弄便(ろうべん)とは?症状や原因、未然に防ぐための対策までを詳しく解説

弄便(ろうべん)とは、便を手でいじる行為を意味します。
認知症に伴う症状の一つといわれており、繰り返されると介護者にとって大きな負担となることも少なくありません。
では、なぜ人は弄便をしてしまうのでしょうか?
本記事では、弄便の症状や原因、発見時の対応、予防のための具体的な対策まで詳しく解説します。
身近な方に弄便が見られて不安を感じている方は、最後までご覧いただき、適切なケアのヒントを得ていただけますと幸いです。
弄便とは?
弄便とは、下着やおむつ内の排泄物に直接触れたり、こすりつけたりする行為のことです。
一度弄便が見られると、何度も起こるケースが多く、そのたびに介護者が処理しなければならず、負担が増します。
そのため、原因や適切な対応方法、予防策について理解することが大切です。
ここでは、弄便とは何かを詳しく紹介し、どのような行動が見られるのかについて解説していきます。
認知症の症状の一つ
弄便は、認知症に伴う症状の一つとされており、下着やおむつ内の不快な感触、便の存在を感じることが薄れるなどによって引き起こされるといわれています。
排泄物であることから、介護者にとっては気持ち悪さやショックが大きいところもありますが、ご本人は悪気があって行為に及んでいるのではありません。
ただし、弄便は衛生面や介護負担という観点からは決してよいとはいえないため、適切な対応や予防策を知ることが大切です。
弄便した方が行う具体的な行動
弄便される方が行う具体的な行動は、主に以下の3つに分けられます。
便を素手で触る
1つ目が、便を素手で触る行為です。
触るといってもその行為はいくつかあり、こねたり、形作ったり、かき回したりする行為が見られます。
これは、下着やおむつ内の違和感が原因で触れてしまうと考えられています。
壁や寝具、衣類などに便をつける
2つ目が、壁や寝具、衣類などに便をつける行為です。
便を触ってしまった後に、それをどうすればいいか分からなくなり、近くにあるものにすりつけて汚れを落とそうとしているのではないかと考えられています。
また、便が出たことに恥を感じ、隠そうとすることもあるようです。
便を口に入れる
3つ目が、便を口に入れる行為です。
これは、便が食べられると勘違いしたり、無意識に口に運んだりします。
ある仮説によると、便の色や感触が「あんこ」に似ていることから、食べ物と誤認し、行為に至るのではと考えられています。
知的障害や発達障害、精神障害を患っている方にも起こる
弄便は、認知症を患った高齢者に多い行為ですが、実は知的障害や発達障害、精神障害を患っている一部の方にも見られます。
例えば、おむつの感触が苦手な方が、不快感の解消のためズボンの中に手を入れて、弄便につながることがあります。
また、泥遊びと同じ感触でいじってしまう方や、便が出たことを知らせるために行為に至る方もいるようです。
知的障害や発達障害の方も認知症を患っている高齢者と同様に、衛生面や介護負担を理解しにくいため、適切な対応方法や予防策が大切です。
弄便をしてしまう6つの原因
弄便の原因はいくつかありますが、ご本人は意図的に行ってはいません。
そのため、行動してしまう理由を介助者側がしっかり理解しておくことが重要です。
以下に、行動してしまう6つの原因を詳しく紹介していきます。
おむつ内のムレや違和感をなくそうとしている
弄便は、おむつや下着のムレや違和感を解消しようとする際に起こることがあります。
これは、便が出ておむつや下着の中が不快になり、手を入れて違和感を解消する際に見られる行為です。
認知症で日常生活の理解が難しくなっても、体に感じる感覚は健常な方と変わりません。
そのため、便が正確に認識できなくても、不快感を解消したいという気持ちから、このような行動が引き起こされることがあります。
便意を感じなくなる
認知症を患う高齢者は、「トイレに行きたい」「便が出る」といった感覚が、一般的な方より感じにくくなるといわれています。
また、加齢に伴い腸機能が下がってくると、便秘や下痢といった症状が増えてくることも便意を感じにくくなる原因です。
そのような方は、いつ便が出たのかが分からなくなるとともに、便への認識が薄れてしまうことから弄便につながってしまうようです。
排泄後の処理を自分でしようとしている
下着やおむつ内に便が出ていることが分かり、不快感の解消や早く片付けたい気持ちから自分できれいにしようとします。
しかし、処理方法までは理解しておらず、最終的にはパニックになり収拾がつかず、弄便につながってしまいます。
この場合は、便が不潔なものと理解できても、処理方法までは分からない方によく見られるケースです。
便の存在や性質を認識できていない
認知症の症状の一つに物事を忘れる記憶障害がありますが、これにより便がどういったものなのかが認識できなくなります。
便が認識できなくなることで、便を素手で触ることに加えて、美容クリームや食べ物と誤認識するケースも少なくありません。
中には、便を大事なものと勘違いし、引き出しにしまう行為も見られます。
失敗を隠そうとする気持ちからしてしまう
弄便は、失敗してしまった羞恥心から、便を隠す行為が引き起こされるケースもあります。
認知症を患う方の中には、便自体の認識はあるものの、排泄機能の低下によりトイレに失敗する方も数多くいます。
そのような方は、排泄を失敗することが恥ずかしいという思いから、下着やおむつを引き出しに隠してしまうようです。
時間が経ってから介助者が発見するケースがありますが、その際問いただしてもご本人は忘れている場合も見受けられます。
薬が原因である場合も
弄便は、薬の影響によって引き起こされるケースもあります。
例えば、アルツハイマー型認知症の治療剤として使用されるドネペジル塩酸塩は、皮膚のかゆみやチクチク感といった副作用があります。
この副作用により陰部周りの搔痒感が発生するようになり、便が出ているタイミングで触り、弄便につながってしまうようです。
弄便によって起こるトラブル
弄便は本人に悪意はなくても、放置しておくとさまざまなトラブルを引き起こす可能性があります。
ご本人の健康はもちろん、介護者や生活環境への影響もあるため注意が必要です。
ここでは、弄便によって引き起こされるトラブルについて詳しく紹介していきます。
感染症や皮膚炎などの問題が起こる可能性がある
弄便をそのままにしておくと、感染症や皮膚炎などを引き起こす可能性が非常に高くなります。
人間から出る排泄物は決して清潔なものとはいえず、便を触った手で口や目を触ると感染症が発生する可能性があります。
同時に、弄便により排泄物が付いた場所を介した感染症の発生も考えられるので、介助者はマスクや手袋をつけてきれいに処理する必要があるでしょう。
また、皮膚に排泄物が付いたままになると、紅斑やびらん、潰瘍といった症状を引き起こす可能性もあるため、適切に処理する必要があります。
介護者への負担がかかりやすくなる
一度弄便が発生すると、再び起こるケースも多く、そのたびに介護者は処理や片付けに追われます。
汚れた衣類や寝具の洗濯、部屋の掃除、本人の清拭や入浴などが重なると、体力的にも大きな負担となります。
また、弄便は感染症や皮膚炎などの健康リスクにもつながるため、衛生管理に神経を使う必要があり、精神的なストレスも増えてしまいます。
このように何度も繰り返されると、介護者の心身に大きな負担がかかりやすくなってしまいます。
においや汚れで生活環境に影響が出ることがある
弄便はケースによって、周囲の壁や家具などに便をこすりつけてしまうため、においや汚れで生活環境に影響が出ることが少なくありません。
汚れが広がると掃除や消臭に時間や手間がかかり、衛生面の確保が難しくなる場合もあります。
さらに、においが残ることで家族の快適さが損なわれたり、来客対応に困ったりと、精神的な負担になることがあります。
このように生活の質全体に影響を及ぼす可能性があるため、早めに対策を講じることが大切です。
弄便をしているのを発見したときの対応方法
弄便を見つけたときは、慌てず落ち着いた対応がもっとも重要です。
感情的に強く叱ると、本人の不安や混乱をさらに大きくしてしまい、症状をさらに強くさせてしまう可能性があります。
ここでは、発見時に意識したい具体的な対応方法を紹介します。
怒らず冷静に対応する
弄便を発見した際に、もっともよくないといわれている対応が、感情的に強く叱ることです。
認知症を患っている方にとって叱る行為は、恐怖心だけを残す原因となります。
また、負の感情が残ることで、その後の介護拒否にもつながりかねません。
もし発見しても「お掃除しますね~」「トイレに行きたかったんだね~」といった、優しい言葉をかけつつ、何もなかったかのように対処するのがよいでしょう。
手の汚れをしっかり拭き取る
トラブルのところでも触れましたが、弄便は感染症のきっかけになります。そのため、まずはご本人の手についた汚れをしっかり拭き取りましょう。
手を清潔にすることで、感染症の予防につながるだけでなく、周囲を汚してしまうことの予防にもなります。また、手が汚れていた場合には、家具や壁など周囲にも便が付着していることがあるため、合わせて丁寧に処理することが大切です。
入浴で清潔にする
手の汚れを拭き取れたら、シャワー浴などで体も丁寧に洗い流しましょう。
特に弄便により陰部周りの違和感や不快感が気になる方は、早めにきれいにすることが大切です。
ただし、人によっては入浴を拒否される方もいます。
その場合に無理に入浴を進めると、その後の介護拒否につながる可能性があるため、誘導方法も優しく行うことが大切です。
もし無理な場合は更衣を促しつつ、清拭(せいしき)だけは行うようにしましょう。
弄便を未然に防ぐための対策
弄便は、ご本人や介助者の双方に負担がかかるため、できれば事前に防ぎたいと思うのは普通のことでしょう。
そのためには、日常の排泄習慣や環境の整え方などに工夫を取り入れることが大切です。
ここでは、弄便を未然に防ぐための対策を7つのポイントに分けて紹介していきます。
可能な限りトイレで排泄を促す
弄便は、トイレに誘導することで防げる可能性があります。
認知症の方には排泄するタイミングが自分では分からない方もいますが、個々によっては何らかのサインを出している場合があります。
そのため、日々の生活の中でご本人が出すサインを細かくチェックすることが大切です。
また、人間の排泄リズムは意図的に決められるともいわれていますので、時間を決めてトイレに誘導するのもよいでしょう。
おむつは早めに取り替える
弄便は、排泄した際の下半身の不快感から引き起こされるケースが見られます。
そのため、おむつ内に排泄が確認されたら、早めに取り替えることが重要です。
早めに取り替えることで、下半身の不快感を減らせるとともに、皮膚炎や褥瘡(床ずれ)などの肌トラブルの防止にもつながります。
ただし、介助者も決して無理はせず、複数人で介助したり、おむつパットを使用したりと、介助の負担を減らす工夫を行うことも大切です。
規則正しい排便リズムを整える
弄便を事前に防ぐためには、規則正しい排便リズムを整えることも重要なポイントです。
排便リズムを整えるためには、消化によいものを積極的に取り入れたり、水分をこまめに補給したりするのが効果的です。
また、おなかのマッサージや決まった時間にトイレ誘導を行うのも効果的でしょう。
中には胃腸機能の低下から下剤を使用する方もいますが、便がゆるくなり排泄のタイミングがつかみにくくなるため、下剤の使用には注意が必要です。
後片付けがしやすい空間に工夫する
弄便が起こったときの、後片付けのしやすい空間にしておくことも対策する上で重要なポイントです。
例えば、以下の方法があります。
- ベッドや布団に敷きパットを使用する
- 床面に防水性のシートを敷いておく
- 壁に付け外しが簡単な保護シートを貼っておく
- 片付けしやすい道具を居室に準備しておく
また、床面が畳の場合は排泄物がつくと隙間に入った汚れが取り除きにくくなるため、フローリングに変えたり、拭き取るだけで済むようなカーペットを敷いたりするのもよいでしょう。
お尻周りのケアも行う
弄便を放置しておくと、陰部や臀部周りの皮膚が荒れやすくなります。
皮膚が荒れているとかゆみや痛みといった症状を感じやすくなり、それが弄便につながるといった悪循環にもなります。
そのため、トイレ後には薬で処置するなど、お尻周りのケアも丁寧に行うことが重要です。
なお、皮膚のケアは以下の順番で丁寧に処置しましょう。
- 清拭:排泄があった際に優しく拭き取ります。強く拭きすぎると反対に皮膚を痛める原因となるため、必ず優しく拭き取ってください。ウェットタイプのお尻拭きがあると便利です。
- 洗浄:洗浄は基本的に1日1回が望ましいでしょう。使用する洗浄液は人間の皮膚と同じ弱酸性のものを使用するとよいでしょう。
- 保湿:清拭や洗浄を行うと、本来必要なはずの皮脂も除去されるため、乾燥しやすくなります。保湿剤はセラミド成分・天然保湿因子を含むものを選ぶとよいでしょう。
- 保護:保湿を行った後は、保湿した皮膚に膜を作るための保護も必要です。膜を作ることで保湿剤が乾燥するのを防ぎ、皮膚のターンオーバーを効率的に早められます。
状況に応じて薬の調整も行う
弄便は、下剤や認知症を遅らせる薬といった、薬が原因で引き起こされるケースもあります。
例えば、下剤を使用することで排泄の感覚が分からなくなったり、認知症を遅らせる薬の使用によりかゆみが発生したりすることで引き起こされるケースもあります。
その場合は薬の調整が有効です。
ただし、薬の調整は状況に応じた対応が必要となるため、必ず主治医に相談してから行うようにしましょう。
便を触られない工夫をする
弄便の対応が難しい場合は、便に触られない状況を作るのも対策の一つです。
例えば、ミトンや手袋を装着することで下半身に手が伸ばしにくくなるため、非常に有効です。
そのほかにも、つなぎ服を使用するのもよいでしょう。
ただし、ミトンや手袋、つなぎ服といったご本人の動きを制限してしまう工夫は、身体拘束に該当するおそれがあります
そのため、さまざまな対応を試しても改善が見られない場合や、介護者の負担が大きすぎるといった、打つ手がないときの最終的な手段として行うようにしましょう。
弄便をする方につなぎ服で対応するのは虐待や症状悪化につながる可能性がある
つなぎ服とは、上下がつながった衣類のことで、下半身部分を自分で脱ぐことが難しいため、弄便を防ぐのに有効な方法です。
一部の病院や施設では、弄便対策としてつなぎ服を着用せざるを得ない場面も多くあります。
しかし、つなぎ服を使用する際は、ご本人の自由を奪う身体拘束に当てはまる場合があり、虐待や症状悪化につながる可能性があります。
また、着用してもらう際は、基本的に医師やご家族が許可しなければ使用できないと決められています。
そのため、ご本人やご家族にとって大きなストレスとならないか配慮しながら、決断する必要があるでしょう。
具体的な対応方法も模索する
つなぎ服を着用する場合は、同時に具体的な対応方法も模索する必要があることを忘れてはいけません。
対応できないからというだけでつなぎ服を使用するのは、ただの身体拘束に当てはまります。
そのため、使用する際は具体的な対策やアプローチを決めることも重要です。
また、虐待につなげないためにも、定期的なカンファレンスの実施や、つなぎ服を使用した時間の記録などをしっかり行う必要があります。
弄便対応に疲れたら専門機関に相談する
ここまで紹介してきたように、弄便への対応は身体的にも精神的にも大きなストレスがかかってきます。
例えば、一日に何度も弄便がある方の場合、介護者への負担が大きくなることは想像しやすいでしょう。
場合によっては介護者が倒れる場合もあり、そうなってはご本人にとっても介助者にとってもよくありません。
介護に疲れる際は、一人で抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどの専門機関に相談することが大切です。
弄便に関するアドバイスや、必要な介護サービスを紹介してくれますので、介護者が少しでも心を休める時間を確保するためにも積極的に活用していきましょう。
まとめ
本記事では、弄便とは何か、その症状や原因、そして起こり得るトラブルについて解説しました。
さらに、発見時の対応方法や未然に防ぐための工夫についても紹介しました。
弄便は介護者にとって大きな負担となりますが、正しい理解と対策を知ることで、少しずつ安心して向き合えるようになります。
無理をせず、必要に応じて専門機関に相談しながら、ご本人と介護者の両方が穏やかに過ごせる環境を整えていきましょう。
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