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【事例あり】介護現場での事故報告書の書き方を詳しく解説

【事例あり】介護現場での事故報告書の書き方を詳しく解説

介護現場での事故報告書は、安全な業務運営を支えるために欠かせない重要な書類です。

施設で事故が起きた際には市町村など関係機関への報告義務があるため、正確で適切な内容の記載が求められます。

本記事では介護における事故報告書の目的や役割、事例をもとにした記入例をご紹介します。書き方のコツについても解説するので、業務に役立ててください。

介護の事故報告書を書く目的

事故報告書の作成は、単に介護施設の義務というだけではありません。報告書作成の目的は、事故の再発を防ぐことで安全・安心な施設運営を可能にし、利用者やご家族との信頼関係を構築することです。目的を理解することで何をどのように記載するべきかが明確になり、報告書としての役割も向上します。まずは事故報告書作成の目的を理解しておきましょう。

事故の原因を分析して再発を防ぐため

 

介護の事故報告書を作成する一番の目的は、原因の追求と再発防止のための対策を立てることです。事故の発生時は慌てていたり気が動転していたりして、発生状況の詳細な理解が難しいかもしれません。事故への対応を終えた後、落ち着いたときに改めて事故の状況を詳しく記録することで、頭の中が整理され、より原因が明確になります。さらに適切な対策を講じ、同じ事故を繰り返さないようにすることで、利用者にとって安心した生活を実現することが可能です。

職員全員に事故後の対応を共有するため

 

事故が発生したときの状況を職員全員が理解し、対策に沿った業務を行うことが、事故の再発防止に不可欠です。事故の詳細や対策が過不足なく整理して記載された報告書は、他職員の事故に対する理解も深めることで、新たな事故を未然に防ぐことにつながります。事故報告書の内容が読みやすく簡潔にまとめられていれば、職員への共有もスムーズになります。

事故発生後に行った対応の証明のため

 

重大な事故が発生した後は、事故が起きた原因やその後の緊急対応が適切であったかどうかを利用者の家族から説明を求められることがあります。場合によっては、施設側の対応不備から裁判に発展する可能性もゼロではありません。事故がなぜ起きたのか、その後の対応が適切であったかどうかを記録しておくことで、真摯に対応できるでしょう。事故が起きた状況や対応の詳細な記録が、施設や職員を苦情や訴訟から守ることにつながります。

市町村へ報告する義務があるため

 

介護施設でのサービス提供中の事故は、その内容を事故報告書に記載し、市町村に提出する義務があります。厚生労働省の「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」では、下記のとおり定められています。

介護老人保健施設は、入所者に対する介護保健施設サービスの提供により事故が発生した場合は、速やかに市町村、入所者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講じなければならない。

重大な事故とその他各自治体が定める事故については、市町村への報告が必要です。これは介護施設が事故に対する原因や対応、再発防止策を適切に実行できているかを確認し、介護サービスの質の向上と改善につなげることを目的としています。事故報告書の作成は、介護施設を運営していくために必須の業務です。

介護事故と見なされるケースとは?

介護事故に含まれる範囲は、市町村の規定によっても異なります。ここでは、一般的な基準で介護事故とされるものを紹介しましょう。

一般的な介護事故の範囲

 

主に介護事故とされるものには以下のようなものがあります。

  • 転倒・転落
  • 誤嚥
  • 異食・誤飲
  • 誤薬
  • 火災・火傷事故
  • 物損事故
  • 施設外への無断外出
  • 介助ミスによるケガ
  • 送迎中の事故

全国社会福祉協議会が作成した「福祉サービス事故事例集」では、事故の定義を下記のように定めています。

施設における福祉サービスの全過程において発生するすべての人身事故で身体的被害及び精神的被害が生じたもの。なお、事業者の過誤、過失の有無を問わない。

ケガを伴う転倒や、介助時に爪が当たって傷を負わせたなどの事故はもちろん、外傷を伴わない転倒など、身体上の被害はなかったとしても安全面で問題があったものは介護事故に含まれるのが一般的です。

ヒヤリハットとの違い

 

事故報告書と同様に新たな事故を未然に防ぐものとして、ヒヤリハットが思い浮かぶかもしれません。ヒヤリハットに含まれるものは、転倒や異食といった事故には至らなかったものの、もう少しで転倒していた、もう少しで間違えるところだったとされる事象です。事故に至らなくても、原因の追及や対策の徹底によって事故の発生を未然に防ぐことが可能であるため、事故報告書とともに安全な施設運営のために重要視されています。

介護の事故報告書の様式

事故報告書には厚生労働省によって定められた様式があり、それを使用するか同じ内容の様式を準備することが必要です。作成後は市町村への提出が義務であるため、記載内容の不備や提出漏れがないように内容を確認しておきましょう。また、事故報告書の様式はこれまでも法改正によって変更されています。今後も改定されることがあるため、厚生労働省からの通達には注意しておきましょう。

事故報告書様式の改定

 

以前は事故報告書の様式や報告の基準が市町村によって違いが生じていましたが「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」によって、事故報告書の様式が統一されて情報の収集と傾向の分析が容易になりました。令和6年には事故報告書の様式が一部改定され、チェックボックスや独自項目欄の追加、電子的な報告の推奨が明記されています。

参照:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告」

参照:厚生労働省「介護保険最新情報 介護保険施設等における事故の報告様式等について(通知)」

事故報告書の記載項目

 

厚生労働省が実際に推奨している事故報告書の様式を見てみましょう。項目は主に9つです。

  • 事故状況:事故によって入院や死亡が発生した場合、該当箇所にチェック。死亡の場合は死亡年月日を記入。
  • 事業所の概要:事業所の名称や所在地などの情報を記入。
  • 対象者:事故に遭った利用者の介護度といった情報を記入。
  • 事故の概要:事故が発生した日時、場所、種別、状況の詳細を記入。
  • 事故発生時の対応:事故が発生したときにどのような対応をしたか、医療機関を受診した場合は診断の内容を記入。
  • 事故発生後の状況:事故発生後の利用者の状況やご家族などへの報告日時などを記入。
  • 事故の原因分析:事故の原因となった要因を「利用者側」「職員側」「環境」の3つの視点から分析して記入。
  • 再発防止策:事故の再発を防止するための具体的な対策を記入。対策が有効であったかを評価する期間と、その結果も記入。
  • その他特記事項:そのほかに共有しておきたい情報がある場合に記入。

市町村への報告が必要な事故

 

原則として、介護保険施設のサービス提供中の事故で、下記についてはすべて市町村への報告義務があります。

  • 死亡を伴う事故
  • 医師による診断を受け、投薬や処置などなんらかの治療が必要となった事故

上記以外の事故に関しては、市町村の規定によって異なるため確認が必要です。

 

【5日以内にメールで送付】

市町村への提出は電子メールを使用し、事故発生から5日以内と定められています。もし、5日以内にすべての項目を埋めることができない場合は、9つの項目のうち、①から⑥までを可能な限り記載して5日以内に提出します。その後、状態の変化や原因の分析、対策の内容や有効性の評価結果を記入して再度提出が必要です。

 

【自治体ごとの違い】

報告が必要な事故は市町村の規定によって異なり、自治体によっては食中毒や感染症、職員の犯罪や不法行為についても、事故として報告が義務付けられている場合もあります。施設の管理者は必ず施設のある市町村の条例を参照し、報告義務のある事故を確認しておきましょう。

介護の事故報告書の書き方

事故報告書は再発防止と職員への周知が目的であるため、事故の状況を正確に記載する必要があります。読み手が意味を誤解しないようにするためには、具体的に記録することや客観的な視点で記入することが大切です。

5W1Hを意識する

 

介護記録は5W1Hで記載することが推奨されていますが、事故報告書においても同様です。いつ(when)・どこで(where)・誰が(who)・何を(what)・なぜ(why)・どのように(how)したかが分かるように記載しましょう。例えば、転倒事故があった際は利用者がベッドサイドで倒れていたのか、それとも離れたところで倒れていたのか、車椅子の位置や向きはどうなっていたかによって、考えられる原因や対策が異なります。転倒した利用者の行動理由を聞き取ることも大切です。普段の記録から5W1Hを意識して取り組んでいれば、自然と身に付くようになるので、意識して継続してみましょう。

客観的事実を書く

 

介護の事故報告書には、客観的な事実だけを記入するようにしてください。自分が見ていない、聞いていない部分を主観で補うように書いてはいけません。主観が入ってしまうと、職員で対策についてのカンファレンスをしても、本来の原因とは異なった対策になるかもしれません。どうしても不明瞭な部分を補わないと全容を記載できない場合は「◯◯の理由から✕✕と思われる」という形式で、記録者の想定であることが分かるように記載しましょう。

誰にでも分かりやすい表現で書く

 

事故報告書は市町村への提出が必要なことが多く、さらには利用者やご家族から要請があれば内容を開示する必要もあるため、誰にでも理解できるように記載しなければなりません。具体的には専門用語や略語は記載せず、介護に詳しくない人でも理解できるようにすることが大切です。例えば、ポータブルトイレを「PT」としたり、「いつもと同じ介助で」と記載したりすると、読んでいる人がPTの意味を間違える可能性や、どのような介助が「いつも」なのか分からないことが想定できます。職員間だけでなく、誰が読んでも誤解なく理解できる言葉を選ぶことが大切です。

実例から学ぶ介護の事故報告書の記入例

事故報告書の書き方を、実際に介護現場で起こりやすい内容を参考に解説します。5W1Hが意識されていることと、客観的視点で書かれていることを確認しましょう。

事例①転倒事故

 

事故報告書を書く際は、転倒によるものが多いのではないでしょうか。まずは転倒事故を例に、基本的な事故報告書の書き方を覚えていきましょう。

 

【事故の概要】

夜間の巡視のため訪室すると、居室トイレにて体の左側を下にして倒れているA様を発見する。A様に状況を聞くと、ベッドから起き上がり、トイレに行こうとしたときにふらついて転倒したとのこと。足元につまずくようなものはなかった。

 

【事故発生時の対応】

意識清明。本人様への聞き取りにて、左の腰を床に打ったとのこと。看護師に報告。全身の外傷チェックを行うが、異状なし。バイタルチェックを行い、血圧142/84、脈拍82、体温36.1℃、SPO2は97%。往診医に電話で報告し、痛みの箇所に湿布を貼り様子を見るようにとの指示。

 

【事故の原因分析】

  • 本人様要因:22時に眠剤を内服しており、ふらつきがあった。
  • 介護者側要因:ほかの業務のため、本来23時の巡視が30分遅れていた。
  • 環境要因:照明がすべて消えており、居室内が真っ暗だった。ベッドからトイレまでの導線上には、支えとなるものが何もなかった。

 

【再発防止策】

  • 22時の眠剤内服時にトイレ誘導をする。
  • 居室の入口とトイレの照明はつけておく。
  • 据え置き型の手すりの設置を検討する。

事例②誤薬

 

誤薬は発生件数こそ少ないものの、死亡事故に至る可能性もある極めて重大な事故です。ほかの人の薬を間違えて内服する以外にも、薬を落下させる、飲み忘れる、紛失するといったことも誤薬の一種です。

 

【事故の概要】

朝食時にB様の内服介助のため、薬ケースから内服薬を取り出す際、誤って同じ名字のC様の薬を取ってしまい、そのまま内服介助をしてしまう。その後、C様の内服介助のため薬ケースを見ると、C様の薬がなく、B様の薬が残っているのを見て誤薬に気づく。

 

【事故発生時の対応】

看護師に報告。B様が内服したC様の食後薬の内容を確認すると、血圧を下げる薬が含まれていることが判明する。往診医に電話で報告し、1時間おきの血圧測定を12時間実施とのこと。また低血圧症状に注意しながら様子観察の指示あり。

 

【事故の原因分析】

  • 利用者様要因:高齢による認知機能の低下により、いつもより錠数が多いことに気づかなかった。
  • 介護者側要因:内服前には薬袋に記載された名前の読み上げを行うことになっていたが、名字しか読み上げず、そのまま内服介助をしてしまった。
  • 環境要因:同じ名字を持つ利用者様の薬が隣同士で置かれていた。

 

【再発防止策】

  • 服薬介助時の読み上げはすべてフルネームで行うこととし、マニュアルの徹底を共有する。
  • 同じ名字を持つ利用者様の薬がある場合はマーカーで印をつけ、注意を促すようにする。

介護の事故報告書作成時の注意点

最後に、事故報告書を書く際の注意点について解説します。事故の概要や発生時の対応について、表現があいまいであったり、記載内容に不備があったりすると、再発防止のための対策になるどころか、最悪の場合は裁判で多額の損害賠償を請求されることにもなりかねません。以下の点に注意して書き進める必要があります。

原因を十分に洗い出し、事故の要因を分析する

 

原因と対策を一人で考える必要はありません。必要に応じてカンファレンスを行い、複数名がさまざまな視点から原因を追求することで、最適な再発防止策にたどり着くことでしょう。そのためには、事故の概要には事故発生時の状況をできるだけ詳しく書くことが求められます。例えば、転倒時にはどの向きで倒れていたか、靴を履いていたかどうか、車椅子のブレーキはかかっていたかどうかなどは原因の分析において重要な情報です。事故が起きた状況を詳しく記載し、得られた情報によってあらゆる角度から原因を突き止めることが大切です。

裁判の証拠になる可能性もあることに留意する

 

たとえ事故発生時に適切な対応をしていても、記録に不備があるとご家族から説明を求められた際に正確に答えられなかったり、裁判に発展した場合施設側に不利な証拠として取り上げられたりする可能性があります。特に事故発生時の対応については、その後の経過によっては誤った処置が病状の悪化を招いたと疑われるかもしれません。対応の記録は時系列に沿って詳しく残すことで、ご家族への正確な説明が可能となり、対応した職員自身を守ることにもなります。

対策は実現可能で具体的なものにする

 

事故報告書を作成する際、再発防止策は実現可能で具体的な内容にすることが重要です。「今後気を付ける」「チェックを強化する」「改善に努める」といったあいまいな表現では、実際に何をどう改善するのかが伝わらず、再発防止策としては不十分です。ヒューマンエラーは完全にゼロにはできませんが、組織としてミスが起きにくい仕組みや環境を整備することが大切です。例えば次のような具体策を盛り込みましょう。

  • 手すりを新たに設置する。
  • 利用者の名前を必ず声に出して確認する。
  • 介助手順をマニュアル化して全職員に周知徹底する。

こうした積み重ねが、施設全体の安全意識の向上にもなります。

まとめ

介護の事故報告書は単なる記録ではなく、利用者の安全を守るとともに、職員同士の情報共有を図り、施設全体の質を高めるための重要なツールです。事故の原因について客観的に分析し、再発防止につながる具体的な対策を講じることが、利用者やご家族からの信頼につながります。簡潔で正確な記録は、ご家族や行政への説明責任を果たすためにも必要不可欠です。事故報告書の作成に苦手意識を持つ方も多いかもしれませんが「5W1Hを意識する」「事実のみを書く」「誰にでも分かる言葉を使う」といった基本を押さえれば、誰でも適切に記録ができるようになります。今回紹介したポイントや事例を参考に、日々の業務に役立ててください。