【介護コラム】近くて遠いー第2話ー

第二話
朝は早すぎず、帰りはなるべくのんびりで、出来るだけ長く人の目の届くところで過ごして欲しいという意向に応じて送迎時間が調整された。他の利用者さんとの兼ね合いもあって、見事なぐらいに送迎時間はバラバラであった。当然送り出しにはヘルパーが必要であり、その他のサービス等含めて、毎月大量の提供票を作成する必要が生じたが、それでもデイサービスでの滞在時間を目一杯に近い形で調整することができ、ケアマネジャーとしては満足だったようだ。
時間の調整がつくと早々に通所が始まった。どちらかというと人見知りなYさんは、積極的に集団の中に入っていくようなことはなく、ただただ素直に「はい」と言われたことを淡々と行っているように見えた。塗り絵でも、入浴でも、何をするにも嫌がるようなことはなかったが、笑うこともほとんどなかった。そんなYさんであったが「豹変」と言っても過言ではないくらいの出来事が起きた。寄贈品の、ちょうど大人の上半身程度の大きさのあるキューピー人形を見た途端「あら可愛い」と満面の笑顔で抱き上げ、まるで本物の赤ちゃんを愛でるかのように可愛がり始めたのである。何事かとそばに寄ってみると「あんたもしっかりしなさい」と私の背中をパンと叩いてみたりと、急に活き活きとした姿を見せ始めた。何をどう「しっかりしなさい」なのか。未だに謎のままである。