【介護コラム】その日が一日でも先であるようにー第3話ー

グループホームに住む認知症の男性とヘルパーとの実話
早速、ホームに了承を取り、奥様の都合の良い日程を確認し、車を用意し、当日の段取りを徹夜で練った。夜勤明けに眠気も忘れ、現地までの道順など下調べを繰り返し、他の職員にも企画内容を説明して協力をお願いし、準備万端、当日を待つのみであった。
しかし、すべてがうまくいくわけではない。念願のデートの前夜から雨が降り出し、当日朝になってもまだ小雨が降り続いていた。天気予報では雨のち曇り。降水確率は40パーセント。植物園は野外で屋根は無い。歩行が不安定なT氏にとっては足元の悪い雨天では決行は無理と考えていた。ホームに着くまでに止んでくれと願いながら家を出た。しかし雨は止むことはなく、傘を差したまま出勤しタイムカードを切った。すると後ろから「もうT氏の奥様来てるよ」とホーム長から声を掛けられた。
駆け足でフロアへ向かうと、おしゃれをした奥様がソファに座って待っていた。「ダメになることもあるし、天気も気になったけど、どうしても来ずには居られなくて」と微笑みながら言った。私はとっさに「大丈夫!私、晴れ男なので、着くころには止みますよ」と口をついて出た。もう、一か八か行くしかない。荷物を積み込み車を玄関へ回し、T氏夫妻を乗せて雨天の空の下ホームを出発した。