【介護コラム】その日が一日でも先であるようにー第8話ー

グループホームに住む認知症の男性とヘルパーとの実話

T氏の行動に始めは丁寧に説明をしていた私も、だんだんと焦りや苛立ちの感情に流され、思わず彼を叱責してしまった。そこでT氏のスイッチが入り、私の手を叩き、食器をひっくり返そうとしたので、思わず彼の両手をおさえ、「要らないなら食べないでいい」と強く言ってしまった。先輩職員が間に割って入り、事態を収拾してくれた。程なく落ち着いたT氏は先ほどのことなどすっかり忘れ、食事を再開し、いつもどおりの食事を終えた。病気のせいだとは分かっていても、私はただもやもやとした気持ちを抱いていた。
T氏の就寝介助は何事も無く終わり、他の入居者たちもそれぞれの部屋に戻り寝支度を始めた。がらんとしたリビングの横にあるステーションで日報などを記入しながら、最初の夜間巡視の時間が来るのを待っていた。外では雨が降り出し、雨脚は徐々に強くなっていく。帰るまでには止んでくれるといいなとぼんやり思いながら、書き物が一段落したところで、翌日の朝ごはんに使えそうな食材を見繕っておこうとキッチンの冷蔵庫を開けた。その時である。「うっ」という苦しそうな声が廊下に響き渡った。

CURATOR
コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ
千葉在住。デイサービススタッフとして勤務しています。
休日はイラスト、マンガ描いてます。似顔絵などイラストのご相談承ります!