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【介護コラム】寝ている場合じゃない!⑤

【介護コラム】寝ている場合じゃない!⑤

私たちの仕事は「その人らしさ」を可能な限り尊重することが重要になってきます。なんていうとは誰でも重々承知ではありますが、実際は制度的な制約、時間的な制約、サポートチーム内の価値観の不一致などが行く手を阻み、歯痒い思いをしなければならないことも多々あります。その「実際」を嫌というほど知っているだけに、今回のように、ご本人含めた全員が満場一致で「寝ている場合じゃない!」と思って協調できたことは、私のキャリアの中でも、とても貴重な財産になりました。

振り返ってみて思うのは、ご本人の意思が明確であることの大切さです。自分でできることとできないことをご本人がきちんと見極め、できない部分はしっかり頼ってくださったこと、やりたいことを諦めないということを貫いてくれたこと、その明確な意思と、意志の強さが関係者全員の心を一つにまとめてくれたように感じています。そのおかげで、ご本人らしくいられる時間の最大値を一滴も余すことなくご自宅で全うすることができたように思います。密かに交わしていた「いつか一緒に酌み交わそう」「その時はあなたの贔屓にしている焼き鳥屋の焼き鳥をつまみにしよう」の約束が叶わないままになってしまったことは、多少なりとも心残りではありますが、愛飲されていた発泡酒を時々家で空けながら、「良い時間だったな」と思い出にふけっています。

コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ