IADLとは?ADLやQOLとの違い・評価方法・下げないための対策を紹介

IADL(手段的日常生活動作)とは、買い物や料理、金銭管理など、自立した生活を送るために欠かせない動作のことです。
ADLよりも広い範囲で生活の質(QOL)に直結する重要な指標となります。
この記事では、IADLの意味やADL・QOLとの違い、評価方法、そして低下を防ぐための対策を解説します。
IADLの重要性を知りたい方や介護現場で生かしたい方は、ぜひ参考にしてください。
介護におけるIADLとは?ADLとの違い
IADLとは、自立した生活を送る上で欠かせない「応用的な生活動作」を表す言葉です。
介護の現場でなんとなく聞いたことはあっても、ADLやQOLとどう違うのか分かりにくいと疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、IADLの意味や、ADL・QOLとの違いを分かりやすく解説します。
IADLとは応用的な日常生活動作のこと
IADLとは、「Instrumental Activities of Daily Living」の頭文字をとった略語で、日本語では「手段的ADL」や「手段的日常生活動作」と呼びます。
基本的な日常生活動作である「食事」や「排泄」「着替え」などのADL(Activities of Daily Living)よりも、より応用的な動作が必要な「買い物」や「料理」「掃除」「金銭管理」などを指します。
具体的には、以下の行為が含まれます。
- 食事の準備や片付け
- 洗濯や掃除などの家事
- 買い物や金銭の管理
- 交通機関を利用して外出する
- 電話や手紙での連絡・コミュニケーション
- 薬の管理や服薬の自己管理
- 趣味や余暇活動 など
これらは、社会的な自立を維持する上で欠かせない能力であり、生活の質(QOL)にも大きく関わっています。
ADLとの違い
IADLと似た言葉で「ADL」がありますが、2つの違いは動作の範囲が異なります。
ADLとは、「食事」や「排泄」「着替え」といった日常の中で最低限必要な動作のことです。
「Activities of Daily Living」の頭文字をとった言葉で、日本語では「基本的日常生活動作」と呼ばれます。
一方、IADLはADLの動作に理解力や判断力、コミュニケーションといった社会的に必要な動作が加わるところが特徴です。
つまり、ADLが「生きるための動作」だとすれば、IADLは「社会の中で生活するための動作」といえるでしょう。
QOLとの違い
介護現場では、IADLやADLのほかに「QOL」と呼ばれる言葉があります。
QOLとは、個人の生活が身体的・精神的・社会的に満たされている状態であることを指す言葉です。
「Quality of life」の頭文字をとった言葉で、日本語では「生活の質」や「人生の質」を意味しています。
IADLやADLが日常的もしくは社会的に必要な動作である一方で、QOLはより総合的な意味を持ちます。
そのため、IADLやADLの維持・向上は、QOLを高めるための基盤となるといえるでしょう。
IADLが重要視される3つの理由
本来介護現場では、「ADL」や「QOL」が重要視されていました。
しかし、近年では社会的な生活が重要視されるようになってきたことから、IADLが注目されてきています。
ここでは、IADLが重要視される3つの理由を紹介していきます。
日常生活機能が衰えるサインとなるから
IADLの低下は、ADL(日常生活機能)の衰えにつながるサインと言われています。
理由は、ADLが衰えてくるよりも先にIADLのほうが低下してくるからです。
例えば、「食事や洗濯、掃除といった家事が面倒くさくなってきた」「外出する機会が減ってきた」「時々薬を飲み忘れる」といった変化が見られた場合は、身体・認知機能の低下のサインとなります。
このような衰えの変化を早期に発見できれば、介護が必要となる状態を防ぐことにつながるため重要視されています。
認知症やフレイル(虚弱)の早期発見につながるから
IADLは、記憶力や判断力、身体機能など複数の能力が関係するため、低下が見られるときは認知症やフレイルの初期段階の可能性があります。
そのため、IADLの変化を把握することは、介護や医療の現場で早期発見・早期対応につながります。
早期に気づければ、症状の進行を遅らせたり、自立した生活をより長く維持したりできるため、重要なことと言えるでしょう。
介護負担や医療費の増大防止につながるから
IADLを維持することで、介助が必要となる場面を減らし、家族や介護者の負担を軽くできます。
また、よりよい身体の状態を保つことにもつながるため、医療費の増大防止にも役立ちます。
自身の身体の状態を維持するだけでなく、家族や介護者、経済面と言った包括的な支援ができると言えるでしょう。
IADLが下がる原因と生活への影響
IADLが下がる原因には、加齢や病気といったさまざまな要因があると言われています。
また、精神面や環境の変化が影響を与えることも少なくありません。
ここでは、IADLが下がる原因と、日常生活への影響を紹介していきます。
IADLが下がる原因
IADLが下がる原因には、以下が挙げられます。
- 身体機能や認知機能の低下
- 生活環境の変化
身体機能や認知機能の低下は、加齢や病気によって悪化することがほとんどです。
移動能力の低下により外出が減り、活動量が下がることで、さらに筋力や判断力の低下を招くという悪循環が起こりやすくなります。
また、生活環境の変化により、人との関わりが減ったり、外出が減ったりすると、今まで行っていた動作が減ってしまい、低下につながってしまうこともあります。
IADLが下がると日常生活に影響がある
先ほども紹介しましたが、IADLが下がると日常生活に大きな影響を与えるため注意が必要です。
例えば、趣味活動で定期的に外出していた方が、病気によって活動量が減少すると、身体機能や認知機能の低下を招きやすくなります。
その結果、家事や社会参加など、日常生活全体に影響を及ぼすことがあります。
また、人との関わりが減ることで気分が落ち込み、家に閉じこもることが多くなるケースも見られます。
このようにIADLの低下は、身体だけでなく心の健康にも影響し、生活の質(QOL)を大きく下げてしまう可能性があります。
IADL・ADLを下げないための7つの対策
ここまで紹介してきたように、IADLの低下はご本人の日常生活に大きな影響を及ぼすことはもちろん、ご家族や介護者にも負担がかかってくる可能性があります。
そのため、できる限り維持する必要があるでしょう。
ここでは、IADL・ADLを下げないための対策を7つ紹介していきます。
個々のADL・IADLを評価し、現状を確認する
IADLやADLは、一人ひとりによって状態が異なります。
身体状況やご本人が行える・行えないなどを正しく評価し、状態を確認することで、よりよいケアにつながります。
また、ご本人から発せられる言葉から、想いや希望を探ることも、IADLやADLを維持するために必要です。
バランスの取れた食事を意識する
身体機能や認知機能を維持させるためには、バランスの取れた食事が欠かせません。
特に「タンパク質」や「ビタミン類」は、筋肉の維持や免疫力をアップさせるために必要な栄養素となるため、積極的に摂取していく必要があります。
また、食べやすさや見た目も重要となってくるため、味付けや彩りなどを個々の好みに合わせた工夫も必要になってきます。
適度な運動習慣をつける
IADLの低下を防ぐためには、適度な運動習慣を生活の中に組み入れることも重要です。
適度な運動習慣は、筋力や身体の柔軟性の維持はもちろん、認知機能を保つことにも役立ちます。
とはいえ、運動習慣を身につけるのが難しいと感じる方もいるでしょう。
しかし、運動習慣は1日5〜10分程度で十分効果が期待できると言われていますので、簡単なラジオ体操や散歩などを続けていくとよいでしょう。
環境面を整える
IADLは、日常のちょっとしたストレスが重なることでも低下すると言われています。
そのため、生活しやすい環境づくりも重要なポイントです。
環境面を整えるためには、個々の状態に合わせた生活環境になっているかが重要です。
必要であれば杖やシルバーカーといった福祉用具を使ったり、安全性を考慮してリフォームしたりするなどの工夫も必要になってきます。
見守り中心の介護を意識する
IADLの低下を防ぐために、どのような介護をすべきか悩む方もいますが、基本的には見守り中心の介護を意識することが大切です。
ご家族や介護者がご本人のできることまでやってしまうと、身体や頭を動かす機会が減り、逆に筋力や認知機能の低下が起こる可能性があります。
そのため、ご本人ができることはなるべくやってもらい、できないところはサポートするよう意識しましょう。
社会的な活動への参加を後押しする
趣味や社会活動への参加は、認知機能や心の健康の維持にとても効果的です。
目標や役割を持つことで、脳を動かす機会を増やせたり、やる気や自己肯定感をアップさせたりと、人生を豊かにするのに役立ちます。
また、定期的にお出かけや買い物などを実施したり、掃除機がけや料理といった実生活に合わせた動作をしたりするのも、IADLを維持させるために大切です。
認知機能を維持するための工夫も大切
IADLは身体を動かす機能だけでなく、認知機能の維持も非常に重要となっています。
例えば、料理を作りながら片付けをしたり、買い物の計画を立てたりすることは、自然に脳を使うよい習慣になります。
また、パズルや脳トレ、音楽を聞きながらの軽い運動も効果的です。
楽しみながらできる工夫を続けることがポイントとなりますので、意識して取り入れてみましょう。
IADLの評価方法
IADLの状態を正しく把握することは、心身の健康状態を知る上でとても大切です。
実際の評価では、日常生活でどの程度自立して行動できているかを、いくつかの項目で確認します。
代表的なものに「Lawtonの尺度」と呼ばれる8項目の評価法があり、日本では「老研式活動能力指標」も広く使われています。
以下に、それぞれの評価方法を紹介しますので、参考にしてください。
「Lawtonの尺度」における8つの評価項目
Lawtonの尺度は1969年にアメリカの心理学者「M・Lawton(ロートン)」によって発案されました。
具体的には、以下の8つの項目に分けて0〜8点で評価されます。
| ● 電話を使用する能力 ● 買い物 ● 食事の準備 ● 家事(清掃・片付け) ● 洗濯 ● 移動・交通手段 ● 服薬管理 ● 金銭管理能力 |
それぞれ3〜4つ程度の質問が設けられており、スコアが高いほど自立できていることになります。
老研式活動能力指標も用いられる
IADLの評価には、老研式活動能力指標と呼ばれるものも用いられます。
老研式活動能力指標は、大きく分けて以下の3つの構成に分けられます。
| ● IADL ● 知的能動性 ● 社会的役割 |
こちらも、それぞれ4〜5つの質問が設けられており、「はい(1点)」と「いいえ(0点)」で回答してもらいます。
全部で13の質問があり、点数が高いほど自立度も高いと評価されます。
IADLが下がってきたらどうする?
IADLは加齢や病気、生活習慣の変化などが原因で下がってくるため、避けられないケースがほとんどです。
しかし、低下に早く気づき、適切な対応をとることで、進行を緩やかにしたり、再び回復させたりすることも可能です。
ここでは、IADLが下がってきたときにできる工夫やサポートの方法について、具体的に紹介していきます。
シルバー人材センターを活用
シルバー人材センターは、60歳以上の高齢者の就労をサポートしてくれる、自治体が行うサービスです。
仕事内容は地域に密着したさまざまな業務が用意されており、登録しておくことで、自分ができる仕事を都合のよいタイミングで受けられます。
自分が得意な分野の仕事も見つかりやすいので、活用すれば身体機能や認知機能の維持にも役立つでしょう。
介護サービスを活用する
IADLは生活習慣の改善や維持するための工夫を取り入れることで、ある程度は維持・向上が期待できます。
しかし、誰もが加齢による衰えにはかないません。
そのため、どうしても自分で行うのが難しいと感じる場合は、介護サービスを活用することをおすすめします。
「自分には必要ないかも」と思われる方もいますが、部分的なサポートだけを受けられるサービスもあります。
最近では、さまざまなニーズに合わせたサービスも増えてきていますので、1度自治体や地域包括支援センターに相談してみましょう。
IADLに特化した介護施設もある
介護サービスにはさまざまな種類の施設が存在しますが、近年IADL向上特化型の施設も見られるようになってきています。
IADL向上特化型の施設は、利用される方の自立した生活をサポートすることを目的に、さまざまなプログラムが提供されているところが特徴です。
例えば、身体の状態に合わせたリハビリや、買い物やお出かけを通じたサービスなどが受けられます。
一人ひとりに合わせたプログラムが設定できるので、個々の身体機能や生活環境に応じた支援が可能です。
習慣化されている動作のほうがIADLは下がらない
IADLが下がってきたときは、自治体や介護サービスを頼るのが重要ですが、どちらも習慣化させることが大切です。
厚生労働省の「介護予防・日常生活支援総合事業における効果的なIADL改善プログラムの開発に関する研究事業 報告」によると、習慣化により向上したケースがいくつか報告されています。
例えば、外出の機会がほとんどない方が、ヘルパーと一緒に2日に1回の散歩を取り入れることで、疲れやすさが減り、趣味の編み物が再開されたという結果が報告されています。
また、ある実験では調理を習慣化させることで、脳機能が向上したという結果も出ています。
このように、ちょっとした習慣がIADLの維持や向上に期待できると言えるでしょう。
まとめ
本記事では、IADLとは何かを紹介し、その重要性やADLとQOLとの違い、下げないための対策などを紹介してきました。
IADLは、ただ「できること」を維持するだけでなく、自分らしい生活を続けるための大切な力です。
日常の中で少しずつ意識して取り組むことで、心身の健康や生活の質(QOL)を高めることにつながります。
本記事で紹介した内容を参考に、ご自身やご家族のIADLを見直し、前向きな毎日を送るきっかけにしてみてください。
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