【介護コラム】その日が一日でも先であるようにー第10話ー

グループホームに住む認知症の男性とヘルパーとの実話

「こんなに素晴らしいことはありません」その言葉の真意がどうしても分からず、落ち着いたところで娘様に尋ねた。プランの説明の日、夜勤明けにもかかわらず、本人の意向を確認できた経緯を自分のことのように楽しそうに話す私の姿が嬉しかったそうで、その人が父を看取ってくれた。だから「こんなに素晴らしいことはない」ということだった。唖然としている私の手に、娘様は一通の手紙を渡してきた。「プラン説明のときに感じたことをどうしても手紙にしたためたくて、でも上手く言葉が見つからず、書き上げるのに何日も掛かってしまいましたが、丁度書き終わったところで電話が鳴り、取るものもとりあえず持参した次第です」と。その場ではそれ以上の回答は得られず、父の横で朝まで付き添いたいという意向に、急いで簡易ベッドを用意したり、他の入居者の対応をしたりと、あっという間に時間は過ぎて行った。翌朝、早番への申し送りをし、他の入居者へ訃報を伝えた。わずかな期間でも同じ屋根の下で寝食を共にしてきた彼の亡骸に、一人一人が言葉をかけ目を潤ませていた。全てが一段落したところでステーションに戻った私はため息とも着かない長い息を吐きながら、ひとり天井を仰いだ。そして頂いた手紙を開いてみた。

CURATOR
コラム著者/佐近健之 (介護支援専門員・介護福祉士・社会福祉士)
東京都出身。介護現場経験を経て、現在は介護人材の教育を担当しています。
音楽好きのビール党です。
Illustrator/エム・コウノ
千葉在住。デイサービススタッフとして勤務しています。
休日はイラスト、マンガ描いてます。似顔絵などイラストのご相談承ります!