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【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第5話ー

【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第5話ー

第5話

現実的ではない思考を繰り返しても時間はきちんきちんと進んでいきます。くよくよしていても仕方がありません。「残された時間で出来る精一杯のことをやろう」と気持ちを切り替え、先ずは何か贈り物をと、職員全員からの寄せ書きを集めました。

それだけではありきたりなので、音楽が大好きなYさんが特に気に入っていて、かかったらいつでも踊り出してしまう曲集をMD(当時はMDが主流でした)に入るだけダビングして用意しました。

一方で「おはよう活動」はというと、こちらは一向に進展はなく、「こうなったらどんな言葉でも良い」「とにかくYさんの声が聴きたい」と、「こんにちは」「美味しいですか」「何がしたいですか」「またね」など、とにかく今まで以上に話しかける言葉の数や頻度を増やすようにしました。

残りあと一週間、三日、一日とカウントダウンは進んでいきます。焦る気持ちを必死で抑えながら「とにかく何か一言を」と祈るような思いで声をかけ続けましたが、結局声は聴けないまま、一緒に過ごせる最後の日を迎えることになりました。

コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ