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【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第4話ー

【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第4話ー

第4話

Yさんからの「おはよう」が聞けないまま一年半ほど経った頃でしょうか、全く予想もしていなかった「Yさん入所」の報せが届きました。あまりにも唐突だったため、上長からの説明も全く耳に入らず、夢の中の出来事くらいにしか受け止めることができませんでした。

茫然としている私の背中を、同じグループの先輩職員がポンと叩いてくれてようやく我に返り、別れの日が来てしまったということを理解することが出来ました(受け止めるしかなかったという方が正しいかもしれません)。

親御さんも相当悩んだそうです。これと言って体調面に不安があるわけではないとはいえ、70代に入り、いつかは自分たちの方が先にいなくなってしまう。
そうなる前にと施設入所の相談をしてはいたものの、まさかこんなにも早く入所先の打診が来るとは思っていなかったそうで、最初は「まだ早い」と断りの連絡をしたそうです。しかし役所の担当者から「この機会を逃すと次はないですよ」と言われたことが決め手となり、苦渋の決断をされたということでした。

入所までの猶予はちょうど一か月。この一年半でさえあっという間だったいうのに、果たしてそれまでにYさんから「おはよう」の声を聞くことが出来るのか。

いや、そんなことよりももっと沢山思い出を作る方が大切なのではないか。どうにかして入所の話をなかったことにはできないだろうか。
様々な思考が交錯を繰り返し、私の頭の中はどうにも収拾がつかない状態になっていました。

コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ