぶ際は、吸水性や速乾性に優れた素材かつ、マットの縁でつまずくことがないよう、できるだけ薄手で床に密着するタイプがおすすめです。
ポータブルトイレ
寝室からトイレまでの移動に時間がかかる、夜間に何度もトイレに起きる、といった場合に大きな効果を発揮するのがポータブルトイレです。
ベッドのすぐそばに設置することで、移動距離を最小限に抑え、転倒リスクを減らし、介助者の負担も軽減できます。
種類も豊富で、標準的なプラスチック製のものから、部屋のインテリアに調和する家具調のデザイン、体重のある方でも安心なスチール製などさまざまです。
ポータブルトイレは、「特定福祉用具購入」の対象品目に含まれています。
形状変換用便器
自宅のトイレが和式の場合、深くしゃがみ込んでから立ち上がる動作は、高齢者の膝や腰に大きな負担をかけます。
この問題を解決するのが、和式便器の上にかぶせるだけで洋式トイレのように使える「形状変換用便器」です。
立ち座りの動作が楽になることで、利用者本人が自力でトイレに行ける可能性が高まり、介助者の負担軽減にもつながります。
形状変換用便器は、介護保険制度における「特定福祉用具購入」の対象となっており、費用負担を抑えながら導入することが可能です。
補高便座
洋式トイレでも深くかがむのがつらい方のために、便座の高さを補うのが「補高便座」です。
既存の便座の上に取り付けるだけで高さを3~5cm程度高くでき、立ち座りの際に膝の曲げ伸ばしが浅くなることで、関節への負担軽減が期待できます。
利用者の身長や身体機能に合わせて適切な高さを選ぶことが重要で、高すぎると足が床から浮いてしまい、かえって姿勢が不安定になるため注意が必要です。
座ったときに足裏全体がしっかりと床につき、膝が90度程度に曲がる高さを目安としましょう。
クッション性の高いソフトタイプもあり、高さを補う補高便座も「特定福祉用具購入」の対象品目です。
ケア用品の選定方法
肌に直接触れるケア用品の品質は、利用者の快適性や皮膚トラブルの予防に直結します。
ここでは、代表的なケア用品の選定方法を解説します。
おしりふきの選び方
陰部の皮膚は非常にデリケートで、乾燥しやすく傷つきやすいため、おしりふきは肌への優しさを最優先に選びましょう。
まず基本として、刺激となるアルコールや香料が含まれていない「ノンアルコール・無香料」で、肌と同じ「弱酸性」の製品が推奨されます。
さらに、ヒアルロン酸などの「保湿成分」が配合されているものを選ぶと、拭き取り後の乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を守ることにつながります。
ゴシゴシこすると肌を傷つける原因になるため、一度で汚れをしっかり絡め取れるような、破れにくい「厚手で大判」タイプがおすすめです。
おしり洗いの選び方
排便後など、お湯だけでは落ちにくい汚れがある場合に重宝するのが、スプレータイプの「おしり洗い(洗浄液)」です。
製品を選ぶ際は、洗浄力と共に肌への配慮に注目する必要があります。
ベッド上でのケアや手早く済ませたい場面では、洗い流す必要のない「すすぎ不要」のタイプが非常に便利です。
泡で出てくる製品は、液だれしにくく汚れに密着するため、狙った場所を効率的に洗浄できます。
紙おむつの選び方
紙おむつは、利用者の状態に合わせて最適なものを選ぶことが、漏れや肌トラブルを防ぐ鍵となります。
以下のポイントを参考にして、利用者に適した製品を選定しましょう。
性別と用途
紙おむつ本体(アウター)は男女兼用の製品が主流ですが、尿取りパッド(インナー)には、体の構造に合わせて吸収体の位置を最適化した男性用・女性用があります。
また、体の状態や自立の度合い、尿の量(吸水量)や交換頻度、便の状態など、用途の観点でも、さまざまな選択肢が用意されています。
状況に合わせて、最適なものを組み合わせながら利用しましょう。
自立の度合い
利用者の身体能力や「自立の度合い」に合わせて、おむつのタイプを選ぶ方法もあります。
例えば、「歩ける・立てる」方には、自身で着脱しやすく下着感覚で使える「パンツタイプ」が適しています。
一方で、「寝て過ごすことが多い」方には、介助者がベッド上で交換しやすい「テープ止めタイプ」がおすすめです。
テープ止めタイプは体型に合わせて細かくフィット感を調整できるため、隙間からの漏れを防ぎやすいという利点もあります。
尿の量
尿の量に合わないおむつやパッドを使うことは、漏れや不快感、皮膚トラブルの直接的な原因になるおそれがあります。
日中の活動時間帯はこまめに交換することを前提に吸収量が少なめのものを、夜間や長時間交換が難しい場合は、吸収量の多い夜間用・長時間用を選ぶのが基本です。
排泄記録をつけて1日の尿量や排尿パターンを把握すると、より無駄なく適切な製品を選べます。
サイズ
おむつのサイズが合っていないと、漏れや皮膚のこすれの原因になります。
利用者のウエストとヒップのサイズを正確に測定し、パンツタイプは「ウエスト」、テープタイプは「ヒップ」のサイズに合わせて選びましょう。
大きすぎても小さすぎてもいけません。
交換する頻度
介護する側の生活スタイルや、1日に何回おむつを交換できるかという「交換頻度」も、製品選びの重要な要素です。
例えば、日中こまめに交換できる環境であれば、薄手で吸収量が標準的なパッドを使い、汚れたらその都度交換するのが衛生的で、肌への負担も少なくなります。
一方、夜間に介護者が睡眠時間を確保したい場合や、日中に仕事などで長時間家を空ける場合は、安心して過ごせる高吸収タイプのパッドとおむつの二重使いが最適です。
おむつの交換頻度は経済的な問題にも関係するので、しっかりとした検討が必要でしょう。
尿とりパッドの選び方
尿とりパッドは、紙おむつ(アウター)の内側に当てて使用する補助的な吸収パッドで、「インナー」とも呼ばれます。
汚れた際にパッドだけを交換すれば済むため、おむつ交換の手間とコストを大幅に削減できるのが最大の利点です。
パッドを選ぶ際は、使用しているアウターの種類に適合するものを選びましょう。
同じメーカーでそろえておくと、尿とりパッドがフィットしやすくなるのでおすすめです。
トイレの環境整備に使える制度
トイレの手すり設置や洋式化などの住宅改修、ポータブルトイレのような福祉用具の購入には、介護保険サービスを利用できる場合があります。
費用負担を軽減するために、以下に挙げた制度を積極的に活用しましょう。
住宅改修制度
要支援・要介護認定を受けている方が、生活の安全確保や介助負担の軽減を目的として住宅改修をする際に、費用の補助が受けられる制度です。
支給限度基準額は生涯20万円で、そのうち所得に応じて7~9割が保険から給付(自己負担は1~3割)されます。
対象となる工事の例は以下のとおりです。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 扉(引き戸)の取替え
- 和式便器から洋式便器への取替え
- 温水洗浄機能の取り付け
改修工事を実施したい場合は、ケアマネジャーに相談した上で、市区町村への事前申請が必要です。
工事の必要がない改修は対象外ですが、工事を伴わない手すり・スロープであれば福祉用具貸与の制度で対応できます。
※2025年9月時点
出典:厚生労働省「介護保険における住宅改修」
特定福祉用具購入
在宅で生活する要支援・要介護者が、入浴や排泄に用いる特定の福祉用具(レンタルが困難な品)を購入した際に、費用の補助が受けられる制度です。
購入費の上限は年間10万円で、そのうち所得に応じて7~9割が給付されます。
対象となる排泄関連用具の例は、以下のようなものです。
- ポータブルトイレ
- 補高便座
- 形状変換用便器(和式を洋式にするもの)
- 補高便座
- 自動排泄処理装置の交換可能部品
- 排泄予測支援機器
こちらも購入前にケアマネジャーへ相談し、原則として指定を受けた事業者から購入する必要があります。
年度が変われば給付上限はリセットされますが、同一品目の再購入は特別な理由がない限りできない仕組みなので注意しておきましょう。
※2025年9月時点
出典:厚生労働省「どんなサービスがあるの? – 特定福祉用具販売」
トイレ介助(排泄介助)のよくある悩みと対応方法
介助する側は要介護者の方が排泄しやすいように、さまざまな工夫をしていますが、それでもうまくいかないことは数多くあります。
ここでは、トイレ介助をする際のよくある悩みと対応方法を紹介していきます。
トイレの時間が長くなる
トイレが長くなる場合の原因と対応方法は以下のとおりです。
| 原因 | 対応方法 |
| 姿勢 | 猫背の姿勢は排便が出にくくなります。 両肘を太ももの上に置くような前傾姿勢になると排便しやすくなります。 |
| 環境 | 介助が必要であっても見られすぎていると出にくくなります。 視線や体の向きを別のところに向けるなど、なるべく1人で排泄できる環境づくりが大切です。 |
| 内服薬の副作用 | 服薬している薬の副作用も排便できない原因です。 ドクターや看護師に相談しながら、必要であれば排便を促してくれる薬を処方してもらいましょう。 |
頻尿や残尿がある
頻尿や残尿が見られる場合、その原因として蓄尿障害や排出障害、加齢による影響が挙げられることが多いです。
これらの症状は、「骨盤底筋群」や「尿道括約筋」、「肛門括約筋」の機能が低下することで引き起こされる場合があります。
対策としては、トレーニングを継続することで、予防や改善が期待できるケースがあります。
トレーニング方法については、後ほど詳しくご紹介しますので、そちらをご参照ください。
失禁してしまう
失禁してしまう場合の原因と対応方法は以下のとおりです。
| 原因 | 対応方法 |
| 蓄尿障害 加齢 認知機能の低下 | 決まった時間にトイレ誘導しましょう。 また、肛門や膣を5秒強く締めて緩めるトレーニングを1日50~100回程度行います。 尿意を感じたらすぐに教えてもらい、うまくできたら褒めたり喜んだりしましょう。 |
トイレ環境が狭い
トイレ環境が狭く、介助しにくい場合は以下の対応方法を試してみましょう。
- 車椅子を使用している場合は、使わないときは折りたたむ
- 介助する際は、前方からはかがんだ姿勢、それ以外は後方もしくは横から介助できるように訓練しておく
上記を試しても介助しにくいときは、トイレのレイアウトや設備そのものを見直すことも検討しましょう。
また、要介護者の方が了承してくれるならポータブルトイレを使用するのもよいでしょう。
便秘への対応が難しい
高齢者は、食事量や水分摂取量の減少、運動不足、腹筋力の低下、さらには服用している薬の副作用など、さまざまな要因が重なって便秘になりやすい傾向があります。
単に排便がない状態が続くだけでなく、腹部の不快感や食欲不振につながるため、生活の質を大きく低下させます。
薬に頼る前に、まずは生活習慣全体を見直すアプローチが重要です。
家庭でできる具体的な対策として、以下の点を試してみましょう。
| 生活リズムを整える | ・腸の動きが活発になる朝食後にトイレに座る習慣をつけ、便意がなくても数分間座ってもらうことで、排便のリズムを作る ・本人が便意を感じた際には、ほかのことを中断してでも最優先でトイレに行けるよう支援し、我慢させないことに留意する |
| 食事内容の工夫 | ・腸内で便を柔らかくするために、こまめな水分補給を心がける ・食物繊維を豊富に含む野菜、果物、海藻類、きのこ類などを積極的に取り入れる ・腸内環境を整えるヨーグルトや乳酸菌飲料などの発酵食品を活用する |
| 適度な運動とマッサージ | ・ウォーキングのような軽い運動で、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促す ・ベッド上で手足を動かす ・おへその周りを時計回りにゆっくりと「の」の字を描くようにマッサージする |
これらの対策を試しても改善が見られない場合は、ほかの病気が隠れている可能性も考えられます。
自己判断で市販の下剤を使用せず、必ずかかりつけ医や看護師に相談してください。
トイレを拒否されてしまう
介護の現場で頻繁に起こる「トイレ拒否」は、介護者を悩ませる問題の一つですが、その裏には本人なりの切実な理由が隠されています。
頭ごなしに否定したり、無理強いしたりすることは、かえって拒否的な態度をかたくなにし、信頼関係を損なう原因になるので控えましょう。
まずは「なぜ行きたくないのか」という背景を探り、その気持ちに寄り添う姿勢が何よりも大切です。
トイレ拒否の背景には、以下のようなさまざまな原因が考えられます。
| 心理的な理由 | ・介助されるのが恥ずかしい ・失敗するのが怖い ・迷惑をかけたくない ・何かに集中しているときに誘われると、それを中断されたくない |
| 身体的な理由 | ・便座が冷たくて座るのがつらい ・トイレが寒い ・移動や立ち座りで体に痛みがある ・そもそも便意や尿意を感じていない |
| 認知機能の理由 | ・トイレの場所や使い方が分からなくなっている ・尿意や便意そのものを認識できなくなっている |
まず原因を推測し、それを取り除く工夫に着手しましょう。
例えば、トイレを暖めておく、痛みの原因を探るなどの環境整備が有効です。
「トイレにいきましょう」という直接的な言葉を避け、「少し散歩しませんか?」「さっぱりしにいきませんか?」などと、本人の気持ちを尊重した誘い方を試す方法もあります。
時間を置いて再度声をかける、失敗しても決して責めずに「大丈夫ですよ」と安心感を与える対応を心がけることが重要なポイントです。
介助する側の負担を減らすコツ
質の高い介護を長く続けるためには、介助者自身の心身の健康を守ることも大切です。
ここでは、介助者の身体的負担、特に腰痛を予防するためのコツを紹介します。
介助しやすい環境を整える
介助者の負担を軽減するためには、まず安全で動きやすい環境を整えることが第一歩です。
手すりや補高便座といった福祉用具を適切に活用することで、利用者の残存能力を引き出し、介助の必要性を減らせます。
介助者が動きやすいスペースを確保し、無理な姿勢をとらなくても済むよう環境を再構築してみましょう。
介助しやすい姿勢を取る
介護における体の使い方の基本原則を意識することで、腰痛のリスクを軽減することが可能です。
介助のシーンごとにポイントを解説していきます。
脱衣させるときの介助姿勢
ズボンや下着を下ろす際は、介助者が中腰や前かがみになると腰に大きな負担がかかります。
利用者が手すりなどにつかまり立位が安定していることを確認した上で、介助者は膝を曲げ、両脚を開き、おしりを突き出すイメージで介助を進めましょう。
下半身の力が必要ですが、自分の重心が安定し、腰への負担を軽減できます。
着座させるときの介助姿勢
便座に座ってもらう際は、介助者は両足を前後に開き、体を安定させます。
利用者の体を自分の体に密着させるように引き寄せながら、ゆっくりと腰を落としていきましょう。
自分の体重を後ろ足から前足へ移動させるように、体全体を使うのがコツです。
おしりを拭くときの介助姿勢
排泄後におしりを拭く際は、利用者に手すりを持ってもらい、少し体を前に傾けてもらうと、介助スペースが生まれて拭きやすくなります。
介助者は利用者の横に立ち、片方の手を伸ばして拭きましょう。
前かがみになるのではなく、膝を曲げて腰を落とすことを意識すると、腰への負担を軽減できます。
立ち上がるときの介助姿勢
立ち上がりの介助は、腰を痛めやすい場面の一つです。
着座の介助と同様に、介助者は両足を前後に開いて体を安定させましょう。
利用者に前傾姿勢をとってもらい、重心を前に移動させながら立ち上がりを補助します。
腕の力だけで引き上げようとしないことが、腰を守るポイントです。
トイレ介助に記録が役立つ理由
日々の排泄状況を記録することは、質の高いケアを提供する上で有効な施策です。
面倒に感じるかもしれませんが、以下のようなメリットがあります。
排泄サイクルが分かる
毎日の排泄時間、尿や便の量、性状などを記録することで、その人の排泄パターンが見えてきます。
パターンが理解できると計画的なトイレ誘導が可能になり、失禁の予防にもつながります。
記録を見ることで、便秘や体調の変化にも気づきやすくなる点においても、トイレ介助の記録は有効です。
介護サービスを利用するときの参考になる
デイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用する際や、医師の診察を受ける際にも、排泄記録が役に立ちます。
口頭で説明するよりも正確に、客観的に利用者の状態を伝えることができ、より適切なケアや治療が期待できます。
介護情報を共有できる
家族や複数のヘルパーが交代で介護にあたる場合、排泄記録は重要な情報共有ツールです。
「昨日の夜は便が出ていた」「今日は尿量が少ないようだ」といった情報を全員で共有することで、一貫性のあるケアを提供できます。
まとめ
本記事では、トイレ介助の適切な方法をシーン別に詳しく解説し、配慮ポイントやよくある悩みも紹介しました。
トイレ介助は、身体的負担を軽減するだけでなく、介助を受ける方の快適な生活を支える大切なケアの一つです。
環境整備や適切な声かけを心がけることで、介助がスムーズになるだけでなく、心理的な負担の軽減にもつながります。
本記事で紹介した方法やポイントを活用し、安全で快適なトイレ介助を目指してください。






