片麻痺とは?症状の改善に効果のあるリハビリの方法を解説

片麻痺(かたまひ)とは、どのような状態のことを指すのでしょうか。
この記事では、片麻痺の状態や原因について詳しく解説しています。
片麻痺の症状に効果のあるリハビリ方法や、自宅でできるトレーニング方法、片麻痺による事故を予防する方法を紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
片麻痺とは
そもそも、片麻痺とはどのような状態なのでしょうか。
片麻痺の状態や原因、症状について解説します。
左右のどちらかが麻痺する症状
体の左右どちらか一方に、麻痺の症状がみられるのが片麻痺です。
右脳または左脳に神経症状がある場合に引き起こされます。
脳がある位置とは反対側の体をコントロールしているため、右脳に問題がある場合は体の左側が麻痺し、左脳に問題がある場合は右側が麻痺します。
片麻痺になると筋肉が硬くなったり筋力が低下したりするので、日常生活に支障をきたしてしまうケースが多く見られます。
麻痺の程度には個人差があります。
片麻痺を発症してからの時期や個人に合わせて、リハビリを進めていくのが一般的です。
原因の多くは脳卒中によるもの
片麻痺を引き起こす原因となる、代表的な病気は脳卒中です。
脳に血栓が詰まって脳梗塞になったり、脳の血管が破れて脳出血やくも膜下出血になったりすると、脳の神経細胞がダメージを受けて片麻痺になることがあります。
頭を強く打つなど、頭部外傷が引き金となって片麻痺になるケースもゼロではありません。
慢性硬膜下血腫による片麻痺の場合、頭を打ってから数カ月後に症状が現れることもあります。
具体的な症状
片麻痺の症状は、右脳に損傷がある場合と左脳に損傷がある場合で異なる部分と、共通する部分があります。
それぞれの特徴を詳しくチェックしていきましょう。
右麻痺の症状
体の右側が麻痺するのは、左脳が損傷した場合です。
右麻痺特有の症状は、次のとおりです。
- 失語症
- 計算能力の低下
- 半側空間無視
右麻痺の場合、話す、聞く、読む、書くといった言語機能に障害が現れます。
左脳は言語機能をつかさどっているため、失語症は右麻痺の特有の症状です。
計算だけでなく考える力も低下してしまうため、焦りやいら立ちを感じやすくなります。
左麻痺の症状
体の左側が麻痺するのは、右脳が損傷した場合です。
左麻痺特有の症状は、次のとおりです。
- 失認
- 性格変容
失認とは、味や状況を判断する能力が失われる症状です。
右脳には空間を認識する機能があるため、失認は左麻痺特有の症状です。
また、優しい性格だった方が怒りっぽい性格に変わるなど、性格変容が起きやすくなります。
右麻痺と左麻痺に共通する症状
右麻痺と左麻痺に共通して起こるのは、運動障害と感覚障害の症状です。
片側の手足が自由に動かせなくなったり、感覚が鈍くなったりします。
左右それぞれの視野が半分欠けてしまう、半側空間無視も共通の症状です。
片麻痺の症状に効果のあるリハビリ方法
症状が発症した時期を3段階に分けてリハビリを進めるのが、片麻痺の一般的な治療法です。
片麻痺の症状に効果が期待できるリハビリの方法を紹介します。
急性期
急性期のリハビリテーションは、片麻痺の発症直後から2~3週間後まで行われます。
発症から48時間以内に開始するのが望ましいとされています。
発症直後は安静が必要ですが、長時間寝たきりの状態が続いてしまうと、麻痺した手足の関節が硬くなったり、筋肉が衰えたりします。
急性期には、安静による廃用症候群が起こる可能性が高くなります。
手足の関節を動かしたり、ベッドから起き上がったりするリハビリを行い、早期離床を目指します。
回復期
回復期のリハビリテーションは、片麻痺の発症後3~6カ月の間に行われます。
この期間はゴールデンタイムと呼ばれるほど、脳神経の機能回復がもっとも活発になる時期です。
座位訓練や立ち上がり訓練、歩行訓練の基本動作に加え、食事や着替え、排泄などのADL訓練を行います。
頭の中の動作イメージと、実際の動作のイメージを近づける時期です。
日常生活を送るための訓練を中心に行いながら、在宅復帰や社会復帰を目指します。
生活期
生活期のリハビリテーションは、片麻痺の発症後6カ月以降に行われます。
これまでの訓練によって回復した機能や能力を、長期間維持していくための時期です。
さまざまな訓練を繰り返し行うことで、動作のイメージを脳に定着させます。
目的や目標を設定すると、機能改善がスムーズになるでしょう。
自宅でできる片麻痺のトレーニング方法
片麻痺の症状を改善するためには、自宅でのトレーニングが重要です。
ここでは、生活期におすすめな片麻痺のトレーニング方法を解説します。
寝返り
寝返りのトレーニングには介助者が必要になります。
寝返りの手順は、次のとおりです。
- 麻痺していない足を、麻痺している足に引っ掛けるようにしてから両膝を曲げる
- 麻痺していない腕で、麻痺している腕の肘部分を持つ
- 膝を倒して麻痺している肘を引き寄せるようにしながら寝返りをする
背中に傾斜をつけると寝返りがしやすくなるので、クッションやタオルを敷いて調整してください。
介護者は寝返りを促す声をかけ、背中を手で支えながら、足りない力を補うようにサポートします。
最初は大きめのクッションで寝返りをサポートしますが、寝返りに慣れてきたら、徐々にクッションを小さくしていきましょう。
起き上がり
起き上がりのトレーニングにも介護者の付き添いが必要になります。
起き上がりの手順は、次のとおりです。
- 下半身をベッドの縁に移動させる
- 床に両足を下ろしながら、肘で体を支えて上半身を起こす
- 上半身を前かがみにした状態で、ゆっくりと起こしていく
- 麻痺している肘を前に出して、麻痺していない肘を伸ばす
- 体がまっすぐになった状態で座る
片麻痺があると骨盤が開いたり肩が開いたりするので、簡単に起き上がることができません。
介護者は顎を引くようにと声がけをしながら、右手で肩を支えて、肩と耳のラインがそろうようにしてください。
左手は骨盤が開かないように腰のあたりを支えて、背中を丸めながら起き上がるように声がけします。
筋力トレーニング
片麻痺の患者が筋肉トレーニングを実施することで、筋力アップの効果が得られます。
無理に関節を動かそうとすると負担がかかるため、無理のない負荷量で筋力トレーニングを行いましょう。
下肢の筋肉を強化するトレーニングメニューは、次のとおりです。
- 太もも上げ運動
- 膝伸ばし運動
- 足閉じ運動
- つま先上げ運動
どの運動も椅子に座った状態でできます。
介護者が状態に合ったメニューを選択し、危険のないようにそばでサポートしましょう。
ストレッチ
筋肉を伸ばすストレッチは、下肢の可動域を広げるのに効果的なトレーニングです。
体が硬くなっている場合は、マッサージをしてリラックスさせてから行いましょう。
下肢の可動域を広げるストレッチは、次のとおりです。
- 膝抱えストレッチ
- 太もも裏ストレッチ
- 足の指ストレッチ
ストレッチをしている間は、呼吸を意識させる声がけがポイントになります。
バランス訓練
バランス訓練は、立った状態を安定させる効果が期待できるトレーニングです。
下肢のバランス感覚が整えば、歩行の安定性を向上させることができます。
バランス訓練のトレーニングメニューは、次のとおりです。
- ブリッジ運動
- 骨盤の傾斜運動
- 立ち座り
バランス訓練を続けることで、転倒のリスクを軽減させることができます。
片麻痺で気を付けたい事故
片麻痺になると、転倒事故のリスクが増大するので大変危険です。
実際にあった事故の事例を紹介し、事故を防ぐための対策を解説します。
入浴時の転倒
浴室内の床はぬれていて滑りやすいため、転倒による事故がよく起こります。
浴槽に入るときは片足をあげる動作が必要になるので、麻痺している足を持ち上げることができず、バランスを崩して転んでしまうケースが多くなっています。
入浴時の転倒を防ぐためには、手すりの設置や滑り止めシートの設置が効果的です。
シャワーチェアを設置すると、浴室で移動しやすくなります。
お湯の温度を低めに設定しておくと、お湯の熱さに驚いて転倒してしまうことを防げるでしょう。
ベッドからの転落
ベッドから車椅子に移る際に、バランスを崩してベッドから転倒する事故も多く見られます。
車椅子のブレーキがかかっていなかったり、フットレストを上げ忘れたりと、不適切な移動介助も、転倒の原因になります。
車椅子へ移乗する前に、介護者がブレーキやフットレストを確認することが大切です。
また、座面に滑り止めのシートを敷いておくことも、転倒予防になります。
ベッドから車椅子への移乗をサポートする福祉用具もあるので、必要に応じて活用するようにしましょう。
片麻痺でリハビリをしない場合のリスク
片麻痺の状態のまま、リハビリをしないとどうなってしまうのでしょうか。
リハビリを怠った場合のリスクについて解説します。
自分の身の回りのことができなくなる
リハビリをしないと、歩行や食事、排泄などの生活動作が自分の力でできなくなります。
今まで当たり前にできていたことがまったくできなくなるのは、片麻痺の患者にとっては大きなストレスです。
長期間強いストレスにさらされると、一時的にうつのような状態になってしまうこともあります。
患者が身の回りのことができるようになるために、リハビリを続けていく必要があります。
関節が固まって動かしにくくなる
寝たきりの状態が長く続くと、関節拘縮が起こります。
関節拘縮とは、麻痺した手足の関節が硬くなり、動かせなくなってしまう状態のことです。
関節拘縮により床ずれなどの廃用症候群を発症することもあります。
片麻痺になってから早い段階でリハビリを開始することは、関節拘縮の予防に効果的です。
感情のコントロールができなくなる
片側の体が自由に動かせなくなると、ストレスが蓄積して、人や物にあたるようになる可能性があります。
性格変容の症状が悪化し、怒りの感情が制御困難になる方も少なくありません。
家庭内でのトラブルは、介護者にとっても大きな負担となります。
身体機能が回復して感情をコントロールできるようになるために、リハビリを欠かさずに続けていくことが大切です。
感覚障害が悪化する
リハビリをしないと、麻痺した手足の感覚が鈍くなり、痛みや温度が感じにくくなります。
症状に感覚障害が発生すると、やけどや凍傷などの二次的な損傷リスクが増大するので危険です。
悪化させないためには、寝たきりなど長時間同じ姿勢でいることを避ける必要があります。
感覚障害が続くと患者の睡眠の質が悪くなったり、生活の質が下がったりするので、リハビリで感覚機能を回復させることが大切です。
片麻痺の事故を予防する方法
片麻痺の事故は予防することが可能です。
事故の予防方法について解説します。
つえを使用してバランスをとる
歩行に不安がある場合は、つえを活用することをおすすめします。
つえをつくとバランスがよくなるので、転倒のリスクを減少させることが可能です。
片麻痺の患者も自力で歩きやすくなり、足への負担も軽減されます。
運動量が自然に増えるので、よいリハビリになるでしょう。
自宅に手すりを設置する
トイレや浴室、寝室に手すりを設置することで、介助なしでもスムーズに座ったり立ち上がったりすることができるようになります。
手すりにもさまざまな種類があるので、用途に合ったものを設置しましょう。
片麻痺の方が使いやすいように、麻痺していない側に手すりを設置することが大切です。
介護ベッドを導入する
介護ベッドとは、自動で高さを調整したり、背中の部分を上げたりできる特殊なベッドのことです。
車椅子への移乗や、姿勢を保つことをサポートしてくれます。
介護ベッドがあれば、立ち上がるときや、車椅子に移乗するときの転落・転倒リスクを軽減することが可能です。
専門家のサポートを受ける
生活の質を向上させるために、専門家のサポートを受けることも大切です。
片麻痺の原因となった病気が再発することもあるので、専門医から定期的な検診を受ける必要があります。
適切な介護サービスを利用するためには、自治体の福祉担当窓口で申請が必要です。
ケアマネジャーから認定調査を受け、要介護や要支援と認定されれば、在宅介護や訪問介護のサービスを受けることができます。
片麻痺に関するよくある質問
最後に、片麻痺に関するよくある質問に回答します。
片麻痺と半身麻痺の違いは?
半身麻痺は体の片側だけに麻痺の症状が出ていることを指す言葉のため、片麻痺と半身麻痺の意味は同じです。
一般には半身麻痺という言葉が使用されることもありますが、医学的な専門用語としては片麻痺と表現します。
片麻痺は一生治らないのか?
片麻痺が一生治らないと断言されることはありません。
ただし脳卒中になった場合、6%の方が寝たきりになり、50%の方はなんらかの後遺症が残るといわれています。
近年では再生医療や血栓溶解療法、血栓回収療法など医療技術の進歩により、以前よりも後遺症が残ることが少なくなったといわれています。
片麻痺のリハビリ期間は?
片麻痺の症状が軽度の場合で2週間~1カ月、中度の場合で1~3カ月、重度の場合で3~6カ月が目安です。
全身の動きに大きな障害がある場合は、さらに長期間のリハビリと継続的なサポートが必要になります。
リハビリの期間は、片麻痺の患者の状態に合わせて進められるのが一般的です。
専門家としっかり相談して、適切なプランを立てることが重要になります。
上肢と下肢には機能回復に差がある?
上肢の回復は下肢に比べて困難とされています。
理由は、脳の運動野から上肢への神経経路が複雑で、脳卒中によるダメージを受けやすいからです。
また、麻痺していない側の上肢を使うことで日常生活の動作がある程度カバーできてしまうため、麻痺した上肢を使う機会が減少し、上肢の機能回復が阻害されます。
どのようなリハビリ機器がある?
最新の片麻痺のリハビリ機器として、ロボットやトレッドミル、エルゴメーター、電気刺激装置、VRが活用されています。
ロボットは介助量が大きくて歩けない方に装着したり、電気刺激装置は手足に電気を流して筋肉の運動を促したりと、科学技術がめざましく進歩しています。
VRではゲーム感覚で体を動かすことを楽しめます。
まとめ
今回は、片麻痺の原因や症状について詳しく解説しました。
片麻痺は体の左右どちらかが麻痺してしまうことで、脳卒中などの病気がきっかけで起こります。
右麻痺と左麻痺では症状に違いがある部分もあるので、介護者は症状の違いを把握しておくことが大切です。
片麻痺で寝たきりの状態が続いてしまうことにはさまざまなリスクがあるので、発症後なるべく早い段階からリハビリを開始する必要があります。
継続的なトレーニングを続けることで、片麻痺の症状緩和や機能回復が期待できるでしょう。






