【介護コラム】勝ち逃げー第1話ー

第1話
例えば100人の人間がいて、100人全員と仲良くできるかというと、現実的には難しい。それぞれに個性があり、価値観があり、相性というものがある。何をしたわけでもないのに、どうしても受け入れることが出来ない相手というのは、誰にでもいる。
あえて関わる必要がないのであれば、接点を持たなければそれで済む。ただ、利用者と介助者という関係になると、そういうわけにもいかない。
Iさんは70代の男性で、東北出身。以前は少年野球のコーチに精を出すなど面倒見が良く、周囲の人に気さくに声を掛けて回る社交的な人だったそうだ。もしもまだ元気な頃に、ふらっと立ち寄った赤提灯なんかでたまたま相席にでもなっていたら、私とIさんは意気投合し、歳の離れた飲み友達になれていたのかもしれない。
しかし現実はそうではなく、私が出会ったときのIさんは、末期のがんで、いつ何が起こるとも知れない状態だった。
私は訪問介護のヘルパーとして、Iさんは利用者として挨拶を交わした。その時Iさんから私に向けられた、どこか胡散臭いものを見るような視線は、今でもはっきりと思い出すことが出来る。
続く