【介護コラム】勝ち逃げー第12話ー

第12話
救急搬送から数日後、Iさんは病院で息を引き取った。
最期が穏やかだったのか、家族に見守られながら逝ったのか、詳しいことは聞いていない。
なぜ私を出入り禁止にしなかったのかは、永遠の謎として私の中に残った。
あれからもう8年が過ぎようとしている。
その間、とにかく沢山の個性と対峙し続けてきた。
その中には世間的に「困難」と言われる個性も混ざっていたが、Iさんと過ごした日々が、ときには「あの人に比べればなんでもない」という比較として、ときには「もうリベンジできない、悔しい想いなんてしたくない」という熱量として、いつでも私を助けてくれた。
手も足も出ないまま完全にノックアウト負けを喫し、相手にはそのまま勝ち逃げされ、永久に再戦は叶わないという経験を経たからこそ、私はその後ダウンを奪われることなく進んでいくことが出来たのだと思う。
例えば100人の人間がいて、100人全員と仲良くできるかというと、現実的には難しい。
それでも、今の私なら、Iさんとまた違った関係を築けるのではないかと思うことがある。
会えない人ほど、時々無性に会いたくなる。本当に、後悔は先に立たないものである。