menu

ALSとはどのような病気のこと?原因や症状・治療法について解説

ALSとはどのような病気のこと?原因や症状・治療法について解説

ALS(筋萎縮性側索硬化症)という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
ALSは厚生労働省の定める、指定難病の一つです。
この記事では、ALSがどのような病気なのか詳しく解説しています。
検査方法や、治療方法、初期症状や医療費に利用できるサービスや制度も紹介しているので、参考にしてください。

ALSに関する基礎知識

ALSの症状や原因などの基礎知識について解説します。

ALSとは

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)は、手足や舌、喉などの呼吸や運動に必要な筋肉が、少しずつ衰えて使えなくなってしまう病気です。
筋肉そのものの病気ではありません。
ALSは筋肉に指令を与える神経(ニューロン)が、ダメージを受ける病気です。

筋肉は痩せていきますが、視力や聴力、内臓機能は正常な状態が保たれたままになります。
進行性の疾患のため、一度発症してしまうと症状が軽快することはありません。

これまでALSは、発症から3~5年で筋呼吸麻痺になり亡くなる病気と認識されてきました。
しかし現在では呼吸補助や経管栄養、胃ろうなどの処置により、長期療養も可能となっています。

患者数

 

ALSの推定患者数は、世界では約46万人、日本国内では約1万人です。
毎年1000~2000人が、新たにALSだと診断されています。

性別では、女性よりも男性のほうが1.3~1.5倍多いという結果になっています。
年齢は中年以降であれば誰でもかかることがありますが、特に多いのは60~70代になります。
若い世代が発症する確率はまれです。
なお、特定の職業の方に多い病気ではありません。

原因

 

ALSを発症する詳しい原因は不明です。
現時点でまだ解明されていませんが、以下のようなことが病気の発症に関わっているという学説があります。

  •   興奮性アミノ酸の代謝異常
  •   酸化ストレス
  •   タンパク質の分解障害
  •   ミトコンドリアの機能異常
  •   神経細胞の老化

なお食生活や特定の食べ物が、発症の原因になる証拠は確認されていません。

家族性ALSの2割には、原因遺伝子の変異が多く報告されています。
人種や国によって変異する遺伝子に違いがあるので、遺伝的要因や環境要因など、複数の要因がALSの発症に関与している説が有力です。

進行速度

 

ALSの進行速度は、人それぞれです。

一般的には人工呼吸器による呼吸補助を行わない場合、3~5年で死に至るとされています。
しかし、呼吸補助なしでも10年かけてゆっくりと症状が進行したケースも報告されているので、進行スピードには個人差があると考えられています。

ただし過去の症例から、高齢になればなるほど、進行スピードが早くなる傾向があることが分かっています。
ALSは、一人ひとりの進行スピードに合った対応が必要です。

ALSの診断・検査方法

ALSの診断方法や検査方法について解説します。

遺伝子診断

 

ALSは95%が家族に遺伝しない孤発性ALSですが、約5%は家族内で発症する家族性ALSです。
家族性ALSか、ALSに似た症状の遺伝性疾患かを特定するためには、遺伝子診断が必要になります。

ALSの原因遺伝子の変異が判明した場合、薬剤の治療選択肢が増えるので、治療方針を決める上でも遺伝子診断は重要です。
ALSの原因遺伝子があると分かった場合は、50%の確率で子どもに遺伝するリスクがあります。

針筋電図

 

針筋電図は、細い針を筋肉に刺して神経や筋肉の電気活動を調べることができる検査です。
神経や筋肉に問題がないかを調べることができます。

針筋電図は検査時に痛みを伴いますが、運動ニューロンの障害を評価する重要な検査です。
ALSの場合は、全身の筋肉に慢性神経原性変化や脱神経などの所見が認められます。

血液検査

 

血液検査だけでALSだと診断することはできませんが、鑑別診断のために行われます。
ALSと似た症状の病気である、感染症や代謝疾患を除外するために必要です。

たとえALSであっても、血液検査の数値に異常が見られることはありません。

髄液検査

 

針を腰から刺して、脳や脊髄の周囲にある髄液を採取する検査です。

ALSでも数値は正常な場合がほとんどですが、症状が進行していると髄液中のタンパク量が上昇することがあります。

MRI

 

頭部と髄部のMRIを行い、筋力低下の症状がある脳梗塞や脳出血、腫瘍や脊椎疾患がないかを調べます。
MRIを行ってもALSの確定診断ができるわけではありません。
ALS以外の病気を発症している可能性を除外するために行います。

末梢神経伝導速度検査

 

手足に伸びている末梢神経に電気信号を加えて、問題がないかどうかを調べる検査です。
障害がある場合は、伝導速度低下や振幅低下の所見があります。

この検査では正常でも軽度異常が見られることが多く、ALSの直接的な診断には用いられません。
ただし、一部のALS患者では、筋萎縮の度合いによって、複合運動活動電位の振幅が狭くなるケースがあります。

ALSの初期症状

どのような症状があったときに、ALSを疑うのでしょうか。
ALSの4つのタイプの初期症状と、出にくい症状について解説します。

上肢型

 

上肢型(普通型)は、上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示します。
この型は上肢の神経障害として、手指の使いにくさや、肘から先に力が入らないといった症状から始まることが多く見られます。

上肢型は上肢の神経障害が先行して起こった後に、下肢神経の障害も発生します。
さらに、嚥下の筋力も低下していくでしょう。

下肢型

 

下肢型(偽多発神経炎型)は、下肢の腱反射低下や消失から始まり、足の筋力が徐々に落ちていきます。
歩く速度が遅くなったり、スリッパが脱げやすくなったりするのが下肢型の初期段階です。

その後全身の筋肉が2~4年かけて弱くなっていき、自分自身の力で歩くことが困難になります。
さらに息苦しさを感じる症状が進行してしまうと呼吸困難になり、人工呼吸器が必要となるのが一般的な経過です。

進行性球麻痺型

 

進行性球麻痺型(球麻痺型)は、延髄にある運動をつかさどる部分に障害が起こり、言語障害や嚥下障害が発生します。
食べ物の飲み込みにくさを感じたり、ろれつが回らず話せなくなったりするのが代表的な初期症状です。

最終的には、呼吸も含めた全身の筋力が低下し、歩けない状態になってしまいます。

呼吸筋麻痺型

 

呼吸筋麻痺型は、手足の筋萎縮や神経障害よりも先に、呼吸障害が現れるまれなタイプの症状です。
生命維持のために気管を切開したり、人工呼吸器をつけたりする処置が必要になります。

症状がない場合もある

 

ALSには出にくい症状もあります。
全身の筋力は低下しますが、目を動かす筋肉には影響がないとされています。
尿管や肛門の括約筋も影響は少ないので、排便や排尿障害は起きにくいとされています。

そのほかに、知覚障害や感覚障害も起こりにくくなっています。
見たり聞いたりする感覚は最後まで残るので、状況を理解できているにもかかわらず動けない状態というのは、患者にとって相当のストレスになるでしょう。

ALSの進行に伴って現れる症状

ALSの症状はさまざまです。
進行に伴い現れる代表的な症状について、詳しく解説します。

嚥下障害・構音障害

 

ALSでは、食べ物を飲み込めなくなったり、うまく話せなくなったりする症状が顕著に現れます。
物をうまく飲み込めなくなるのが嚥下障害、口を動かして発音できなくなるのが構音障害です。

舌や口腔、咽頭の筋力低下や萎縮により、これらの障害が発生します。

呼吸困難

 

呼吸は運動神経からの命令によって行われるため、ALSになって障害が発生すると呼吸筋が衰えて、自発的な呼吸ができなくなっていきます。
進行すると息切れしやすくなったり、横になると息苦しくなったりして、最終的には人工呼吸器が必要になる可能性が高くなっています。

また、呼吸機能が低下した場合は深呼吸ができなくなってしまうため、大きな声を出すことも難しくなってしまうでしょう。

筋力低下

 

運動神経の障害による手足の筋力低下は、ALSで顕著に起こりやすい症状です。

手に障害が現れた場合は、ペットボトルを開けることができなくなるだけでなく、腕が上がらなくなってしまいます。

足の筋力が衰えてしまうと、自力での歩行は困難です。
椅子から立ち上がることもできなくなってしまうため、日常生活を送るためには、介助者による介助が必要になります。

認知症

 

記憶力や判断力が低下する認知症は、ALSと併発しやすい病気です。
症状が進行するほど併発しやすくなり、ALS患者の約20%の方が発症する可能性があるとされています。

穏やかな性格の方が怒りっぽくなったり、やる気がなくなったりしてしまうのは、典型的な認知症の症状です。
ただし認知症の重症者に見られるような症状は、ALSの方には見られません。

閉じ込め症候群

 

意識がはっきりしているのに体が自由に動かせなくなる閉じ込め症候群は、ALSの末期症状です。
言葉や文字でコミュニケーションはとれませんが、ALS患者は聞くことや理解することはできています。

閉じ込め症候群の状態では、睡眠と覚醒のパターンも正常どおりです。
目の筋肉に異常は現れないため、まばたきによって意思疎通をとることができます。

ALSの治療法

ALSが進行するのを止めたり、症状を改善したりする治療法はありません。
しかし、症状の進行を遅らせたり、症状を軽減したりする治療法はあります。
ALSの治療法を、詳しくチェックしていきましょう。

治療薬の投与

 

ALSの進行を遅らせる治療薬は、国内外で開発されています。
リルゾールは内服薬で、エダラボンは経口剤です。
エダラボンはこれまで点滴が必要でしたが、医療者と患者の負担を軽減させるために投与方法が変更されました。

そのほかにも新薬が開発され、日本国内での製造販売承認を得て、ALS患者への投与が開始されています。
治療薬で症状の進行を遅らせることができるのは、ALS患者にとって一筋の希望となるでしょう。

呼吸の補助

 

呼吸の補助は、呼吸困難の症状があるALS患者に対して行われる治療です。

ALSの症状が進行して自力で呼吸できなくなった場合は、呼吸補助装置が使用されます。
呼吸の補助により延命はできますが、症状の進行を止めることはできません。

また、筋力の低下により、寝たきりの状態になってしまう方も多いのが現状です。

栄養管理と食事補助

 

栄養管理と食事補助は、嚥下障害のあるALS患者に対して行われます。

ALSの患者にとって栄養管理は最重要で、栄養不足によって体重が減少してしまうと、病状に悪影響を及ぼしやすくなります。
水分を制限して、排泄の回数を減らそうとする方も少なくはありません。

また、食べ物が飲み込めなくなると、気管に食べ物が入って肺に細菌が感染する誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。
誤嚥性肺炎を予防するためには、食べやすくて飲み込みやすい食事の提供や、介護者による適切な食事補助が必要です。

リハビリテーション

 

リハビリテーションは、筋力低下の症状があるALS患者に対して行われます。
機能回復が期待できるため、発症の初期段階でリハビリを開始することが大切です。

しかし、ALSには過度に筋力を使用すると悪化してしまうリスクがあるので、慎重にリハビリ計画を立てる必要があります。
ALSのリハビリは、エクササイズやストレッチ、運動療法や補装具を使用したものなどさまざまです。
発声訓練など、構音障害に対応したリハビリもあります。

ALSの医療費を軽減するための制度やサービス

ALSは指定難病のため、国から医療費の助成を受けることができます。
医療費の自己負担額を軽減する制度や、サービスをチェックしていきましょう。

特定疾患医療費助成

 

ALSは難病として、特定疾患医療費助成が受けられます。

診断を受けたら、まずは管轄の保健所で特定医療費(指定難病)受給者証の申請手続きを行ってください。
特定医療費受給者証が発行されれば、医療費が助成されます。

ALSは患者の状態や状況をもとに評価された重症度は5段階で、数字が大きいほど重症度は高くなります。
重症度が2以上で、月ごとの医療費総額が33,330円を超える月が年間3カ月以上ある場合は、医療費の助成対象となります。

高額療養費還付制度

 

1カ月の医療費の自己負担額が、一定の金額を超えた場合に還付されるのが高額療養費返還制度です。
ALSの治療や入院で高額な医療費を負担した場合は、この制度によって還付金が受け取れるので自己負担額をある程度軽減できます。

ただし高額療養費還付制度は、世帯の所得状況や受診者の数によって計算方法が異なるので、注意が必要です。
ALSで入院する場合は限度額適用認定証を提示すれば、健康保険から直接病院に医療費が支払われるため、窓口での支払いの負担が少なく済みます。

障害者医療費助成制度

 

身体障害者手帳の交付を受けることにより、医療費の自己負担額が助成されるのが、障害者医療費助成制度です。
身体障害者手帳の交付場所は、自治体の福祉窓口になります。

ただし自治体によっては、所得に応じて負担金が発生する場合があるので注意してください。

身体障害者手帳を取得すると、等級に応じて各種税金の減免や控除、公共料金の割引や減免、障害福祉サービスを受けることができます。

生命保険

 

個人で生命保険に加入している場合、ALSが原因で高度障害になったときは、就業不能給付金や高度障害保険金が受け取れる場合があります。

保険によっては入院特約付きで入院給付金を受け取れる場合もあるので、安易に解約するのはおすすめできません。
契約を継続したほうが有利なケースもあるので、よく考えて行動しましょう。

ALSに関するよくある質問

最後にALSに関するよくある質問に回答します。

遺伝することはあるのか?

 

孤発性ALSの場合、95%は遺伝しないとされています。
両親や叔父か叔母、祖父母などの親族にALSを発症している人がいない限り、遺伝する可能性は高くありません。

ただし、ALS全体の5%は家族内で遺伝する家族性ALSになります。
日本人の家族性ALSでは、SOD1という遺伝子に変異があることが約2割ともっとも多くなっています。
家族性ALSの場合は親族内に同じ家族性ALSの人がいる可能性が高く、子どもには50%の確率で遺伝します。

食べられなくなったときは?

 

ADLの症状が進行し食事が一切とれなくなってしまった場合は、内視鏡で皮膚の上から胃までチューブを入れて流動食を補給する、胃ろうという処置が行われるのが一般的です。
胃ろうの造設は、体重や生活の質を維持する目的で行われます。

ALSでは体重が減少すると一気に症状が悪化するので、栄養補給の治療は必須です。
患者の状態に合わせて、鼻から胃までチューブを入れて流動食を流し込んだり、点滴で栄養を補給する治療が行われたりする場合もあります。

呼吸がしにくくなってからの胃ろう造設には危険が伴うので、嚥下機能が低下してきたときは、なるべく早めに主治医に相談しましょう。

なりやすい人の特徴は?

 

ALSを発症しやすい人の特徴は、年齢が60~70代の男性です。
原因はまだはっきりと解明されていませんが、年齢や性別によって、なりやすい人の特徴が分かっています。

ALSを発症する人の年齢は、40代以降から患者数が増え始め、70代がもっとも多いという結果です。
80代を過ぎると、発症する人は減少していきます。

性別では、女性よりも男性のほうが発症しやすいと考えられています。
ALSの発症要因は研究されていますが、何が関与しているかは残念ながら明らかになっていません。

寿命はどのくらい?

 

ALS患者の寿命は、発症後3~5年といわれています。
医療の進歩により寿命は徐々に伸びていますが、同じような年数を経過して呼吸の補助が必要になるケースも少なくありません。

しかし、症状の進行速度には個人差があるので、1年で呼吸困難になる方もいれば、10年経過しても呼吸の補助なしで生存している方もいます。
発症から3カ月で亡くなってしまう方もいるので、正確な寿命を把握するのは難しいといえるでしょう。

完治した人はいる?

 

ALSの治療法は世界中で研究されているものの、現時点で完治を目的とした治療法は見つかっていません。
主な治療法は、症状の進行を遅くすることを目的とした治療薬の投与に限られています。

ほかにALSで苦しむ患者にできることは、痛みや苦しみを紛らわせるための緩和治療や、症状を改善するための対処療法だけです。
完治はできなくとも、症状を抑えながら長期間療養を続けることは可能となっています。

予防方法はある?

 

ALSを発症する原因が判明していないため、ALSの発症を予防する方法も解明できていません。
喫煙によって発症率が上がっていることは判明していますが、禁煙によって完全に予防できるわけでもありません。

また、特定の食べ物や飲み物がALSを予防することもありません。
加齢や遺伝的要因を排除することはできないので、神経細胞の発達によい影響をもたらす健康的な生活を送れば、発症のリスクを減らせる可能性があります。

筋ジストロフィーとの違いは?

 

筋ジストロフィーは、ALSとは異なる原因によって運動機能に障害が生じる病気です。
病気の原因となる遺伝子が多数発見されたことにより、責任遺伝子やタンパク質に基づいた分類がされるようになってきました。

筋肉が壊れて再生する過程で、運動機能が阻害されます。
運動機能の低下が主な症状で、呼吸機能障害、心筋障害、消化管症状などさまざまな合併症が起こりやすくなります。

ケアリッツでは訪問介護スタッフの正社員を募集中

訪問介護サービスを提供しているケアリッツでは、介護スタッフの正社員を募集しています。
正社員の比率が多く、安定して働くことができます。
男女比も均等で偏りがなく、幅広い年齢層の方が在籍しています。
ケアリッツで安心・安全な働き方を実現しましょう。

まとめ

今回は、ALSの症状や治療法について詳しく解説してきました。

ALSは、運動神経に障害が起きることにより、手足や舌、喉が動かなくなっていく病気です。
発症する原因がはっきりと分かっておらず、症状の進行を遅らせたり、症状を軽減したりする治療しか行えません。

ALSは、発症から数年で呼吸が困難になり、亡くなってしまう病気とされてきました。
しかし現代では医学の発展により、生命を維持しながらの長期療養が可能となっています。

ALSは一度発症したら症状が改善することはないため、難病に指定されています。
入院や治療が長期間続けば医療費の負担も大きくなるので、国の助成制度を利用して負担を軽減させましょう。