言語聴覚士とは?仕事内容・年収・将来性・キャリアアップ術など徹底解説
言語聴覚士とは、話す・聞く・食べるといった「言葉」と「飲み込み」に関する機能で悩みを抱える方々のケアをする専門職です。
子どもから高齢者までさまざまな年齢層を対象に、医療や福祉、教育の現場で幅広く活躍しています。
本記事では、言語聴覚士の仕事内容を中心に、キャリアアップの方法や資格取得までの流れなどを詳しく解説していきます。
進路やキャリアの選択肢として言語聴覚士に興味がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
言語聴覚士とは
言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションや飲み込みに問題を抱える人々を支援するリハビリテーションの専門家です。
まずは、言語聴覚士の基本的な役割や対象とする症状、理学療法士や作業療法士との違いについて詳しく解説していきます。
言語聴覚士とは
言語聴覚士は、話す・聞く・食べるといった生活の根幹に関わる機能のリハビリを担う国家資格を持つ専門家です。
病気や発達上の理由で困難を抱える人々に対し、専門的な知識と技術でその人らしい生活を取り戻す手助けをします。
対象とする症状
言語聴覚士が対象とする症状は、以下のようなものです。
- 言語障害:話す、聞いて理解する、読む、書くことが難しい
- 高次脳機能障害:記憶力の低下、注意力が散漫になり集中できない
- 音声障害:声が枯れる、かすれる、出にくくなる
- 構音障害:発音が不明瞭
- 嚥下障害:口の中のものをうまく飲み込めない
- 聴覚障害:話し言葉や周囲の音が聞こえない
赤ちゃんから高齢者まで、幅広い年代の「困りごと」に寄り添っていく必要があります。
言語聴覚士の数
言語聴覚士の数は増加し続けており、2025年3月末における言語聴覚士国家試験の合格者数の累計は、43,364名に達しています。
日本言語聴覚士協会に所属する会員で見ると、男性が5,156名で女性が16,950名と、女性の言語聴覚士が圧倒的に多い傾向です。
言語聴覚士の活躍場所
言語聴覚士の主な活躍場所としては、以下のような施設が挙げられます。
- 医療施設:大学病院、総合病院、リハビリテーションセンター、耳鼻咽喉科、口腔外科など
- 介護施設:介護老人保健施設、デイケア、訪問看護事業所、訪問リハビリテーション事業所など
- 福祉施設:肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、児童発達支援センター(事業所)、放課後等デイサービスなど
- 保健施設:保健所、保健センター、行政機関など
- 教育機関:小・中学校、特別支援学校、研究施設、言語聴覚士教育施設(大学、短大、専門学校)など
言語聴覚士として働く魅力
言語聴覚士は社会的ニーズの高い職種であるため、離職しても再就職しやすい点が魅力です。
女性の割合が多いことから、ライフスタイルの変化に合わせて働き続けることのできる職種だといえます。
失われた機能が回復していく過程を間近で支え、その人の人生の質を大きく向上させられることに、やりがいを感じている言語聴覚士が多いです。
ほかのリハビリテーション職との違い
言語聴覚士と理学療法士、作業療法士はすべて国家資格の職種です。
患者さんの訓練・サポートを担う点では同様ですが、その内容において明確な違いがあります。
【理学療法士】
理学療法士は、「座る・立つ・歩く」といった基本的な動作能力の回復を目指す専門家です。
主に運動療法や物理療法を用いて身体機能の改善を図り、自立した日常生活を送れるようサポートする役割を担います。
近年では、スポーツ現場や産業分野などの領域まで、活躍の場が拡大している職種です。
【作業療法士】
作業療法士は、食事や入浴、仕事、趣味など、その人にとって意味のある「作業」を通して心と体のリハビリを行います。
応用的な動作能力の回復を支援し、その人らしい生活の再構築を目指すことが、ほかのリハビリ職と異なる点です。
就労・生活支援センターや地域包括支援センターといった地域社会の重要な拠点でも、その専門性を発揮し活躍しています。
言語聴覚士の仕事内容
言語聴覚士の仕事は多岐にわたりますが、「話す」「聞く」「食べる」といった人間の基本的な機能に関する訓練やサポートが中心です。
また、発達段階にある小児への支援も重要な役割の一つであり、一人ひとりの状態に合わせた専門的なアプローチが求められます。
以下に、言語聴覚士が取り組む訓練やサポートの内容を記載します。
話すことの訓練・サポート
話すことの訓練・サポートは、脳卒中や交通事故などが原因で言葉が出にくくなったりする「失語症」や、ろれつが回りにくくなる「構音障害」を持つ方などに対して行う支援です。
一人ひとりの症状に合わせて言葉を思い出す訓練や、口や舌を動かす練習を実施し、円滑なコミュニケーションを取り戻せるようサポートします。
聴くことの訓練・サポート
聴くことの訓練・サポートとして、加齢や病気による難聴の方に対し、補聴器の選択や調整、活用するためのトレーニングを行います。
また、人工内耳を装用した方のリハビリも、言語聴覚士が中心となって担当します。
新生児から超高齢者まで、幅広い年齢層の方々が支援の対象です。
食べることの訓練・サポート
食べることの訓練・サポートとして、加齢や病気で食べ物がうまく飲み込めなくなる「摂食嚥下障害」のリハビリを実施します。
安全に食事をするための筋力訓練や、食べやすい食材形状の提案、食事に前向きな姿勢の育成なども支援の内容です。
食事へのモチベーションを向上させ、患者さんの食べる楽しみを育てていきます。
小児の訓練・サポート
小児の訓練・サポートとして、言葉の発達遅れや対人関係が苦手な子どものコミュニケーション問題に対応します。
子どもが楽しめるような玩具・絵本などを使って発語を促し、必要な場合は文字の習得も目指していくものです。
子どもの成長を支えるため、ご家族や学校と密接に協力し、最適な環境づくりにも貢献していきます。
言語聴覚士の一日と訓練内容の事例
言語聴覚士を目指す場合、実際にどのように働き、どのような訓練を行っているのか、具体的なイメージを持つことは重要です。
ここでは、病院勤務の言語聴覚士を例に、一日のスケジュールや訓練内容の事例を紹介していきます。
勤務内容の特徴
勤務先によって異なりますが、言語聴覚士の勤務は日勤であることが一般的です。
患者さんへの訓練は決まった時間に行われ、急患や夜勤などに対応することも少ない傾向があります。
ただし、スキルアップを目的として、勤務時間外に勉強会や講習会が行われるケースは珍しくありません。
病院における勤務スケジュールの一例
病院における言語聴覚士の勤務スケジュールを、一例として以下に示します。
8:30:出勤およびミーティング | 患者さんの情報を共有し、ほかの医療スタッフとミーティングを行います |
9:00~午前中:患者さんの訓練 | 数名の患者さんに対して、言語訓練を行います |
12:00:患者さんの食事確認 | 患者さんの食事を確認し評価を行います 状況に合わせて嚥下訓練も行います |
13:00:休憩 | |
14:00~午後:患者さんの訓練 | 患者さんの訓練を行いつつ、必要な方に対してさまざまな検査も行います |
17:00:カルテ記載と申し送り | 患者さんの情報をカルテに記載し、申し送りを済ませて勤務終了です |
患者を対象とした訓練内容の例
患者さんを対象とした訓練内容の事例を、以下に示します。
【摂食・嚥下】
安全に飲み込むための訓練として、口や舌の体操、誤嚥した際の吐き出しなどを行います。
食事中に食べ物が誤って気管に入り、それが原因で引き起こされる誤嚥性肺炎や窒息の危険性を減らすことが狙いです。
その人に合った食事の形態や食べ方を指導しつつ、姿勢や食べるペースの調整も支援として取り組みます。
【成人言語・認知】
失語症の方には、絵カードを使って物の名前を言う訓練や、文字を読む練習などを実施します。
記憶力や注意力が低下した高次脳機能障害の方には、日常生活に直結した課題を用いて、社会復帰に必要な認知機能の改善を目指していきます。
【発声・発語】
声帯の麻痺や筋力低下などで声が出しにくい方には、口や舌、頬の筋肉を鍛える運動や、一音一音をはっきりと発音する練習などを通して、明瞭な会話をサポートします。
改善が難しい患者さんに対しては、言葉以外でのコミュニケーション方法を提案する場合もあります。
【小児言語・認知】
言葉の発達がゆっくりな子どもに対しては、絵本や積み木などのおもちゃを使った遊びの中で言葉を引き出せるよう促します。
楽しみながら自然にコミュニケーションの基礎を育み、言葉の理解と表現の力を伸ばしていきます。
【聴覚の支援】
補聴器を着けたばかりの高齢者には、話された内容をより正確に聞き取り、言葉として再現できるよう、読み上げと復唱を繰り返す練習を行います。
雑音の中でも会話に集中できるようサポートし、補聴器を使いこなして円滑なコミュニケーションが図れるよう支援することが目的です。
言語聴覚士の給与事情
職業を選択する上で、給与や将来性は重要な判断材料となります。
ここからは、言語聴覚士の平均的な年収をはじめ、今後の需要や、経験・スキルが収入にどう影響するのかといった、給与事情について解説していきます。
言語聴覚士の平均年収
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、言語聴覚士の平均年収は約440万円程度と推測できます。
この調査では言語聴覚士単独の数値は公表されておらず、あくまでリハビリ専門職全体の平均値をもとにした推計となります。
当然ながら、勤務先の規模や地域、経験年数によって年収は異なります。
言語聴覚士の将来性
高齢化に伴い、摂食嚥下や高次脳機能障害のリハビリ需要は今後ますます増加します。
言語聴覚士の数は不足状態にあり、社会的なニーズは非常に高いです。
言語聴覚士の専門性は、ますます多くの医療機関や施設で求められ、活躍の機会も増えていくと予想されます。
スキル・経験による収入の変化は?
言語聴覚士のような医療に関わる人材は、資格取得をはじめとしたスキルアップよりも、経験と勤務年数によって収入が上がっていく傾向です。
役職に就くことでも給与アップに期待でき、安定した収入としっかりとしたキャリア形成にも期待できるでしょう。
ただし、資格取得のようなスキルアップが推奨されないかというと、そうではありません。
より専門性の高いサービスを提供できることにつながり、転職時のアピールポイントにもなるのでおすすめです。
言語聴覚士のキャリアアップ術
医療の人材として長く活躍し続けるためには、将来を見据えた行動が不可欠です。
ここでは、言語聴覚士に可能なキャリアアップ術について解説していきます。
専門領域の拡大
小児や摂食嚥下、聴覚など、さまざまな分野で高度な知識と技術を追求することで、キャリアアップを狙えます。
知識の幅が広がると、より大きなフィールドで働くことが可能になります。
多くの臨床現場で活躍できるようになり、ほかの医療スタッフをまとめ上げられる、管理職への道も開かれるでしょう。
特定分野に偏らない知識の取得も、言語聴覚士のキャリアアップ方法としておすすめです。
新たなスキルの取得
臨床現場で求められる、関連領域のスキルを学ぶことも有効です。
例えば、心理学の知識を深めてカウンセリング能力を高めたり、手話や外国語を習得して対応できる患者層を広げたりすることが、自身の市場価値を高めることにつながります。
施設内のチームプレイ向上を目指すなら、「栄養サポートチーム専門療法士」の資格取得もおすすめです。
リーダーへの昇格
数年間の臨床経験を積んだ後、リハビリテーション部門の主任や課長といった管理職を目指す道です。
個別の患者さんだけでなく、チーム全体をマネジメントする役割を担います。
経験・知識・信頼など、求められる要素は多いですが、言語聴覚士のキャリアアップ方法としては上位の選択といえるでしょう。
スタッフの育成や業務改善にも携われるので、働いている施設や組織にも大きく貢献できます。
独立開業
言語聴覚士としての経験と実績を生かし、自ら事業所を立ち上げる方法もキャリアアップの選択肢です。
保険診療での開業は不可能ですが、吃音治療や言語訓練など、医師の指示を必要としない分野であれば、自費診療で開業できます。
高い専門性に加え、経営に関する知識や手腕も求められる選択肢です。
言語聴覚士としての開業を目指すのであれば、しっかりと勉強して慎重に検討する必要があります。
言語聴覚士になるには
言語聴覚士になるには、国家資格の取得が必要です。
ここからは、資格を取得するための具体的な学習ルートや、最短で言語聴覚士を目指す方法、知っておくべき国家試験の概要について詳しく解説していきます。
資格取得までのルート
高校卒業後、文部科学大臣が指定する大学(4年制)や短大(3年制)、専修学校(3~4年制)の養成課程を修了すると国家試験の受験資格が得られます。
一般の4年制大学を卒業した人であれば、2年制の専修学校を卒業することで、受験資格を得ることが可能です。
最短で言語聴覚士になるには
高校卒業後、3年制の短期大学または専修学校に進学するのが、国家試験を受験するための最短ルートです。
このルートで言語聴覚士になった場合、大卒の学歴は得られない点に注意しておく必要があります。
国家試験の概要
国家試験は年に1度、2月に行われ、マークシート方式の5択で200問(1問1点)が出題されます。
基礎医学から臨床医学、言語聴覚障害学総論など、12科目にわたる幅広い知識が問われる試験です。
合格に必要な基本ラインは120点といわれており、合格率は例年60~70%台で推移しています。
言語聴覚士に求められる要素
患者さん一人ひとりと深く関わる言語聴覚士には、専門知識や技術以外にもさまざまな能力が求められます。
ここでは、円滑なリハビリテーションを進める上で特に重要となるコミュニケーション能力や観察力、そして患者さんに寄り添う粘り強さといった資質について解説していきます。
コミュニケーション能力
幅広い年代にわたる患者さんを対象とする言語聴覚士にとって、高いコミュニケーション能力は不可欠です。
相手の不安や希望を丁寧に聞き取り、分かりやすく説明する力が求められます。
また、医師や看護師などさまざまな医療スタッフと関わり合う点でも、円滑に連携するためスキルは必要といえるでしょう。
協調性
言語聴覚士が行うリハビリは、多くの専門職が関わる「チーム医療」の一環として行われます。
医師や看護師、理学療法士など、他職種のメンバーと連携し、情報を共有しながら同じ目標に向かえる協調性が重要です。
それぞれの専門性を尊重し、協力し合う姿勢が求められます。
観察力・洞察力
患者さんが発する言葉だけでなく、表情や声のトーン、行動の小さな変化から状態を正確に読み取る観察力が求められます。
リハビリの効果を判断したり、隠れた問題点を見抜いたりする上でも、鋭い観察力と洞察力は欠かせない資質です。
粘り強さ
言語聴覚士が行うリハビリの効果は、すぐに現れないことも珍しくありません。
患者さんのわずかな変化を励みに、根気強く支援を続ける粘り強さが必要です。
思うように進まない状況でも諦めず、さまざまなアプローチを試しながら、目標達成まで寄り添う姿勢が求められます。
まとめ
言語聴覚士は、言葉や聴こえ、食事の悩みに寄り添い、その人らしい生活を取り戻す手助けをする、やりがいのある専門職です。
高齢化社会の進展や医療の多様化に伴い、その活躍の場もますます広がっている傾向にあります。
ですが、言語聴覚士になるには国家資格の取得が必要で、受験資格を得るまでの道のりも決して楽ではありません。
言語聴覚士を目指したいと考えている方は、本記事の内容も参考にしてしっかりと検討してみてください。