相談援助業務とは何をする仕事？種類や必要な資格、介護職との違いまでを解説

介護の仕事における「相談援助業務」とは、利用者や家族の困りごとを受け止め、必要な支援や制度につなげる役割を担う仕事です。

とはいえ、介護現場で直接身体介護をする機会は少ないため、「実際に何をするの？」とあまり知らない方も少なくないでしょう。

本記事では、相談援助業務の仕事内容、必要な資格、介護職との違いまで詳しく解説します。

相談援助業務に関心のある方、現場への理解を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

相談援助業務とは？

相談援助業務とは、日常生活で何らかの悩みがある方に対して、相談を受けたり、一緒に問題解決したりする仕事です。

相談援助業務を行う人は「ソーシャルワーカー」や「ケアワーカー」と呼ばれ、福祉分野における重要な役割を果たしています。

ここでは、相談援助業務の仕事内容や種類、働ける場所を紹介していきます。

相談援助業務の仕事内容

相談援助業務といっても、その種類はいくつかあり、それぞれ仕事内容も異なってきます。

以下では、相談援助に関わる3種類の仕事を紹介しますので、気になる方はチェックしてみてください。

介護施設における相談援助

介護施設における相談援助は、介護サービスを利用される方の相談が主な仕事となります。

具体的には、高齢になった方の日常生活における相談はもちろん、介護サービスに関する手続きや利用方法、ご家族との連絡調整などを行います。

介護業界では、利用者ごとに介護度が異なってくるため、幅広い知識と経験が必要となってくるでしょう。

医療施設における相談援助

医療施設における相談援助は、病院や医療機関に入院している患者さんの相談対応が主な仕事です。

具体的には、入院している患者さんやそのご家族に対して、退院援助や社会復帰支援、受診援助、そして経済的問題の解決も業務のうちの一つです。

医療施設では、患者さんや家族の思いを丁寧に受け止めながら、多職種と連携して解決策を共に考える姿勢や、調整力が求められてくるでしょう。

行政施設における相談援助

行政施設における相談援助は、学校や家庭、子育てなどの相談対応が主な仕事となります。

具体的には、不登校やいじめの相談をはじめ、虐待や子育て、家庭の経済的な相談などが挙げられます。

行政施設では、学校や福祉機関、地域団体など多様な関係先と連携を図り、最適な支援につなげる調整力や柔軟な対応力が必要です。

なお、行政施設には、市役所や市区町村の支所、福祉事務所などがありますが、行政施設で働くためには公務員試験に合格する必要があります。

相談援助業務の種類と働ける場所

相談援助業務ができる職場は、種類によって異なります。

以下に種類別に分けた働ける場所を紹介しますので、参考にしてください。

このように、就きたい仕事によって働ける場所が異なってきます。

相談援助業務に必要な資格と取得方法

相談援助の業務をするためには、資格を取得するのが一般的です。

しかし、資格の種類はいくつかあり、就きたい仕事によっても必要な資格が異なってきます。

ここでは、相談援助業務に必要な資格と、その取得方法を詳しく紹介していきます。

社会福祉主事任用資格

社会福祉主事任用資格は、都道府県や各自治体にある福祉事務所、公共の福祉施設で働く際に必要な資格です。

また、場合によっては各福祉施設でも取得が必要なケースもあります。

取得方法は以下のいずれかを満たす必要があります。

なお社会福祉主事任用資格は、取得するだけでは効力が発揮されず、国家公務員に合格し、市役所や福祉事務所に勤めることで初めて「社会福祉主事」として資格の意味が出てきます。

社会福祉士

社会福祉士は、福祉の相談業務における専門家といえる資格で、取得すると高齢者や障がい者、児童、生活困窮者の相談業務も行えるようになります。

取得するには、国家試験に合格する必要があり、また受験資格を得るためには、指定科目の修了や実務経験を積む必要があります。

受験資格を得るためのルートは、以下のとおりです。

取得までに時間がかかる資格ではありますが、仕事をしながら取得できるところはメリットといえます。

精神保健福祉士

精神保健福祉士は、精神障がいを持つ方の相談や対応が行えるようになる相談業務の資格です。

社会福祉士と同様に、受験資格を得るために指定科目の修了や実務経験を積まなければなりません。

受験資格を得るためのルートは、以下のとおりです。

なお、社会福祉士を取得している場合は、短期養成施設で6カ月以上のカリキュラムを修了すれば受験資格を満たせます。

介護支援専門員（ケアマネジャー）

介護支援専門員（ケアマネジャー）は、介護施設における利用者のケアプランの作成や、ほかの事業所とのやり取りや調整を担うために求められる資格です。

取得するためには、いくつかの条件を満たし、介護支援専門員試験（ケアマネジャー試験）に合格する必要があります。

受験資格を得るための条件は、以下のとおりです。

児童指導員任用資格

児童指導員任用資格は、児童養護施設や乳児院などで、子どもに関する相談を受けられるようになる資格です。

ただし、社会福祉主事と同様に、児童指導員として働くための資格であり、取得後に児童福祉に関係する職場に勤めて初めて効力が発揮されます。

取得方法は、以下の条件を満たした後に、勤務先に児童指導員任用資格の有無を証明できる書類を提出する必要があります。

臨床心理士

臨床心理士は、主に心に関する相談業務を受けられるようになる資格で、病院やクリニックのほかに、学校や企業、児童福祉施設といった幅広い場所で活用できます。

取得方法は、以下の受験資格を満たした後に、試験に合格する必要があります。

なお、受験資格を得るための学部は決められていませんので、どの学部を選んでも臨床心理士を取得できます。

無資格でも相談援助業務はできる？

相談援助の仕事は資格が必須だと誤解されやすいですが、実際には働く場所や業務内容によって条件が異なります。

ここでは、無資格で働ける可能性があるケースと、資格取得によるメリットについて紹介します。

自治体によっては無資格でも相談援助業務はできる

相談援助業務は自治体によって働ける条件が異なるため、地域によっては無資格でも働けるケースがあります。

例えば、大阪府であれば「介護支援専門員」や「介護福祉士」の取得が必要です。

しかし、福岡県では「社会福祉施設等で、3年以上の実務経験」が条件となっており、一定の実務経験さえあれば無資格でも働けます。

このように、自分が住んでいる地域によって相談援助業務を行える条件が異なるため、「資格がないから働けない」と決めつけず、まずは自治体の情報を調べてみることが大切です。

資格がある方が働ける場所や業務は広がる

相談援助業務は、自分が住んでいる地域によっては無資格でも働けますが、資格があるほうが働ける場所や業務の幅は広がります。

なぜなら、基本的に資格取得が条件となっている地域が多く、さらに施設によっても条件が異なってくるからです。

施設によっては「介護福祉士」や「社会福祉主事任用資格」などが必須となっているところも多く、施設からしても資格を取得しているほうが施設の信用にもつながります。

また、できる業務も広げられ、資格取得による手当ももらえる場合が多いことから、取得するメリットは大きいといえるでしょう。

相談援助と介護職の違い

相談援助と介護職は、同じ職場内で働くことも少なくありませんが、仕事内容や役割、保有資格などが明確に違います。

下記に異なるポイントを2つ紹介しますので、参考にしてください。

役割が異なる

1つ目は役割が異なることです。

相談援助の仕事は、利用者やそのご家族の生活上の相談を受ける役割があり、悩みや不安に対して解決策を一緒に考えたり、必要なサービスを紹介したりと橋渡し的な存在です。

一方、介護職は高齢者の生活を直接支援・援助することが役割で、日常生活に必要な食事や入浴、排泄などをサポートすることが仕事です。

相談援助業務は「支えるための調整役」、介護職は「生活を直接支える役割」として、それぞれ異なる立ち位置で高齢者やその家族を支えています。

保有する資格が異なる

2つ目は保有する資格が異なることです。

資格のところで紹介したように、相談援助は「社会福祉士」や「ケアマネジャー」など、相談に関係する資格が特徴です。

反対に介護職では、「介護職員初任者研修」や「介護福祉士実務者研修」、「介護福祉士」といった直接支援・援助を学べる資格となっています。

また、介護職では無資格で業務できるところも特徴の一つです。

このように、相談援助業務と介護職では、求められる専門性や取得する資格の方向性が大きく異なります。

相談援助業務を行う際に気を付けるべきポイント

相談援助の仕事は、利用者やその家族の悩みや不安に寄り添いながら支援を行うため、適切な距離感を保ちつつ、相手の立場や状況を尊重することが重要です。

また、相談の中で感情的になりすぎず、偏った判断を避けることも意識すべきポイントです。

こうした基本姿勢を支えるものとして、相談援助の仕事では「バイスティックの7原則」と呼ばれる基本原則があります。

相談援助の基本であるバイスティックの7原則

バイスティックの7原則は、1957年にアメリカの社会福祉学者フェリックス・ポール・バイスティックによって提唱された、相談援助における基盤となる考え方です。

以下にそれぞれの意味を紹介していますので、相談援助する際の参考にしてください。

1.個別化の原則

個別化の原則とは、「利用者一人ひとりは、それぞれ考え方や環境が異なる」という考え方です。

先入観や偏見で利用者を見ようとせず、一人ひとりときちんと向き合い、解決策を模索していくことが大切です。

2.意図的な感情表現の原則

意図的な感情表現の原則とは、「多様な感情の表現を尊重する」という考え方です。

プラスの感情もマイナスの感情も、どちらも表現してよいと認めることで、利用者自身が客観的に物事を考えられたり、ストレスが軽減されたりといった効果があります。

3.統制された情緒関与の原則

統制された情緒関与の原則とは、「利用者の感情に巻き込まれないよう、援助者は自己の感情を適切に制御する必要がある」という考え方です。

利用者の相談に対して共感することは大切ですが、深入りしすぎず、冷静かつさまざまな視点で物事を考察する必要があります。

4.受容の原則

受容の原則とは、「利用者の本来の姿をそのまま受け止める」という考え方です。

利用者一人ひとりは、考え方や価値観、育った環境が異なりますが、それらを否定せず受け止めながら、思考や行動の要因を考えることが大切です。

5.非審判的態度の原則

非審判的態度の原則とは、「利用者の思考や行動の良し悪しを援助者が判断しない」という考え方です。

問題解決はあくまで利用者自身が行うことを認識し、援助者はサポート役であると理解しておく必要があります。

6.自己決定の原則

自己決定の原則とは、「相談に関する最終的な決定は利用者自身が行う」という考え方です。

援助者は、利用者の悩みや不安を解決するためのサポート役であり、最終的な決断は利用者自身が行うと理解する必要があります。

7.秘密保持の原則

秘密保持の原則とは、「利用者のプライバシーな情報を口外しない」という考え方です。

援助者は、利用者の生活状況や経済状況など、個人情報を知る機会が多くなりますが、どんな小さなことでも漏らすことは許されません。

相談援助業務の平均給与

相談援助業務が気になる方の中には、給与について知りたいと思っている方も多いでしょう。

厚生労働省の「令和6年度介護事業者処遇状況等調査結果（p.126）」によると、令和6年の相談援助業務の平均給与は以下のようになっています。

常勤であれば、360,000円程度、非常勤であれば、260,000円程度となっています。

なお、平均給与は勤め先や資格などによっても異なってきますので、あくまで参考程度と捉えてください。

相談援助業務が向いている人の特徴

相談援助業務では、利用者や関係者とのやり取りを中心に、相談対応や調整など多岐にわたる能力が求められます。

ここでは、相談援助業務の適性がある人物像を紹介します。

人の相談を聞くのが好きな人

相談援助業務は、利用者の話を直接聞くことから、人から相談されるのが好きな人にぴったりです。

また、利用者の悩みや不安を解決するためのサポート役となるため、人のことを知りたいと自然に思える方も向いているといえます。

ちょっとした変化にすぐ気づける人

利用者のなかには、自分の気持ちをうまく伝えられない方もおり、相談したいことがあっても言葉化できず、諦めてしまうことも少なくありません。

相談援助業務では、そういったときに援助者側から「何か言いたいことがあるんじゃないですか？」「ゆっくりでかまいませんので話してみませんか？」といった声掛けも必要です。

相談援助業務は、利用者との信頼関係がもっとも必要となってくる仕事ですので、ちょっとした変化に気づける方は向いているでしょう。

責任感がある人

相談援助業務は、利用者の悩みや不安を聞いて、解決までサポートするといった、責任感が問われる仕事です。

中途半端にできない仕事であるため、責任感は必要ですが、その分解決できたときの喜びや感謝されることは大きなやりがいにつながります。

人と関わるのが好きな人

相談援助業務は、利用者のほかに、さまざまな業種の方と関わることの多い仕事となるため、人と関わるのが好きな方も向いているといえます。

ケースによってはやり取りが難しい場合もありますが、人と関わるのが好きな方であれば、相手に合わせながらよりよい支援につなげられます。

相談援助で求められるスキル

相談援助業務は、相談者の話を聞くことや、多種多様な業種と関わることから、さまざまなスキルが求められます。

以下に、必要なスキルを挙げましたので、チェックしてみてください。

コミュニケーション能力

コミュニケーション能力は、ただスムーズな会話ができるだけではありません。

相談援助業務で特に必要となってくるコミュニケーション能力は、傾聴力と共感力です。

利用者の相談を丁寧に聴きながら、言いたいことを整理し、良し悪しを判断せず共感していくことが重要です。

メンタル面のサポートに必要な知識と技術力

相談をされる利用者の中には、メンタルに疾患を持っている場合も少なくありません。

その場合は、スムーズなやり取りや解決までの時間が長くなる可能性がありますが、メンタル関係の知識と対応方法を理解しておけば、適切に対処できます。

また、スタッフからの相談や自分自身のストレス管理にも生かせますので、知識を得ておくメリットは大きいでしょう。

状況に応じて柔軟に行動できる対応力

利用者から受ける相談は、個々によって大きく異なりますので、そのときの状況に合わせた臨機応変な対応力も求められます。

また、経験したことのないケースを受けることもあるでしょう。

その際に状況に応じた冷静かつ柔軟な対応ができれば、適切なサービス提供や職員間の知識の向上にも役立ちます。

法律や制度を日々学び続けるスキル

介護業界の法律や制度は、3年ごとに見直しが行われ、今まで提供してきたサービス内容が大きく変わることもあります。

また、相談援助業務では、利用者やご家族に、法律や制度を分かりやすく伝えなければならない場面が多く、定期的な勉強が必要になってきます。

そのため、専門知識を日々学び続けるスキルも重要です。

自己の感情コントロール力

相談援助業務では、利用者の悩みや不安を聴く中でストレスを感じることも少なくありません。

そのため、感情をうまくコントロールする力が必要です。

困ったときは一人で抱え込まず、上司や同僚に相談したり、趣味や運動で気分転換したりすることが大切です。

まとめ

本記事では、相談援助業務とは何か、仕事の種類や必要な資格、介護職との違いまでを解説しました。

相談援助業務とは、利用者やその家族の悩みや不安を受け止め、解決に向けた支援や調整を行う仕事です。

相談援助業務が気になる方は、自分の適性や将来像を踏まえつつ、資格取得や実務経験を検討してみるとよいでしょう。