【介護コラム】その日が一日でも先であるようにー第1話ー

グループホームに住む認知症の男性とヘルパーとの実話
高齢者福祉の仕事に携わるようになってまだ間もない頃、私は都内にあるグループホームに勤めていた。
私の勤めるグループホームは、1フロアに定員は9名、3フロアある施設。入居者が主体的に活動できるよう、一日のプログラムは無く、職員が必要に応じてサポートをする。それぞれの利用者に担当がつき生活の目標設定や意向の確認などを定期的に行ないプランに落とし込んでいく。
そこである入居者の担当になった。T氏(80代男性)は中度認知症。小さな目をさらに細めて笑うのが特徴でいつも日向ぼっこをしながら過ごしていた。基本的には穏やかな方だが、会話はあまり成立せず、コミュニケーションはまだらになる。場面の変化に柔軟に対応することが苦手で、混乱が怒りに変わることもあった。不安定ながらも身体が動く為、移動中に急に怒りのスイッチが入ると、昔取った杵柄で柔道の大内刈りを仕掛けてくるものだから、危うく一本とられそうになったものだ。T氏を受け持つことになった私は、正直、荷が重いと感じていた。配属されたフロアの他の入居者たちは、温厚で人当たりがよく、コミュニケーションも基本的にはクリアな軽度認知症の方ばかりだった。短い時間接する分には本当に認知症なのかさえ疑ってしまう様な方たちのなかで、まだまだ駆け出しだった私の目には、T氏がとても大変な存在に映っていた。