【介護コラム】勝ち逃げー第5話ー

第5話
いっそのこと出入り禁止にしてくれたらどんなに良いだろう。一人立ちのデビュー戦で早々に出鼻をくじかれた私は、その後の日々をいつもそう思いながら過ごしていた。
出勤日は必ずと言っていいほど日に2回はIさんのケアがシフトに組み込まれており、その度に私は手も足も出せず、謝るように食事を出し、逃げるように退室していた。
私は完全に混乱していた・・・
同じ失敗は繰り返すまいと、献立の相談前には必ず冷蔵の食材をチェックするようにしていても、「お前は俺が薬を飲みすぎてないかが心配じゃないのか」と言われたり、前日と献立が重ならないようにと申し送りノートを確認すると、「仕事しに来てサボってるんじゃない」と一喝されたり、当時の自分なりにできる限りの配慮を心がけても、その全てを否定され、考えすぎないように淡々と行うと、それでもプロかと怒鳴られる。
何をしてもしなくても、必ず何かを否定される。
それでも、言ってもらえるだけまだ良かったのかもしれない。叱責されると言うことは、少なくとも本人には私が見えていて、そこに存在しているということを肯定してもらえている証拠なのだから。