経験10年の介護士に月8万円、の話の最終的な顛末 – 特定処遇改善加算について

以前から何度か取り上げてきた、「勤続10年以上の介護士に対して月8万円の手当」という話題ですが、最終的にどのように施行されるのか、まだご紹介していませんでした。(前回記事のリンク)

おそらく、事業所を経営されている方はともかく、働く側からみると、結局どういう制度になったの?というところからまだよく知らない、という方も多いと思います。

ですので、今回はこの制度の最終的な顛末について、できるだけわかりやすく仕組みを説明していきたいと思います。細かい加算の要件や条件等はいったん省き、とにかくわかりやすさ重視、で書いていきたいと思いますので、正確性に欠ける部分もあるかと思いますが、その辺りはご容赦を・・・

ちなみに長文を読む時間がない、という人のために、制度を簡単に説明してしまうと、

「申請を出してくれたところには、その業種に応じた加算をつけちゃいます!9割くらいの事業所は申請出せる資格があるはずだから、安心してね ♪
ちなみに、ベテランが多そうな業種には多めに加算率を設定してあります。あとは事業所内で
“経験豊富で優秀!” と思う人を“介護福祉士”の中から決めて、その人たちには多めに配分してね!
一応、事前にどう配分するつもりなのか予定を出してもらうからよろしくー。」

こんな仕組みです。

月8万円、という話や、経験10年、という話はどうなったのか、も含めて解説していきましょう。

これまでの経緯は?

いったん、これまで小出しに明らかになってきたこの制度の状況について振り返ってみます。

一番最初に報じられたのはこんなニュース。

介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について、公費1000億円程度を投じ、月額平均8万円相当の処遇改善を行う。(出典; 日テレニュース)

初報自体は1年半ほど前でしたが、年収ベースで一気に100万円アップという処遇改善の金額の大きさに、業界がどよめきました。
一方で、本当にそんなことが可能なのか?といった声や、どうやって運用するのか、10年にギリギリ満たない介護士はどうなるのか、といった声が上がり、いろいろと憶測も呼びました。

その後、そもそも個人が申請して受け取るものではなく、事業所が申請を行い事業所に配分される処遇改善加算の一環として行われること、また受け取れる人は、その施設に勤続10年でなくて業界10年でもOKとするといった要件緩和の話も上がってきました(記事リンク)。

ちなみに前回の記事でも試算しましたが、そうすると原資は介護保険分と自己負担も含めて2000億円となるので、20万人の介護士が対象となり、5人に1人くらいが対象になる、と考えられます。

最終的に発表された制度内容

2019年2月13日に発表された分科会資料(リンク)が、最終的な制度の概要、となっています。
こちらの記事もわかりやすいです。

【介護報酬改定2019】新たな「特定処遇改善加算」、要件・ルールまとめ改訂版!(Joint介護)

制度の全体像

まず、処遇改善に充てる予算規模としては、年間2000億円。この原資は、半分は税金、残りは自己負担分の増加と介護保険で賄います。税金の財源は、制度開始と同じくして上がる消費税を見込んでいます。
ちなみに、報酬改定だと1.67%の改善に相当する予算額、とのこと。

配分の方法としては、「特定処遇改善加算」という仕組みで各事業所に配分されることになります。現行の処遇改善加算と同じく加算の申請を出した事業所に加算をつける、という仕組みです。

特定処遇改善加算の受給要件

この特定処遇改善加算を受ける要件は、「現行の処遇改善加算のI~Ⅲをすでに取っていること」、というのが基本的な算定条件です。
この現行の処遇改善加算の要件や、これ以外の算定条件については細かい話になるのでここでは割愛します。

ちなみに、現行の処遇改善加算の取得割合についてはⅠが67.9%、Ⅱが12.5%、Ⅲが8.7%となっているので、9割方の事業所は受給資格があります。

加算率について

加算率は、業種ごとに2段階に設定されていて、一定条件をクリアしないと低い方の加算率となります。

一定条件というのは、例えば訪問介護では特定事業所加算、特定施設では入居継続支援加算、といった特殊な加算のうち、一番条件の難しい加算や介護福祉士がxx%以上といった従事者要件をクリアしているもの、とされていて、これを満たす事業所は正直多くはありません。

つまり加算率のうち、低い方の加算率となるのがほとんど、と言えるでしょう。
ちなみにこちらが厚労省発表資料による、業種別の加算率です。

こちらを見てわかるとおり、訪問系にだけ非常に高く、加算率が割り振られていることがわかります。その理由は加算率の算出方法にあって、各業種における勤続10年以上の介護福祉士の人数を概算することで割り振っているそうです。

最近の記事(記事リンク)でも取り上げましたが、訪問介護は高齢化が進んでいます。
いろいろな業種を経験したのちに最後に訪問で働いているケースも多いため、結果として勤続10年を超えるベテランも多く、加算率が高くなった、と考えられます。

配分方法

加算をどう分けるか、については、まず各事業所内で人を3つのタイプに分けます。

①ベテラン介護職員
②普通の介護職員
③事務とかその他の人

①は、元々はまさに「勤続10年の介護福祉士」と言われていたものです。
ただ、さすがに設立10年以内の事業所があったりしますし、例え業界経験通算10年と設定した場合でも、今度はギリギリのところで給与の明暗が分かれてしまうと不満が出る、と思ったのでしょう。

結果として、

勤続年数 10 年以上の介護職員を基本としつつ、他の法人における経験や、当該職員の業務や技能等を踏まえ、各事業所の裁量で設定する

という定義になっています。ちなみに、介護福祉士であることは最低条件となっています。

もってまわった言い方をしていますが、よく読むと実質「事業所が、この人は仕事ができて優秀!と思う人」くらいのあいまいな感じに落ち着いています。
「勤続10年」、という言葉が一人歩きしてしまったために仕方なく文言は残したものの、実質的には無効化した文章になっている、というわけです。さすが八方丸く収める、見事な官僚の調整力!

②、③はもちろん見たままの定義です。

そしてこれら①~③について、どう配分するかのルールが大きく2つ。

ルールA;
平均処遇改善額は、①の改善額≧②の改善額×2、②の改善額≧③の改善額×2となるようにすること

ルールB;
①についてはそのうち最低でも一人、月8万円以上の処遇改善か、年収440万円以上を確保すること

要は一つ目のルールは、介護職員の中で差がつきすぎる!という意見や、事務の人にもお金を配分してほしい、という意見をうまく織り込みつつ、①に対してもしっかり重点的に配分するように、という意図です。

そして元々約束していた月8万円の手当や、介護職員の年収を440万に、といった文言をうまく残しつつ、うやむやにした条件が二つ目の条件、というわけです。

ここでも、官僚の調整能力が光っていますね、さすがと言わざるを得ません 笑

制度の懸念点について

結果として、「勤続10年」「月8万円」といった刺激的なワードが一人歩きしたものの、官僚の素晴らしい調整力によって、個人が手続きをする必要がなく、必ずしも10年働いていなくても給与アップが見込めるルールに落ち着いた(一方で、ベテランがみんな8万円給与が上がるわけでも、年収が440万になるわけでもなくなってしまいましたが…)わけですが、正直いくつかの懸念が残ります。それは企業サイドの負担です。

元々の加算率自体は、経験10年以上の介護士に月8万円の処遇改善ができるだけの金額を、ざっくり業種別に定めたもの、という話をしましたが、当然個別の企業では事情が違います。

ベテランばかりの事業所もあるでしょうし、新しい人ばかりの事業所もあるでしょう。そういった場合、どのように①の人材を定義し、具体的にいくら配分すればよいのかはかなり難しい問題です。そして何より、これらの難解な事務作業をこなせる人間が果たしてすべての事業所で用意できるでしょうか…

また、処遇改善加算は、もらった加算を人件費にしか添加できない仕組みであり、もし人件費の増額が下回るようなら加算がもらえなくなってしまう制度です。

そうなると、企業側としては安全策を取らざるを得ず、もらった加算以上に人件費に配分する必要が出てきます。つまりは、加算がなかった時よりも企業経営は苦しくなる、ということなのです。

最後に

だいぶ長々と書いてきましたが、なんとなく概要はつかめたのではないでしょうか。
ケアリッツでも加算を取ることはもちろん決めていて、この制度に対してどのように対応していくか、まさに検討中です。

少なくとも、能力ある介護福祉士に対しては、今よりも間違いなく待遇は良くなるでしょう。そして、この制度だけに頼らず、さらなる待遇改善にも取り組んでいきたいと思っています。

ケアリッツの採用情報はこちら↓

CURATOR
ケアリッツマガジン運営者 Yuri
普段の業務に加えて、いろいろと記事を書いて情報発信しています。プライベートでは女子力高めなことが好きです。