【介護コラム】ALS(コイツ)と戦うー第8話ー

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介護ヘルパーとALSを発症した医師との実話
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ケアの記憶を頼りにイメージトレーニングを繰り返しながら、Sさんの自宅へと向かった。
すべての動きを集中しながら、流れるように行うケア内容。パズルを埋めるように一つひとつ意識の中に置いていく。しかし、どうしても思い出せないピースが点々と増えるにつれ、不安な気持ちが私を襲っていた。
Nとは自宅前で待ち合わせた。玄関ドアを開け、懐かしい夫婦の笑顔に少し不安がやわらいだのもつかの間、離れていた時間の長さを突き付けられた。
Sさんの言葉が聞き取れないのである。
必死に奥さんのリアクションや彼の聞きそうなことをつなぎ合わせて、私の2歳になる娘の成長を知りたいということがわかった。娘の成長を伝えると嬉しそうに笑顔を見せてくれた。まだ自分の感覚が戻っていないということを差し引いても、明らかに彼の発声能力は格段に低下していた。
これから行うケアに緊張している自分を隠すように娘の写真を見せながら、彼の嬉しそうな表情を眺めていた。
つづく