経鼻経管栄養とは?メリットやデメリット、注意すべきポイントを詳しく紹介

経鼻経管栄養とは、鼻を通じて胃まで管を挿入し、栄養を与える方法です。
聞きなじみのないことから「自宅でできるの?」「費用は?」など、疑問に感じる方も多いと思います。
本記事では、経鼻経管栄養の基本からメリット・デメリット、注意点までを詳しく解説します。
そのほかの方法についても紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
経鼻経管栄養とは?どのような方に必要?
経鼻経管栄養という言葉が聞き慣れず、詳しい内容や必要な方を知らない人も多いでしょう。
まずは、経鼻経管栄養とは何かを解説し、どんな方に必要なのか、そしてそのほかの種類について触れています。
経鼻経管栄養とは経管栄養の一つ
経鼻経管栄養とは、なんらかの理由により通常の飲食物を口から取り込めない人に対し、鼻の穴から管を入れて胃へ栄養を送る方法の一つです。
鼻を通じて管を直接胃の中まで通すため、肺炎や逆流を引き起こすリスクが低いところが大きな特徴です。
手術の必要がなく取り外しも簡単なことから、ほとんどの方が一時的に使用します。
経鼻経管栄養が必要な方
経鼻経管栄養は、通常の飲食物を口からとれない人に対して実施される方法です。
具体的には以下に挙げられるケースの際に使用されます。
- 消化機能は問題ないが嚥下機能に問題がある方
- 食事量が足りていない方
- 口や喉まわりの手術をして食べ物が摂取できない方
- 脳や神経の病気により食べ物が摂取できない方
なお、使用される期間は1カ月以内と一時的で、それ以上使用する場合は別の方法を検討します。
そのほかの経管栄養方法
経管栄養には、そのほかにも次の3種類があります。
それぞれの特徴も確認しておきましょう。
【胃ろう】
胃ろうは、外科処置によって胃に直接管を挿入し、体の外から栄養を供給する方法です。
経鼻経管と同様に、病気やケガの影響で経口摂取が難しいときに利用されます。
しかし、使用期間が長いことがほとんどで、ケースによっては延命治療として使われることもあります。
【腸ろう】
腸ろうとは、口から食べられない方に対して、腸部分に栄養投与用の管を設置する栄養摂取の手段です。
主に、鼻や胃を使った栄養補給が困難な方に向けて使われます。
胃ろうとは造設する箇所が異なるだけで、使用期間や目的などは同じです。
【口腔食道経管栄養】
口腔食道経管栄養とは、栄養剤を注入するときだけ口からチューブを挿入し、終わったらチューブを抜く方法のことです。
こちらも、嚥下障害や誤嚥の可能性が高い方のために取り入れられます。
通常は取り外されていて、食事のタイミングだけ使用するので、そのほかの時間は違和感が少なくて済むのが特徴です。
また、管を飲み込む行為自体が嚥下機能訓練にもなりますので、リハビリで活用したい方にも使用されるケースが多いです。
経管栄養以外の方法―静脈栄養という選択肢
食事が口からとれないときには、点滴で栄養を補う方法を選ぶことがあります。
これを「静脈栄養」といい、血管に直接栄養を流し込む方法です。
静脈栄養は、「末梢静脈」と「中心静脈」の2つのルートから選ばれます。
【末梢静脈栄養】
末梢静脈栄養は、腕などの浅い静脈に細い管を通して、体内へ栄養を届ける方法です。
一般的にいわれる点滴の一つで、消化機能に問題がある方や、口から食べるのが困難な方に取り入れられますが、使用期間は10日程度と短めです。
血管に直接栄養剤を流し入れるので比較的使用しやすいですが、一日の使用上限が1,000キロカロリー程度と、成人が必要とするだけのエネルギーを十分に補給できない点がデメリットとなります。
【中心静脈栄養】
中心静脈栄養は、体内の中心に近い太い静脈から栄養を供給する方法で、高カロリー輸液とも呼ばれます。
末梢静脈栄養と同様に、消化機能に問題がある方や口から食べるのが難しい方に取り入れられますが、一日の使用上限が2,500キロカロリー程度と、効率的に栄養を取り込めます。
しかし、高カロリーの栄養剤を流し入れるので血糖値が上がりやすく、止めると血糖値が乱低下し低血糖を起こす可能性が高いです。
また、心臓に近い太い血管に管を入れるため、肺を傷つけたり、胸に血がたまったりする合併症を引き起こすリスクがあります。
経鼻経管栄養の処置をできる方
経鼻経管は医療行為にあたるため、一般の方が行うことはできません。
処置ができる方は、以下のとおりです。
- 医師
- 看護師
- 研修を受けた家族、介護福祉士
基本的には、こちらに当てはまる方が処置できます。
ただし、一度入れた管が外れた場合、介護福祉士はもう一度入れ直せませんので注意しましょう。
経鼻経管栄養のメリット・デメリット
経管栄養にはいくつか種類がありますが、それぞれメリットとデメリットが異なります。
どの方法を選ぶかは、ご本人の状態を医師が把握しつつ、家族とも相談しながら決定するのが一般的です。
ここでは、経鼻経管の特徴を踏まえた上で、その長所と短所について見ていきましょう。
メリット
経鼻から栄養をとるメリットには、次の7つが挙げられます。
【手術の必要がない】
胃ろう・腸ろうといった体内に管を通す方法では、おなかに小さな切開を伴う手術が行われることから、少なからず体に負担がかかります。
一方の経鼻経管は、外科手術を伴わない経管栄養です。
やめるときも管を抜くだけで簡単に取り外しできるので、身体的にも精神的にも負担をかけずに済むでしょう。
【在宅介護にも対応できる】
在宅介護でも対応できるところも、経鼻経管の大きな特徴です。
管を入れる処置は医師や看護師が行いますが、注入に関してはご家族でも対応可能です。
また、交換する際も訪問看護サービスを利用すれば、通院する必要もありません。
そのため、経管栄養しつつ自宅で過ごしたい方も取り入れやすいといえるでしょう。
【誤嚥性肺炎を防止できる】
通常であれば、飲食物が誤って肺に入り込む可能性がありますが、食べ物や飲み物が喉を通らずに胃まで届くため、誤って肺に入り込む心配が少なくなります。
そのため、誤嚥性肺炎のリスクが下がり、介護者も安心してケアできる点が特徴です。
ただし、流し込んだ栄養剤が逆流することで起こる誤嚥性肺炎もあります。
個々によって合う・合わないがありますので、よく観察することが大切です。
【消化器系の働きを保てる】
経鼻からの栄養補給は、消化器系に問題がない方に取り入れられます。
消化吸収は通常の動きとなるため、消化器系のリハビリができ、維持につながりやすいです。
また、腸の働きも維持できるため、免疫機能が保たれるところも大きな特徴といえます。
【急激な血糖変化を避けられる】
経鼻経管による栄養補給は、通常の消化吸収となるため、急激な血糖変化を避けられます。
腸や静脈からの摂取であれば、吸収するスピードが通常よりも早くなってしまうので、血糖が急激に上昇しやすいです。
血糖の急激な変化は体に大きなダメージを与える可能性もあるため、比較的体によい方法といえるでしょう。
【幅広いケースで実施できる】
経鼻以外の方法は、手術や体に与える影響といったいくつかの条件をクリアする必要があるため、ケースによっては受けられない方もいます。
反対に経鼻経管であれば、大掛かりな手術を必要とせず、比較的簡単に導入できるため、短期的な栄養管理や一時的な嚥下障害にも対応しやすいという特徴があります。
また、急性期の治療中や在宅介護の現場でも柔軟に対応できる点も大きなメリットです。
【難しい場合はすぐに中止できる】
経鼻経管は取り付けが簡単ですが、やめる際の取り外しも管を抜くだけで簡単に行えます。
そのため、ご本人に合わない場合は、いつでも簡単に中止できます。
また、いつでも簡単にやめられるので、一時的な栄養補給にも適しているといえるでしょう。
デメリット
使用するメリットの多い経鼻経管ですが、反対にいくつかのデメリットもあります。
次に6つ紹介しますので、一緒に確認していきましょう。
【肺への誤挿入の危険がある】
経鼻経管は、挿入時に誤って肺に入るリスクが伴います。
肺に入ったことが分からず栄養剤を流し込んでしまうと、誤嚥性肺炎や窒息を引き起こす可能性があるため、非常に危険です。
そのため、挿入する方は万全の注意を払う必要があります。
【管を外してしまうリスクがある】
経鼻経管の取り付け方法は、管を入れた後、鼻や頬などにテープを貼って固定するだけなので、引っ張れば簡単に取り外せます。
特に認知症や精神疾患を患っている方は、認識のしづらさや、鼻や喉周辺の気持ち悪さなどから抜いてしまうケースが多いため注意が必要です。
再挿入する際は体の負担になりますので、可能であれば抜去のリスクが少ない方法への切り替えを医師に相談するのも一つの手です。
【一定期間ごとの管の交換が必要】
経鼻経管は一度装着すると、しばらく付けたままの状態で過ごさなければならないため、管の内側が洗浄できず、汚れたり詰まったりする可能性があります。
そのため、一定期間ごとに管の交換が必要です。
交換は1~4週間おきですが、交換する際に挿入時の不快感を感じやすく、身体的・精神的に負担があることに気を付けましょう。
【挿入時に不快感を覚えやすい】
経鼻経管を取り付ける際は、鼻や喉まわりに不快感を覚えやすいです。
また、一度装着すると付けたままになるので、慣れるまでは気持ち悪さを感じやすくなります。
【口からの食事訓練が困難になる】
経鼻経管による栄養補給は、食べる訓練に効果的とはいえません。
食事訓練する際は、装着した管を抜き取らなければならず、場合によっては訓練するたびに着脱する必要が出てきます。
もし経口摂取の訓練をしたい場合は、身体的な負担も大きくなるため、別の方法を検討するのがよいでしょう。
【目立ちやすい】
胃ろう・腸ろうといった体内に管を通す方法の場合は、衣類で装着部が隠れますが、経鼻経管では管の一部が露出しているため、隠すのが難しいです。
そのほかの方法よりも目立ちやすいため、外見が気になって人と会うのをためらったり、嫌な思いをしたりする方も多いようです。
在宅で経鼻経管栄養する際の手順やポイント
経鼻経管は在宅でもできるところが特徴の一つですが、ご家族が行う際は医師や看護師から指導を受ける必要があります。
実際行うときに焦らないためにも、ここで手順やポイントを押さえておきましょう。
注入前の確認ポイント
まず、注入前の確認ポイントからチェックしていきましょう。
確認ポイントは以下のとおりです。
- 呼吸は安定しているか
- 口の中で管が絡まっていないか
- カテータチップで吸引すると、胃内部の物が引けるか
- 酸素飽和度が安定しているか(モニターがある場合)
注入回数は医療従事者の指示を受けて決定しますが、一日の中で複数回行われるのが一般的です。
注入前の確認を怠ると、思わぬ事故の原因にもなるため、必ず一つずつ丁寧に確認しましょう。
注入手順
注入は以下の順番で行います。
- 栄養剤を事前に常温に戻しておきます。
- ご本人の頭を45度程度上げた姿勢に整えます。
- カテータチップを用いて、胃まで届いているか確認します。 ※こちらはご家族や介護職員はできません。
- 栄養剤をイリゲーターへ入れ、その後管と連結します。ストップ機能を調整し、決められたスピードで注入を始めます。注入前は声かけも忘れず行いましょう。
- 注入後は、白湯で溶かした薬を管から投与します。薬の種類によってはこの方法が使えないこともあるため、あらかじめ医師に相談しましょう。
- すべての注入を終えたら、ぬるま湯で管の中を洗浄し、残留物を取り除きます。詰まり防止のため、仕上げに酢水を使うこともあります。
- 食後すぐに横になるのは避け、注入終了から最低30分~1時間は、背中を起こした安定した姿勢で過ごしましょう。
注入中の確認ポイント
注入中は、誤嚥が起こらないように以下の5つのポイントに注意しましょう。
- 管の位置がズレていないか
- 呼気漏れがないか
- むせていないか
- 口腔内に汚れや管の絡みがないか
- モニターは正常値になっているか
確認ポイントは目や耳でしっかりと確認することが大切です。
経鼻経管栄養する際の注意点
経鼻経管栄養を安全に行うためには、体の調子や使う道具が問題ないかを確認したり、清潔に保ったりすることがとても大切です。
また、栄養の入れ方や、管が通る鼻のケアにも気を付ける必要があります。
ここでは、注意すべきポイントを分かりやすく紹介します。
体の調子や器具に異常がないか確認する
栄養剤を入れる前は、呼吸の状態、痰の有無、管のねじれなどを丁寧に確認することが重要です。
また、注入が終わった後も、呼吸の状態や意識レベル、吐き気の有無などを細かく観察しましょう。
衛生状態に気を付ける
経鼻で栄養補給する際は、手洗いや消毒はもちろん、器具や注入口の清潔さにも気を付ける必要があります。
手や器具周辺が汚れていたら、注入後に嘔吐や下痢といった体調不良の原因となりますので、すすぎやアルコール消毒などはこまめに行いましょう。
また、注入後は器具の洗浄や消毒、乾燥を必ず行い、清潔な場所に保管することも大切です。
栄養剤の取り扱い方法を守る
経鼻経管栄養で使う栄養剤には、それぞれ決まった使い方や保存方法があります。
使う前は賞味期限を確認し、開封後は記載された保存方法を必ず守りましょう。
栄養剤の保存は、直射日光を避けた涼しい場所が基本ですが、中には冷蔵庫での保管が必要な商品もあります。
間違った方法で保存をすると、品質が落ちて体に悪影響を及ぼしますので注意しましょう。
鼻腔のケアをこまめに行う
管を鼻から入れて栄養補給する経鼻経管は、鼻まわりのケアを自分でしづらくなるため汚れがたまりやすいです。
温めた水で綿棒や柔らかいタオルを湿らせた上で、鼻まわりや鼻腔内を優しく拭き取り、その後ワセリンや軟膏を塗布してケアしましょう。
また、口から飲食物をとれないことから、口腔内はで唾液が分泌されにくくなっています。
唾液が分泌されないと雑菌が繁殖しやすくなってしまうため、口の中のケアを同時に行っておくことも大切です。
経鼻経管栄養する際のよくあるトラブルと予防方法
経鼻経管栄養は、正しく行えば安全な方法ですが、慣れないうちは思わぬ問題が生じることもあります。
事前に知っておくことで、落ち着いて対応できるようになりますので、一緒に確認しましょう。
管が取れてしまった
経鼻経管栄養は、管を鼻に入れるので、鼻や喉まわりに不快感を覚えやすく、その気持ち悪さから取ってしまう方もいます。
特に、認知症や精神疾患を患っている方は、自分で取ってしまうケースが多いため注意が必要です。
挿入した後は、管が体に当たらないようにヘアピンで髪に留めたり、固定位置を工夫したりするとよいでしょう。
万が一取れてしまった場合は、かかりつけの医療機関に連絡しましょう。
管の中で詰まりが発生した
管の中の詰まりを解消せずに栄養剤を入れてしまうと、内部で破裂してしまい、破片が胃内に残ってしまう可能性があります。
注入しにくいといった詰まりがある場合は、すぐに新しい管と取り替えてもらいましょう。
また、注入後は必ずすすぎ洗いをし、必要であれば酢水を管の中に満たしておくと詰まりを予防できます。
気管内へ誤注入してしまった
経鼻から栄養補給する際に、特に注意するべきなのが、誤って気管に管を入れてしまうことです。
誤って気管に入れてしまうと、誤嚥性肺炎や窒息など、命に関わる重大な事故につながるおそれがあります。
管を入れ替えるときや注入の前には、きちんと胃に届いているかを必ず確認する必要があります。
違和感がある場合は無理に進めず、医師や看護師に相談することが大切です。
皮膚トラブルが起こった
固定しているテープ部分に皮膚トラブルを起こす方もいます。
赤みや腫れが見られる場合は、医師や看護師に相談しましょう。
皮膚トラブルを防ぐためには、貼り替えをこまめに行い、同じ箇所に貼らないことが有効です。
体調に変化が見られた
経鼻から栄養摂取する方の中には、下痢や嘔吐、おなかの張りといった体調不良を訴える方もいます。
原因としては、入れる速度や温度のほかに栄養剤の種類などがあります。
症状が見られた場合は、細かく記録に残し、医師や看護師と相談しながら入れ方を工夫する必要があります。
施設利用する際は看護師が常駐している施設を選ぶ
冒頭で紹介しましたが、経鼻経管の処置ができる方は、医師や看護師、研修を受けた家族や介護福祉士などです。
しかし、一度抜けた管を再び挿入するのは、医師もしくは看護師しかできないため、介護サービスを選ぶ際は、医師か看護師が24時間常駐している施設を選ぶ必要があります。
施設によっては、訪問看護サービスを活用することで対応できるところもありますが、現状では十分な数が整っているとはいえません。
そのため、今後の生活や介護の選択肢を広げるためにも、胃ろうへの移行を含めた検討も重要です。
また、リハビリにより経口摂取が可能になるケースもあるため、医師やケアマネジャー、言語聴覚士などと連携し、本人の状態や希望に沿った最適な方法を話し合いましょう。
まとめ
本記事では、口から飲食物の摂取が難しい場合に取り入れられる経鼻経管栄養について解説しました。
経鼻経管栄養は、比較的簡単に始められる方法でありながら、適切な管理とケアが求められます。
トラブルを未然に防ぐためには、体調確認や器具の取り扱い、衛生面への配慮が欠かせません。
医師や専門職と相談しながら、安全で無理のない栄養管理を目指しましょう。