介護で役立つアンガーマネジメントとは?メリットや具体的な方法、学び方までを詳しく紹介

介護現場は心身ともに負担が大きく、ついカッとなってしまうことはよくあることです。
そのため、怒りの感情と向き合い、コントロールする「アンガーマネジメント」はとても重要です。
本記事では、介護に役立つアンガーマネジメントのメリット、実践法、学び方までを分かりやすく解説します。
「怒りたくないのに怒ってしまう…」と悩む方は、ぜひ最後までご覧ください。
介護で役立つアンガーマネジメントとは?
アンガーマネジメントとは、「怒り」という感情をコントロールするための、心理トレーニングのことです。
1970年代にアメリカで誕生したといわれており、当時は犯罪者を矯正するためのプログラムの一つでした。
現在では、企業や教育現場でも取り入れられるようになり、ストレスマネジメントや人間関係の改善、メンタルヘルスの維持といった分野で一般化されています。
アンガーマネジメントは怒りの感情を適切に表現するスキル
アンガーマネジメントと聞くと、怒りの感情を抑える方法をイメージする方も多いと思いますが、実際は怒りの感情を適切に表現するスキルを身に付けることが目的です。
そもそも怒りの感情は、人間が誰しも持っているもので、無理に抑えるべきものではありません。
重要なのは、怒りを感じたときにその感情だけに振り回されず、適切な行動をとることです。
感情と行動は別物ですので、「怒りを感じること」と「相手にぶつけること」はイコールではなく、自分の気持ちを整理した上で冷静に対処することが大切になります。
なぜ介護にアンガーマネジメントが必要?
近年、介護業界でもアンガーマネジメントが注目されています。
介護の仕事は人の役に立っていると感じやすく、やりがいがある一方で、心ない言葉をいわれたり、業務の負担が大きかったりと、ストレスやイライラを感じやすい職場でもあります。
「怒りの感情を持ったままのケアはよくない」と分かっていても、感情をコントロールするのは難しく感じるでしょう。
アンガーマネジメントで怒りのコントロールを身に付けると、利用者への対応が冷静かつ丁寧になり、職場での人間関係も改善されやすくなります。
また、自分自身のストレスを軽減し、心身の健康を守ることにもつながります。
介護におけるアンガーマネジメントを行うメリット
介護の仕事は、やりがいがある一方で、ストレスやイライラを感じやすく、怒りの感情をコントロールすることが難しい場面も少なくありません。
しかし、アンガーマネジメントを導入すると、感情をコントロールしやすくなり、利用者さんやスタッフ同士の円満なコミュニケーションにつながります。
ここでは、介護におけるアンガーマネジメントを行うメリットを確認していきましょう。
怒りの感情をコントロールできる
怒りの感情が出てきたときに、思わず怒鳴ってしまったり、周囲の方にあたってしまったりしてしまうこともあります。
また、その場では何も思わなくても、自宅に帰ってから家族にぶつけてしまう方も多いでしょう。
アンガーマネジメントを導入すると、自分が何に怒っているのか、怒りの感情を行動に出すとどうなるのかが冷静に理解できるようになり、感情をコントロールしやすくなります。
コミュニケーションがしやすくなる
アンガーマネジメントにより、自分の感情を理解しやすくなると、コミュニケーションがしやすくなるメリットもあります。
アンガーマネジメントは、自分の感情を客観的に理解するためのトレーニングでもあるため、今何に怒りを感じているのかを周囲にうまく伝えられるようになります。
落ち着いた言葉や行動に置き換えられるため、他者と円滑なコミュニケーションがとれるようになり、職場の雰囲気もよくなるでしょう。
ストレスが減る
介護の仕事中にストレスがたまってくると、余裕がなくなってきて、適切なケアができなくなります。
アンガーマネジメントは、自分の感情を適切にコントロールするために役立ちますので、ストレスを減らすことにもつながります。
ストレスを減らせれば、心にも余裕が生まれやすくなるため、冷静な対応や適切なケアが可能になるでしょう。
【事例】アンガーマネジメントを取り入れることで起こった変化
アンガーマネジメントを実際に介護の現場へ取り入れることで、職員の対応や職場環境にさまざまな変化が生まれます。
ここからは、アンガーマネジメントを実践したことで見られた具体的な変化を、いくつかの事例を通して紹介していきます。
クレーム対応の際に傾聴できるように
介護現場では、サービス内容や対応への行き違いから、ご家族からクレームを受ける場面が少なくありません。
例えば、ある方は提供できないサービスに対して「頼みごとをしたが聞いてもらえなかった」とクレームを受けました。
以前であれば反射的に反論してしまう場面でしたが、アンガーマネジメントを取り入れてからは、ひと呼吸おけるようになり、「仰るとおりです。それは怒りたくもなりますよね」と、まず相手の話を傾聴できるようになりました。
このように、怒りの感情だけで行動するのではなく、ご家族の気持ちを考えられるようになり、心の余裕や聴く姿勢といったスキルを身に付けることが可能になります。
認知症の方へ冷静な対応ができるように
介護現場で認知症を患っている方への対応は、疾患によるものと理解しつつも、暴言や罵りを受けると冷静さを失いやすいでしょう。
ある事例では、認知症を患っているAさんから「お前は何もできない。やめてしまえ!」といった暴言や罵りを毎日のように受けていたスタッフがいました。
そのスタッフは「なぜ自分だけこんなことを言われるのか…」と悩んでいましたが、アンガーマネジメントを学ぶことで「自分に向けられた言葉ではなく、認知症の症状によるもの」と、考え方が変わってきました。
また、自分が悩んでいることをチームで共有できるようにもなり、Aさんが怒りそうなときは対応を交代するといった対策がなされるようにもなりました。
このように客観的な考え方ができるようになり、さらにチームに共有できることで、心理的な負担を大きく減らすことに成功したのです。
ご家族にもアドバイスできるように
介護現場では、ご自宅で介護をしているご家族から、怒りや疲労について相談されるケースもあります。
例えば、認知症の夫を介護するBさん(奥さん)から、「ついカッとなってしまう。自分が介護しないといけないのに…」といったご相談がありました。
対応したスタッフは、以前であれば「怒っても意味がないですよ。ご本人も大変ですからね」といった、ご家族の気持ちを考えていない対応でした。
しかし、アンガーマネジメントを取り入れてからは「怒ってしまうのは当たり前のことですよね」と、まずBさんの気持ちを受け止め、傾聴ができるようになりました。
そして、Bさんの「自分がしなければ」といった思いを受け入れつつ、「◯◯といったサービスもあるので、一度ゆっくり休憩してみてはいかがですか?」と、アドバイスもできるようになりました。
このように、自分の気持ちだけでなく、相手の気持ちも客観視できるようになり、適切なアドバイスができるようになります。
職員間のコミュニケーションが円滑になった
介護現場では職員間のコミュニケーションが不可欠です。
そのためには、冷静なやり取りが必要ですが、状況によっては感情に任せて伝えてしまうこともあります。
ある事業所では、人手不足が深刻化していることで「自分だけ忙しい」「あの人は楽をしている」といった不満がチーム内で起こっていました。
そこで、事業所のリーダーがミーティングの際に、「感情のシェア」「助けてほしいこと」「感謝を伝える」といったコミュニケーションタイムを導入しました。
初めはチーム内で戸惑いがありましたが、少しずつ感情の共有やお互いを理解する場面が生まれてきて、建設的な話し合いができるようになりました。
このように、個人だけでなくチーム内でのアンガーマネジメントにより、職員間のチームワークの向上にも役立ちます。
介護で役立つアンガーマネジメントの具体的な方法
ここからは、介護で役立つアンガーマネジメントの具体的な方法を紹介していきます。
実際の介護現場で感情に振り回されず落ち着いた対応ができるようになるために、ここで確認していきましょう。
深呼吸しつつ6秒数えて怒りをやり過ごす
怒りを感じた際は、まず深呼吸しながら6秒数えるのがおすすめです。
人間が怒りを感じた際のピークは約6秒間といわれており、それを過ぎると瞬間的な行動が抑えられ、冷静な判断ができるようになるとされています。
ポイントは、数える際にできるだけ落ち着いてゆっくり行うことです。
また、1から数えるのではなく、100から減らしていく、英語でカウントするといった方法も、瞬間的な怒りを抑えやすいといわれています。
少しその場を離れ気持ちを入れ替える
怒りを抑えられないと感じたら、その場を少し離れ気持ちを切り替えるのも、アンガーマネジメントで取り入れられる方法の一つです。
イライラがたまると、忘れようと思っても忘れられない怒りが起こりやすいものです。
しかし、現場を少し離れてみると、イライラが整理できたり、気持ちを落ち着かせたりできます。
介護現場ではなかなか持ち場を離れるのが難しいかもしれませんが、手の空いたところで「トイレに行ってきます」「少し離れます」と言って、5分程度離れてみましょう。
意識的に笑顔を作ってみる
イライラを感じた際は、あえて作り笑顔になってみることもおすすめです。
実際に、口角を上げるだけで、脳は「今楽しいんだ。うれしいんだ」と勘違いして、ストレス解消やリフレッシュ効果があると明らかになっています。
イライラを感じた際は、険しい表情ではなく、あえて作り笑顔をやってみることで、自分の幸福感も上がり、周囲にも伝染して職場の雰囲気もよくなるでしょう。
心の中で「落ち着こう」と何度も唱える
怒りの感情が出てきて突発的に行動しそうになったら、心の中で「落ち着こう」と何度も唱えてみるのも方法の一つです。
人間は自分が発する言葉を何度も復唱することで、実際にそうなろうとする「自己暗示の効果」があります。
そのため、「落ち着こう」といったポジティブキーワードを何度も唱えていると、実際に気持ちが落ち着いてくるケースも少なくありません。
そのほかにも「大丈夫」「こんなの楽勝」「寝たら忘れる」といった、自分の気持ちが冷静になれるポジティブキーワードを唱えるのもよいでしょう。
少し何か食べてリフレッシュする
持ち場を離れられる場合は、少し何かを食べてみるのもおすすめです。
イライラしやすいときは、脳のエネルギーが不足している場合があり、集中力の低下や感情の不安定につながっている可能性があります。
特に糖質やビタミンB群不足は、イライラの原因になりやすいといわれていますので、間食として食べ物や飲み物を摂取してみるとよいでしょう。
グーパー運動で意識をそらせる
グーパー運動とは、手をしばらく強く握って、開くといった運動のことです。
グーパー運動は、力を入れたり緩めたりを繰り返す動作で、力の入っている心や体をリラックスさせてくれるといわれています。
また、手を動かす動作に意識が向くので、イライラを鎮める効果もあります。
ポイントとしては、怒りを込めるように強く手を握りしめ、解放するように手を開くことです。
感情をノートに書いて気持ちを整理する
怒りの感情が出てきた後、人によってはそのイライラを引きずってしまう場合もあります。
その場合は、感情をノートに書いて気持ちを整理するのがおすすめです。
感情を頭で整理しようとすると、自分が何にイライラしているのか、どうすればよかったのかといった客観視が難しくなります。
しかし、ノートに感情を書くと自分の気持ちが整理しやすくなり、その後の対処方法も見つけやすくなります。
書くのが苦手と思う方は、ノートに「何にイライラしてる?」と書いてみたり、怒りレベルを点数にして記録してみたりするとよいでしょう。
「~すべき」を緩める
怒りが出てくる場面は「~すべき」「~しなければならない」といった、自分や他者に対して「こうあるべき」という考えから発生することもあります。
この「~すべき思考」は、個々の価値観や固定概念から来るもので、相手や状況が自分の理想どおりに動かないと強い不満や怒りにつながってしまいます。
対策としては、まず「すべき思考」をしている自分に気づき、「本当にそうなのか?」「必ずそうでなければいけないのか?」と問いかけてみるのが効果的です。
すべき思考は、一つの考えに固執していることで起こりやすいため、「ほかの方法もあるかもしれない」「その人なりの事情があるのかも」といった別の考えや柔軟な視点を取り入れることが有効です。
感情のうち、コントロールできるものだけに専念する
アンガーマネジメントは、基本的に相手ではなく自分を変えるために行われるトレーニングです。
また、怒りの感情が出てくる場面は、自分でコントロールできないケースも少なくありません。
そのため、自分でコントロールできることだけに集中し、コントロールできないことは受け止めたり「考え方が違うだけだ」と思ったりするようにしましょう。
怒って意味があるかを考える
瞬間的に怒ってしまうときは、怒った後のことを考えていない場合がほとんどです。
しかし、冷静になって考えてみると「怒るようなことではなかったかも…」と後悔することも多いでしょう。
怒って意味があるケースも必要かもしれませんが、それで相手をコントロールしようとするのはよいことではありません。
イライラを感じるときは、まずは冷静になり、怒る意味はあるのかを考え、伝えるときも感情に任せず落ち着いた口調で話すように心がけましょう。
怒った理由を分析してみる
イライラやストレスの要因について分析してみるのもおすすめです。
例えば、言われたくないことをいわれた場合、「なぜあの人はあんなことを言ったのだろう…」と、考察してみてください。
できればノートに書いてみて、思い当たる考えを全部挙げてみるのがよいでしょう。
書いてみることで、イライラした原因が分かりやすくなり、その後の対処法も見つかりやすくなります。
介護施設全体で取り組むことも重要
個人で感情をコントロールできるようになっても、現場では突発的なトラブルや人間関係の摩擦が避けられない場面もあります。
そのため、アンガーマネジメントは、チームや施設全体で取り組むことも重要です。
チーム内で対応方法を決めておく
介護現場では、個々の対応よりもチームワークのほうが重要です。
もし、対応が難しい利用者さんがいた場合、あらかじめチーム内でどのような対応を行うのか決めておくことも大切です。
また、困ったことがあれば情報共有し、適切な対処法を聞いておけば、その後のイライラを防ぐことにもなるでしょう。
管理職からのサポートも必要
アンガーマネジメントを取り入れる際は、管理職のサポートも重要です。
管理職は「感情的になるのはよくない」と指摘するのではなく、チーム全体の怒りに関する理解や、具体的な解決方法を冷静に分析する必要があります。
また、勤務時間や休憩時間が適切であるか、人員は不足していないかといった、施設全体のマネジメントも必要となってきます。
もちろん、管理職自身もイライラやストレスを感じると思いますので、場合によっては専門家や管理職同士のサポートも取り入れていくとよいでしょう。
アンガーマネジメント以外の怒りを抑える方法
介護現場で怒りのコントロールを身に付ける方法は、アンガーマネジメントだけではありません。
以下に日常でやっておきたい怒りを抑える方法を紹介しますので、参考にしてください。
- 睡眠時間は7~9時間は確保する
- 定期的な運動を心がける
- 相談できる相手を見つけておく
- 趣味を見つけて楽しむ
それでも怒りを抑えきれない場合は
アンガーマネジメントや、そのほかの方法を試してみても怒りを抑えられない場面も、人間ですので当たり前にあるでしょう。
大切なのは「怒らない自分」になることではなく、怒りとうまく付き合える環境や方法を見つけることです。
怒りが強くなりすぎてしまうと、心身に負担をかけたり、介護の仕事そのものを続けるのが苦しくなったりすることもあります。
ここからは、具体的にできる対処法を4つ紹介していきます。
上司や同僚に相談する
まず、上司や同僚に相談してみましょう。
相談することで、自分では見えなかった視点や的確なアドバイスがもらえるかもしれません。
介護現場では同じような経験をしている人も多いため、共感してもらえるだけでも気持ちが軽くなることがあります。
また、相談を通じて業務の調整やサポート体制の見直しにつながるケースもあります。
しばらくお休みをもらう
上司や同僚に相談しても、自分の気持ちがスッキリしないときは、しばらくお休みをもらうのもよいでしょう。
事業所によっては人員不足によりお休みを取りにくい場合もありますが、自分の健康のほうが大切です。
時間を空ければ、冷静に怒りの感情と向き合える時間も増えますので、気持ちを整理したりリフレッシュしたりする機会にもなります。
思い切って職場を変えてみる
どうしても勤めている職場が合わないと感じたら、思い切って職場を変えてみるのも一つの選択肢です。
例えば、禁止されている医療行為が日常的に行われていたり、上司からパワハラを受けていたりする場合は、アンガーマネジメントだけでは解決できない問題です。
そのような場合には、問題解決を模索するよりも自分に合った環境を探すほうが心身の健康につながるでしょう。
怒ってしまっても自分を責めない
アンガーマネジメントを含めたさまざまな方法を試しても、怒りの感情をコントロールできなくても、自分を責めることは絶対にやめましょう。
怒りの感情が出てくることは人間として当たり前のことで、介護現場ではむしろ避けられないことでもあります。
大切なのは感情を抑えることではなく、怒りの感情に気づき、感情の表出方法を学ぶことです。
「ほかの同僚はできているのに…」とは思わず、自分なりの方法で対処法を知っていきましょう。
介護で役立つアンガーマネジメントを学ぶ方法
アンガーマネジメントは、知識として知っているだけではなく、実際に練習しながら身に付けることで効果を発揮します。
学び方としては、専門的な指導を受けられる研修や講座を活用する方法や、自分のペースで取り組める書籍を通じて学ぶ方法があります。
以下では、それぞれの特徴や活用の仕方について紹介しますので、実際に学ぶ際の参考にしてください。
研修や講座を受けてみる
アンガーマネジメントは、研修や講座で学ぶことが可能です。
研修や講座には、基礎から応用までを学ぶものや、中には資格を取得できる講座もあります。
以下におすすめの講座を紹介しますので、気になるものがあれば、積極的に受けてみてください。
- アンガーマネジメント入門講座
- アンガーマネジメント応用講座
- アンガーマネジメント診断講座
- アンガーマネジメントファシリテーター養成講座(資格取得可能)
本を読んで学ぶ
手軽にアンガーマネジメントを学びたい方は、本を活用して学ぶのがおすすめです。
本であれば空いた時間で手軽に読めて、知識の向上に役立てられます。
介護業界に特化したアンガーマネジメントの書籍もありますので、自分の経験と照らし合わせながら活用しましょう。
ただし、本を読むだけではスキル取得になりませんので、実践まで行うことを意識しましょう。
まとめ
本記事では、アンガーマネジメントとは何かに言及し、そのメリットや介護で生かすための具体的な方法、学び方までを紹介しました。
介護現場では怒りやストレスが生じることが多くありますが、アンガーマネジメントを取り入れることで、冷静で丁寧な対応ができ、職場の人間関係やチームワークの改善にもつながります。
個人で簡単に取り入れられる方法もあり、また施設全体で取り組むことも重要ですので、まずは一つ実践してみて、怒りとうまく付き合うスキルを少しずつ身に付けましょう。






