【介護コラム】その日が一日でも先であるようにー第4話ー

グループホームに住む認知症の男性とヘルパーとの実話
大分小雨になってはきたものの、時折ワイパーを動かす程度にフロントガラスに当たる雨粒に気を取られていると、「本当に晴れ男ね」と後部座席から奥様の声がした。見ると直線道路の先、目的地方面から雲が左右に開いていくように割れ、日の光が差し込んでいた。普段は無神論者の私も思わず神様ありがとうと心の中で叫ばずにはいられなかった。
目的の植物園に到着した時には、空にはしっかり太陽が出ていた。園内は広く健脚な人でも全部を見て回るには半日は余裕をみたいほどの広さである。T氏は勾配のある道を長距離歩くことは難しい。しかし奥様の希望で、疲れるまで夫婦で手をつないで歩いて散策することにした。私はいつでも座れるように車椅子を押しながら後ろからご夫婦を見守り、二人の写真を撮りながら、出来るだけ二人きりの時間を満喫してもらうように心がけた。T氏はこちらの予想に反して、昼食を予定していた蕎麦屋まで、途中にある急坂も、ゆっくりした足取りでしっかりと歩きとおした。T氏が元気な頃から、ご夫婦で植物園に来たときには決まってきていたデートコース。いつも頼んでいた天ぷらそばを迷わず注文し、待っている間、にこにこと笑って座っているT氏を相手に、思い出話を語り続ける奥様。思い切って決行して良かったとつくづく思った。