移乗介助の方法やポイント・注意点を解説!腰を痛めない方法も

これから介護士として働く上で、移乗介助の方法を知っておきたいという方や、腰痛の予防方法を押さえておきたいと考えている方は多いのではないでしょうか。
移乗は食事介助や歩行介助など力が必要でない介助と比べると、負担が大きいと感じやすい介助です。
そのため、全身の筋力アップに加えて身体の使い方のコツを知る必要があります。
そこで本記事では、うまく負担を軽減しながら介助する方法とポイントを解説します。
注意点や腰を痛めない方法も詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
移乗介助とは?移動介助との違い
ここでは、混同しやすい移乗介助の概要と移動介助の違いを解説します。
この2つには大きな違いがあります。
そのため、使い分けができるようにならなければ、介助方法を誤りトラブルに発展する可能性もあるのです。
介護士を目指す方は、どのように違うのか理解しておきましょう。
移乗介助とは?
現在いる場所から別のところへ移る行為を手助けする行為が「移乗介助」です。
具体的には、車椅子からトイレや車への乗り移りなどといった行為が該当します。
このサービスを提供する対象は、自身で身体を起こせない方です。
例えば、片麻痺がある方や大きな筋力低下が見られる方などに対して行います。
様々な介助サービスがある中でも、介護業界では当たり前のように移乗をサポートする姿が見受けられます。
しかし、要介護者も介護士も身体の負担を感じやすく、行う際は注意が必要です。
要介護者は固まった体を動かすことで痛みが生じる場合があり、介護士は腰を痛める場合があります。
よく行う機会が多いからこそ、双方の身体ダメージが小さく済むスキルを身につけることが重要です。
移乗介助と移動介助の違いは?
乗り移り動作を助ける移乗介助に対し、移動介助は移動そのものを手助けする点が大きな違いです。
移動介助を提供する対象は、手足の筋力低下や麻痺により、歩行が難しい方や車椅子の操作が難しい方です。
街中や建物の中における移動は、転倒のリスクや段差がある場所などもあります。
そのため、トラブルが発生しないようにサポートする必要があるのです。
【パターン別】移乗介助の方法とポイント
ここでは、移乗介助を行う方法をパターン別にお伝えします。
実施する際のポイントも併せて解説するため、これから介護士を目指す方は最後まで目を通しておきましょう。
ベッドから車椅子に移すパターン
ベッドから車椅子に要介護者を移すパターンを解説します。
一般的な方法に加えて、身体の状態に合わせた方法の大きく2通りがあります。
今回は両方の方法をお伝えするので、参考にしてください。
【一般的な場合】
一般的な方法と手順は以下のとおりです。
<方法・手順>
- フットレストを下ろす
- ベッドに対して45度の角度で車椅子を近づける
- 止めて駐車ロックをかける
- ベッドの高さを車椅子より若干高いくらいに調節する
- 要介護者を車椅子がある側の端に移動させて浅く座らせる
- 車椅子側とは反対の脇の下から手を差し込む
- 肩甲骨と一緒に反対側の骨盤を支える
- 要介護者の両腕を介護士の首後ろに回し姿勢を前方に傾ける
- 要介護者のお尻を浮かせてそのまま車椅子に向かって回転させて乗せる
- 深めに座らせる
- フットレストを上げる
うまくいくためのポイントはいくつかあります。
まず、ベッドと車椅子の距離はできる限り近づけましょう。
距離が離れるほど要介護者を移す際に、介護士側の腰に大きな負担がかかります。
次に、駐車ロックを確実にかけましょう。
ブレーキをかけ忘れると要介護者を乗せる際に車椅子が動き、転倒したり介護士の身体の負担が増えたりします。
ベッドに浅く座らせる点も、移乗しやすくするためのポイントです。
要介護者のお尻を浮かせやすくなり、双方の身体の負担が軽減されます。
【片麻痺がある場合】
片麻痺がある要介護者をベッドから車椅子に移す際は以下の方法・手順で行います。
<方法・手順>
- フットレストを下ろす
- 要介護者の動かせる身体側に車椅子を近づける
- ハンドブレーキをかけて駐車ロックをかける
- 麻痺がある身体側の斜め前に立つ
- 要介護者に動かせる側の手でアームに捕まって立ってもらう
- 脇腹あたりを支える
- 動かせる足を軸にして回転させ車椅子に座ってもらう
- フットレストを上げる
ポイントは、先ほどとは異なり、介護士が行うサポートは一部介助である点です。
一般的な介助では全面的にサポートをしていましたが、片麻痺があるパターンでは見守るところがあります。
左右どちらかが不自由であっても、片側でできることがたくさんありますので、自立支援の促しから一部介助となります。
【重度体重の要介護者の場合】
一人で重度体重の要介護者をベッドから車椅子に移す際は、以下の方法・手順で行いましょう。
<方法・手順>
- キャスターが付いていない椅子を要介護者の前に用意する
- ベッドに浅く腰掛けてもらう
- 要介護者の体勢をコンパクトにする
- 身長が小さい方は、床に足裏全面がつくようにする
- 体をくの字にさせて腕を介護士の首後ろに回してもらう
- 脇の下から手を差し込んで支える
- 要介護者を椅子に向けて回転させて座らせる
- さらに車椅子に向けて身体を回転させて座ってもらう
まずは、一度にベッドから車椅子へ移さないようにしましょう。
このようなケースだと、一度で移乗を済ませようとすれば介護士の身体に負担が大きくかかります。
その結果、支えるバランスが崩れて転倒する原因になるため、2つに工程を分けるほうが良いです。
2つ目に、無理せずもう一人のスタッフと協力しましょう。
無理をすれば双方がケガをするリスクがあるため、一人で難しい場合は別の介護士と協力することが大切です。
床で寝ている状態から起き上がらせるパターン
車椅子の移乗に失敗し、床で寝ている状態になることがあります。
この方法は、訪問介護などで床に布団を敷いて寝ている状態から起き上がらせるケースでも活用できるため、目を通しておきましょう。
<方法・手順>
- 自分と対面するように要介護者の身体を横に向かせる
- 身体をコンパクトにまとめる
- 周辺を確認してスペースを確保する
- くの字になってもらう
- 肩甲骨と両膝の裏に腕を伸ばして要介護者を支える
- お尻を支点にしてカーブを描くように手間に身体を引く
- 要介護者を座らせる
- 後ろに回って膝を立てる
- 両脇に腕を差し込み支える
- 「ワン・ツー・スリー」のリズムで前・後・前に動かし反動を使って起き上がらせる
まず、寝ている状態から座った状態にする際に、この原理を使いましょう。
寝ている状態から上体を起こすのは、介護士にとって身体全体に大きな負担がかかります。
この原理を使えば、余分な力を使わずに上体を起こせるため覚えておきましょう。
次に、座った上体から立ち上がらせるタイミングにかかった際に、大きく身体を振りすぎないようにしましょう。
3つ目を数えた際にあまりに大きく身体を前に押すと、過度に前のめりになり転倒するリスクがあります。
力加減を考えながら前後に揺らすようにしましょう。
車椅子からベッドに移すパターン
ここでは、一般的な方法と片麻痺がある場合に分けて、車椅子からベッドに移す方法をお伝えします。
【一般的な場合】
一般的な介助方法・手順は以下のとおりです。
<方法・手順>
- 車椅子をベッドに近づける
- ベッドの高さを車椅子より若干低くなるように調節する
- フットレストを下げて駐車ロックをかける
- 要介護者を座面の前の方に座らせる
- 介護士は足を肩幅に開き重心を落とす
- 要介護者のベッド側の肩甲骨を支える
- 反対側の骨盤を支える
- 要介護者の姿勢を前のめりにさせてお尻を浮かせる
- 持ち上げてベッド側に身体を回転させゆっくりベッドに座らせる
ポイントは、ベッドから車椅子への移乗をする際と変わりません。
車椅子とベッドの距離を近づける、移す際に動かないように必ず駐車ロックをかけることを意識しましょう。
【片麻痺がある場合】
片麻痺がある場合の車椅子からベッドへの移乗方法・手順は以下のとおりです。
<方法・手順>
- 麻痺がない側にベッドがあるようにする
- ベッドに対して15~30度になるように調整しながら車椅子を近づける
- 車椅子よりも若干低くなるようにベッドの高さを調節する
- フットレストを下げて駐車ロックをかけておく
- 麻痺がないほうでベッドに手を着いてもらう
- ゆっくり立ち上がってもらう
- 麻痺がない足を軸に身体を回転させてベッドに座らせる
ポイントは、先ほどと同じように過介護とならないように、見守りながらサポートする必要があります。
バランスを崩しそうになれば手を貨して支え、自分でできそうなところはそっと見守りましょう。
軽介助者を車椅子からトイレへ移すパターン
要介護度が高くない方が車椅子からトイレへ移るパターンでは、以下のように一部を介助します。
<広いトイレ・アームを動かせる車椅子における方法・手順>
- 車椅子をトイレの横の空いてるスペースに停める
- トイレ側のアームを外すもしくは下げる
- 要介護者にトイレ側とは反対のアームを握ってもらう
- 距離を少し空けながら要介護者に近づく
- 脇腹あたりを支えてトイレに移す
<一般的なトイレ・車椅子における方法・手順>
- 便座との距離を少し開けて正面に車椅子を停める
- フットレストを下げる
- 足裏が床につくほど浅く座らせる
- 要介護者の両脇に腕を差し入れる
- 首後ろに手を回してもらい、前のめりの体勢にしてお尻を浮かせる
- 縦の手すりを握ってもらう
- 介護士は腰に手を添えてサポートし立ち上がってもらう
- 手すりが正面に来るように方向転換しズボンと下着を脱がせる
- 横の手すりを握ってもらう
- 身体を支えながら便座の向きに合わせてゆっくり座らせる
このときのポイントとしては、車椅子のタイプやスペースによって、車椅子を停める位置を変えることが挙げられます。
停める位置は、その後の介助のしやすさを大きく左右するため、臨機応変に対応しましょう。
車椅子から自動車へ移すパターン
車椅子に乗った状態から自動車に乗り移ってもらうパターンの介助方法・手順をお伝えします。
<方法・手順>
- 車のドアを全開にする
- 車に対して30度の角度になるようにしながら車へ近づける
- 車との間に介護士が入れるスペースを空けてハンドブレーキをかける
- 駐車ロックをかける
- 車側のアームを外すまたは下げる
- 座面の前側に座らせ前のめり姿勢になってもらう
- 要介護者の前に行って腰を落として膝を立てる
- 要介護者の腰に手を回して支える準備をする
- 介護士の首後ろに腕を回してもらう
- 車側の足を一歩前に出してもらい、片方は後ろに引いてもらう
- ゆっくり立ち上がってもらい、車側の足を軸に身体を回転させる
- 前のめり姿勢にさせて車の座面に座らせる
- 背中を支えながら姿勢を整える
ポイントは、介護士は膝を曲げてスクワット姿勢で行う点が挙げられます。
膝を伸ばしきり腰を曲げる姿勢で介助すると、腰を痛める原因になります。
自動車から車椅子へ移すパターン
自動車に乗った状態から車椅子へ移ってもらうパターンの介助方法・手順をお伝えします。
<方法・手順>
- 車のドアを全開にする
- 車椅子のフットレストを下げておく
- 車との間に介護士が入れるスペースを空けて車椅子を近づける
- 駐車ロックをかける
- アームを上げる
- 片手で要介護者の背中に手を添え、車内側の足に添える
- 両足を引き寄せて車外に出す
- 足裏が地面につくまで座面の前側にずらす
- 車椅子側の足を一歩前に出してもらう
- 介護士は腰を落とし両手で要介護者の腰を支える
- 要介護者に首後ろに手を回してもらう
- 立ち上がり車椅子側の足を軸に身体を回転させる
- 車椅子の座面にまっすぐ座れるように調節しながらゆっくり座らせる
ポイントは、車椅子が倒れないよう工夫をする点が挙げられます。
例えば、可能ならば腰を下ろしている最中に、要介護者にアームを持ってもらうと良いです。
それが難しい場合は、座面に深く座れるように要介護者と車椅子を近づけると良いでしょう。
移乗介助する際の5つの注意点
移乗介助で失敗しないための5つの注意点をお伝えします。
- 転落しないようにする
- 床へのずり落ちがないようにする
- 皮膚の剥離・内出血に気を付ける
- 無理に持ち上げようとしない
- 腰痛が起きない姿勢で行う
では、一つずつ解説します。
【注意点1】転落しないようにする
移ってもらうタイミングで立ち上がった際に、人によっては立ちくらみやめまいを起こして転落することがあります。
対策として、ゆっくり立ち上がってもらいましょう。
特に、寝ている状態から立ち上がるまでを急ぎすぎると、血圧が急激に下がり立ちくらみなどを引き起こしやすくなります。
【注意点2】床へのずり落ちがないようにする
ベッドから車椅子に移ってもらう際は、床へのずり落ちリスクが高まります。
尻もちは骨折などの大けがにつながるため、とても危険です。
ずり落ちが起きないようにするには、車椅子のロックをしっかりとかけ、座面深くに座らせるようにすることがポイントです。
【注意点3】皮膚の剥離・内出血に気を付ける
移乗する際に、どこかにぶつけたり擦ってしまったりしないようにしなければなりません。
特に高齢者は皮膚が弱く、軽くぶつけたり擦ったりするだけでも皮膚が剥離したり、内出血が起きたりします。
けがを発生しないようにするには、足元周辺の環境を把握しておき、丁寧に移乗させることがポイントです。
【注意点4】無理に持ち上げようとしない
無理に持ち上げようとしてズボンを引っ張ったり、腕を引っ張ったりしてはいけません。
ズボンの引っ張り上げは下着の食い込みにつながり、痛みや擦れを起こす恐れがあります。
また、腕の引っ張り上げは肩の脱臼につながります。
無理に持ち上げようとせず、難しければヘルプを呼ぶか福祉用具や補助具を活用しましょう。
【注意点5】腰痛が起きない姿勢で行う
移乗介助を行う姿勢を誤ると腰痛を起こし、慢性腰痛やヘルニアを起こしてしまう場合もあります。
次にお伝えする腰痛を起こさないためのポイントを押さえて、安全に介助を行いましょう。
腰痛に悩まされないための5つのポイント
移乗介助で悩みやすい腰痛の問題です。
痛くならないためにはボディメカニクスを理解し活用することが大切です。
ポイントは以下の5つです。
- 要介護者の体をコンパクトにする
- 足を広げて支持基底面を大きくとる
- 要介護者を前傾姿勢にさせて引く
- 全身の筋肉に力を入れて行う
- 要介護者に近づき遠心力を使って行う
では、一つずつ解説します。
【ポイント1】要介護者の身体をコンパクトにする
要介護者の体重が重いほど、身体が広がっていると重さが分散されて介助が難しくなります。
重心はおへそあたりにあるため、膝をできる範囲で胸に近づけさせ、腕は胸の前にクロスさせると介助が楽になります。
【ポイント2】足を広げて支持基底面を大きくとる
足を広げて支持基底面を大きくとると、バランスの安定感が格段にアップします。
足を閉じているとバランスが不安定になり、持ち上げる際や身体を回転させる際に支えきれず転倒させてしまいます。
左右と前後に対角線上になるように足を設定し、大きく広げて介助を行いましょう。
【ポイント3】要介護者を前傾姿勢にさせて引く
座面からお尻を浮かせる際は、要介護者を前傾姿勢にさせて引くようにすると使う力を小さくできます。
上に持ち上げようとすると体重の重さを感じやすく、腰痛に悩まされる原因です。
前傾姿勢にさせればお尻を浮かせる際の荷重移動がスムーズになり、引くようにすれば持ち上げるよりも軽い力でお尻が浮きます。
【ポイント4】全身の筋肉に力を入れて行う
腰痛の原因は、腕のみに力を入れて介護を行うことです。
腕のみの力に頼れば体重の負担がすべて腕に集まり、姿勢によっては腰を痛めることがあります。
膝を曲げて太ももやお尻、腕、腹筋に力を入れて持ち上げたり、移乗させたりしましょう。
【ポイント5】要介護者に近づき遠心力を使って行う
要介護者とのスペースを大きく空けてしまうと腰を大きく曲げて持ち上げたり、移乗させたりしなければなりません。
立ち上がらせる際は、要介護者と自分の身体をできるだけ密着させて、足の力を使って真上に立ち上がらせるように意識しましょう。
ベッドやトイレなどから車椅子へ移す際は、身体を密着させたまま遠心力を使って回転させるようにします。
まとめ
移乗介助の手順や方法は、移乗させる場所によって若干異なります。
しかし、身体の使い方は基本的に変わりません。
介護士として働く上で腰痛になってしまうのでは…と心配になる方もいるかもしれませんが、しっかりと5つのポイントを押さえれば、腰痛のリスクを軽減できます。
楽に介護できる方法を身につけた介護士を目指しましょう。