認知症のある高齢者が食事拒否する原因

認知症のある高齢者が食事拒否する原因やタイプ別の特徴、対応方法を詳しく紹介
認知症の症状の一つとして、食事を拒否する行動が現れることがあります。
身近な人が食べなくなる姿を前に「何か間違った対応をしているのでは」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
認知症の食事拒否には、認知機能の低下だけでなく、体調や心理状態、身体機能の変化など、複数の原因が重なっているケースが多くみられます。
そのままにしておくと、低栄養や体力低下につながる可能性もあるため、適切な対応方法が欠かせません。
本記事では、認知症の方が食事拒否をする原因やタイプ別の特徴、無理をさせない対応方法を解説します。
認知症の症状の一つである「食事拒否」は、さまざまな要因が関係しています。
ご本人はもちろん周囲の方でも気づきにくいケースもあるため、その背景を理解しておくことが大切です。
ここでは、認知症の方が食事拒否をする原因を8つ紹介していきます。
食べ物の認識や食べ方が分からない
認知症は、人や物、時間などの理解が難しくなる疾患です。
食事に関しても影響が出ることがあり、食べ物だと分からなくなる状態を「失認」、食べ方が分からなくなる状態を「失行」と呼びます。
このような症状が出てくると、決まったものしか食べなかったり、食事にとても時間がかかったりすることがあります。
ご本人は食べることを拒んでいるつもりはなく、何をすればいいのか分からないだけの場合も少なくありません。
食事への関心が薄れている
認知症には、「BPSD(行動・心理症状)」と呼ばれる症状があります。
BPSDの精神症状の一つに「気分の落ち込み(うつ症状)」があり、これらの様子が確認される人の中には、食事を嫌がる場面もみられます。
実際には、気分の落ち込みによって食事への関心が薄れている状態にもかかわらず、周囲が「食事を拒否している」と捉えてしまうケースも少なくありません。
体調不良がある
体の不調などにより、食事をとらなくなるケースもあります。
例えば、以下が挙げられます。
- 睡眠不足
- 体の痛みやだるさ
- 便秘
- 熱中症
認知症の方は、自分の体の状況をうまく伝えることが難しい方も少なくありません。
そういった場面では、体の不調を解決することで食欲が戻る可能性があります。
そのため、介助者は日々の状態をよく観察し、不調がみられる場合は迅速な対応が大切です。
咀嚼・嚥下機能が衰えている
認知症を患う高齢者の中には、咀嚼や嚥下機能が衰えている方も少なくありません。
咀嚼や嚥下機能が衰えてくると、飲み込む力が低下し、食事の際にむせや咳き込みなどが起こる可能性が高まります。
場合によっては吐き出してしまう方もおり、食事の時間がくるたびに「また辛い思いをするのか……」と、食事が嫌な時間であると認識してしまうでしょう。
その結果、食事への楽しみが低下したり、食欲自体がなくなったりして食事拒否につながってしまいます。
食べにくい食事内容になっている
ご本人の好きな食事メニューではなかったり、苦手な食材が使用されていたりするときも食事拒否がみられます。
また、盛りつけ方法が気に入らない、見た目がよくないといった理由でも食べないケースはあります。
特に、嚥下機能の低下により、刻み食やミキサー食を食べられている方は、きれいな盛りつけが難しく見た目がよいといえないことから、食事拒否につながる可能性があるでしょう。
薬の作用により食欲が低下している
認知症を患っている高齢者の方は、認知症の進行を遅らせる薬はもちろん、血圧低下のための薬などを服薬している場合も多くあります。
よくある薬には、以下が挙げられます。
- 抗認知症薬:不整脈、失神、食欲不振
- 抗精神病薬:眠気、嚥下障害、食欲低下
- 抗うつ薬:口の渇き、便秘、嘔気(吐き気)
- 睡眠薬:ふらつき、運動失調、認知機能の低下
これらの薬の副作用により、喉の渇きや眠気などが出てきて、食事をとれなくなる場合も多くみられます。
特に薬の調整をしている段階の方は、安定してくるまで副作用が出る可能性があることを覚えておきましょう。
口腔内に不調がある
認知症を患っている高齢者の中には、入れ歯を装着している方もいますが、噛み合わせが合わないといった理由で食べづらくなる場合があります。
また、口腔内の疾患がある場合は、食事のたびに痛みが発生する可能性があります。
こういった体の不調や自分の思いをうまく伝えづらくなる方もおり、食事したいのにできないストレスから食事を避ける様子がみられることもあります。
食事環境が合っていない
認知症を患っている高齢者の中には、食事環境が合っておらず食事拒否につながるケースもあります。
例えば、今まで少人数で食事していた方が、環境の変化により大人数の食事になると、落ち着けず食事が進まないことがあります。
また、認知症を患っている方は集中力が持続しづらいといわれており、周囲からのちょっとした刺激により、食事に集中しづらくなる可能性があるでしょう。
通常であれば気にならないような刺激でも、認知症を患っている方からすると、落ち着ける食事環境でない場合があるため、介助者は気をつける必要があります。
認知症のタイプごとにみられる食事拒否の特徴
認知症にはいくつかのタイプに分けられますが、タイプによって食事拒否の特徴が異なります。
タイプごとの特徴を理解しておけば、適切な対応につなげられますので、ここで確認していきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、脳内の神経細胞が少しずつ減少したり、脳の萎縮が現れたりすることが原因で、認知の低下がみられます。
症状としては、以下が挙げられます。
- 認知機能の低下:記憶や判断力が低下し、食事状況を理解しづらくなる
- 行動・心理症状:落ち着かず、不安や恐怖を感じやすくなる。また、何事にもやる気が出にくくなり食事を嫌がる
アルツハイマー型の場合は、失認や失行などにより食事拒否が起こるケースがほとんどです。
介助者は、もうすぐ食事であることを事前に伝えたり、食事に集中できるような声かけをしたり、状況に応じた対応が必要です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症は、脳の神経細胞が減少することが原因で起こる認知症です。
症状としては、以下が挙げられます。
- 認知機能障害:いつ・どこにいるのかが分からなくなる
- パーキンソン症状:手足の震えや、体の動かしにくさが現れる
- 幻視:実際には存在しないものが見えることがある
パーキンソン症状である「手の震え」や「筋肉の硬直」などがみられると、食べたくてもお箸やスプーンがうまくつかめない、口に運べないといった様子がみられます。
また、「幻視」が現れるところもレビー小体型認知症の特徴で、食事に虫や異物が入っているように見えたりして、食事拒否につながってしまうケースがみられます。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳に必要な血液が不足することで脳組織が破壊され、精神的な症状が現れやすい認知症です。
脳卒中になった方が発症しやすいといわれています。
症状としては、以下が挙げられます。
- 記憶力の低下がみられる
- 頭の回転が悪くなったと感じる
- 自分で考えて解決する力が弱まる
脳血管性認知症は複数の症状が現れるケースも多く、対応方法が難しい場面もあります。
人によっては体への影響が出る可能性もあり、運動機能の麻痺や、半側空間無視(お皿の片側にある食べ物を認識できない症状)などによって、食事に支障が出る事例もあります。
認知症のある高齢者が食事拒否する際の対応方法
ここまで紹介してきたように、認知症を患っている高齢者が食事拒否する原因は、タイプや理由といったさまざまな要因があります。
そのため、場面に応じた適切な対応を行うことが大切です。
ここでは、食事拒否がみられる際の対応方法を紹介していきます。
食べない選択も一度受け入れる
食事拒否がみられた際に、食べてもらうことを優先してしまう方もいますが、逆効果となる場合がほとんどです。
まずは「食べたくないんですね」とご本人の気持ちを受け入れ、その後「おなか空いてないですか?」「どこか体調が悪いんですか?」といった理由を探ることが大切です。
決して無理に食べてもらうことを考えず、ご本人の思いを一度受け入れましょう。
本人の食習慣や希望を大切にする
認知症のある高齢者にも、これまで大切にしてきた食事の習慣があります。
生活環境が変わり、慣れ親しんだ食事のリズムや内容が変化すると、戸惑いや不安から食事を拒否するようになることも少なくありません。
例えば、施設に入所したことで食事の時間が早まったり、これまで食べていた料理と異なる献立が続いたりし、その結果、食事に手をつけなくなってしまうケースも多くみられます。
そのため、できる限りご本人が希望される時間帯やメニューを取り入れ、これまでの生活リズムや好みに配慮した食事環境を整えることが、食事拒否を和らげるための大切なポイントとなります。
食事しやすい工夫を取り入れる
食事をとること自体が難しい場合は、食事しやすい工夫を取り入れるのも対策の一つです。
例えば、食事と認識できない「失認」がみられる場合は、できる限りシンプルな食器を使用して食べ物を認識しやすくするとよいでしょう。
また、お箸が原因で食べにくさがある方は、スプーンやフォーク、補助箸などを用いるのがおすすめです。
どうしても食べきれない場合は、ご本人の負担にならない程度に、食事の量や回数について考慮するとよいでしょう。
食欲を引き出す工夫をする
食材の大きさや形状といった調理方法を変えることで、食べやすさを感じてもらえることもあります。
具体的には、一口サイズに盛りつけたり、柔らかく煮込んだり、彩りを工夫したりすることが挙げられます。
また、食事の際に「おいしそうですね~」「今日は◯◯ですよ」といった声かけも有効です。
高齢者向けの食材を取り入れる
認知症を患っている方を含めた高齢者は、咀嚼や嚥下機能が低下している方も多く、その場合は食べやすい食材を取り入れる必要があります。
例えば、以下が挙げられます。
- 白ごはん→おかゆ
- パサパサする食材→柔らかく煮込んだものやミンチ状にしたもの
- 口の中でまとまりにくいもの→とろみをつけてまとまりやすくする
- 固形で飲み込みにくい食材 → ゼリー・豆腐など喉を通りやすい食品
使用する食材や形状は、一人ひとりによって異なってきます。
そのため、判断できない場合は医師や看護師、言語聴覚士に相談するとよいでしょう。
好きな食べ物を取り入れて食べる意欲を高める
嫌いなメニューが理由で食事拒否がみられる場合は、メニューの中に好きな食べ物を取り入れてみるのがおすすめです。
中には「栄養バランスが大事」と考える介助者の方もいますが、嫌いなメニューばかり提供していると、食欲が湧きづらく、食事すること自体がストレスになりかねません。
できる限りでかまいませんので、ご本人が好きなメニューを提供したり、間食として好きなおやつを取り入れたりしながら、無理なく食欲を高める工夫をしていきましょう。
落ち着いて食べられる環境を整える
周囲からの刺激に反応しやすい方や、集中力が持続しにくい場合は、落ち着いて食べられる環境を整えることが重要です。
例えば、少人数での食事に変更したり、食事の時間だけテレビを消したりするのが有効です。
また、テーブルやイスの高さといった食事しやすい姿勢を意識することも大切です。
姿勢を整えることは誤嚥防止にも役立ちますので、食事の際に確認してみましょう。
日々の健康状態を把握する
食事拒否を防止するためには、日々の健康状態を良好にしておくことが大切です。
健康状態が悪いと、食事をとること自体に意欲がなくなり、食欲の低下や食事拒否につながる可能性があります。
場合によっては治療が必要なケースもありますので、日頃からの健康チェックをしっかり行うよう意識しましょう。
口腔内のケアを行う
食事拒否を防止するためには、健康状態と同様に口腔ケアも重要です。
例えば、入れ歯が合わない場合は噛み合わせが悪くなり、食事が食べづらくなります。
また、虫歯や歯周病がある場合は、口腔内の痛みや違和感が出てきますので、集中して食事ができず、ストレスからくる食事拒否につながる可能性があります。
口腔内のケアは日頃のケアが重要ですので、食後の歯磨きは忘れず行いましょう。
日常生活の中で軽い運動を取り入れる
食事拒否がみられる方の中には、運動不足が原因のケースもあります。
特に認知症を患っている高齢者は、活動量が少ない方も多く、食欲が湧かない場合があります。
日常的にストレッチや散歩といった軽い運動を意識し、積極的に取り入れることが大切です。
ご本人が意識して運動するのが難しい場合は、介助者側から散歩や外出に誘うなど、日常の習慣にするとよいでしょう。
本人の状態に合わせた支援を行う
この章の冒頭でも紹介しましたが、認知症を患っている高齢者が食事拒否する原因はさまざまです。
そのため、介助者はご本人の状態に合わせた声かけや対応を行う必要があります。
場合によっては食事の時間であることを伝えたり、食事に集中できる声かけをしたりする必要があるでしょう。
また、一人で食べることが難しい場合は、一緒に見守りながら対応する場面も出てきます。
その際も無理して食事をすすめるのではなく、あくまで手助けする意識を持つことが大切です。
認知症のある高齢者に食事拒否がみられる際の大切なポイント
認知症のある高齢者に食事拒否がみられた場合、単に「食べない」という行動だけに目を向けるのではなく、その背景や体調、気持ちを総合的に考えることが大切です。
無理に食べさせようとするのではなく、ご本人の思いや状態に寄り添いながら、状況に応じた適切な対応を選ぶ必要があります。
ここでは、食事拒否がみられた際に知っておきたい重要なポイントについて解説します。
気持ちに寄り添うことが大切
食事拒否がみられる認知症を患う高齢者は、「食べたくない」という思いだけではありません。
食事拒否の理由がさまざまあるように、その方の気持ちもそれぞれ違ってきます。
特に認知症を患っている方は、自分の気持ちを伝えることが難しく、認識のずれが起こることも少なくありません。
「分からない」「不安」といった思いを無視して援助するのではなく、まずはその方の気持ちに寄り添いながら支援していくことが大切です。
食事拒否が続く場合は対応が必要
食事拒否がみられる方に対応していく中で、どうしても改善されないケースも出てくるでしょう。
数日程度であれば問題ありませんが、それでも続く場合は、何かしらの対応が必要になってきます。
特に水分補給は、食事でまかなっていることが多いため、意識して摂取する必要があります。
どうしても難しい場合は、果物やおやつ、ジュースといった摂取しやすいものや、ご本人が絶対食べるものを常備しておくのも対策となるでしょう。
持病がある場合は注意する
食事拒否がみられる方でも、持病がある場合は注意が必要です。
例えば、糖尿病を患っている方は、食事をとらずに服薬してしまうと、低血糖を起こす可能性があります。
また、食事拒否と服薬が重なることで、症状が急激に悪化するおそれもあります。
そのため、食事量が減っている状態が続く場合は、自己判断で服薬を続けるのではなく、早めに主治医や薬剤師へ相談することが大切です。
対応が難しい場合は点滴や栄養補助食品を検討する
どうしても改善されない場合は、点滴や栄養補助食品を取り入れることも重要です。
ただし、点滴や栄養補助食品は、食べる楽しさを奪うだけではなく、ご本人に負担がかかる場合もあります。
そのため、安易に導入するのではなく、ご本人の体調や意思を尊重しながら、主治医や医療・介護の専門職と十分に相談した上で検討することが大切です。
胃ろうを検討する場合は本人の負担も考慮する
食事拒否が続く場合の対応策として、胃ろうを検討するのも方法の一つです。
胃ろうとは、腹部に小さな穴を開け、胃に直接栄養を送る方法です。
この方法であれば口から摂取する必要がなく、決まった時間に栄養を送ることが可能です。
ただし、胃ろうは外科的な手術が必要となります。
ご本人への負担がかかる方法となりますので、ご本人やご家族の意思や生活の質を考慮した上で判断することが大切です。
食事拒否が続く場合は入院もできる
食事拒否が続き医療的ケアが必要な場合は、入院も可能です。
ただし、認知症を患っている方の入院は、症状によって断られるケースもあります。
病院を選ぶ際は、「精神科がある病院」や「認知症疾患医療センター」など、認知症の対応が可能なところを選ぶとよいでしょう。
認知症のある高齢者に食事拒否がみられた場合の寿命
認知症を患っている高齢者に食事拒否がみられた際に、「寿命を迎えるのではないか」と不安に感じる方も多いでしょう。
実際、認知症の末期になると寝たきりの状態となり、食べたい気持ちがあっても身体的に食事をとれないケースが増えてきます。
その結果、十分な栄養が取れなくなり、自然な経過として寿命を迎える一因となることもあります。
この段階では、点滴などによる延命を行うのか、それとも自宅や施設で穏やかに看取るのかという選択に直面することもあります。
どの選択が正解ということはなく、ご本人のこれまでの意思や、ご家族の考えを尊重しながら判断することが大切です。
認知症のある高齢者の食事拒否に悩んだときの相談先
認知症を患っている方が身近な人である場合、相談先を見つけておくことが大切です。
以下に、認知症についての相談先を紹介しますので、一人で悩まないためにもチェックしておきましょう。
● 地域包括支援センター ● 認知症に関する電話相談(家族の会) ● 若年性認知症専用コールセンター ● 認知症疾患医療センター ● かかりつけ医 ● 認知症学会専門医 ● 日本老年精神医学会専門医 ● 物忘れ外来 ● ケアマネジャー |
ご本人にかかりつけ医がいる場合は、まずそちらに相談するとよいでしょう。
いない場合は、お住まいの地域包括支援センターやケアマネジャー、物忘れ外来などに相談すると何かしらアドバイスを受けられます。
まとめ
本記事は、認知症の方が食事拒否をする原因やタイプ別の特徴、対応方法までを紹介してきました。
食事拒否は、認知症の進行による自然な変化の一つであり、決して介助者の対応が間違っているとは限りません。
大切なのは「食べてもらうこと」だけにとらわれず、ご本人の気持ちや体調、生活の質を尊重しながら向き合うことです。
無理をせず、周囲の専門家や相談窓口を頼りながら、その方に合った関わり方を見つけていきましょう。
この記事が、食事拒否に悩む方の不安を少しでも軽くするきっかけになれば幸いです。





