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【介護コラム】寝ている場合じゃない!④

【介護コラム】寝ている場合じゃない!④

生活習慣は本当に人それぞれで、この方の場合、昼から酌を始めて軽く蕎麦などをつまみ、夜はほとんど食べずにアルコールでカロリーを満たすというのが常だったそうです。

ようやく帰ってきた自宅、夏の快晴の昼、同じ呑兵衛として、これで吞まない理由はないなと、ただただ共感するばかりでした。とはいえ、介護保険でヘルパーがアルコールを提供するというわけにもいきません。しかし人生の残り時間を考えれば是非とも呑んでいただきたいというのが本音。

悩んだ果てに私は、「では手酌でどうぞ」とすすめることにしました。これなら「本人がご自分で召し上がっているだけ」と解釈することが出来るというわけです。

もちろん「そうはいったものの、枝のように細くなってしまった手で果たしてそれが叶うだろうか」という懸念はありましたが、満足そうな表情で缶を手に取り、使い慣れた小ぶりのグラスにちょうど良い泡立ち加減でビールを注ぐ所作は長年のキャリアの賜物といった具合で、まるでテレビCMを目の前で見せられているような感覚にとらわれ、思わず私も喉を鳴らしてしまったほどです。

一息に呑み干し、コンっとテーブルにグラスを置いた瞬間の「ああ、やっぱ美味いなあ」と顔をしわくちゃにしながら思わず漏れた一言は、今でも耳の奥で心地よく響いています。

コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ