【介護コラム】近くて遠いー第1話ー

第一話
週に5日、アルツハイマー型の認知症、独居、女性、キーパーソンの娘はドイツ在住、そんな新規依頼の相談が舞い込んできたのは、今から7年ほど前、私がとある会社のデイサービスで生活相談員業務を覚え始めた頃のことだ。福祉に対して情熱を持って取り組んでいる当時の所長は「勿論です」と即答。数日後、娘の帰国日程に予定を合わせて、先輩相談員と一緒に担当者会議に向かった。
大勢の関係者の集まる中、L字型に配置されたソファーの中央で、差し込む西日にやや眩しそうな眼をしながら恐縮そうに座っているYさんがいた。
聞いてもいないのによくしゃべる娘さんとは裏腹に、「どうも・・・」「はあ・・・」と戸惑いがちに挨拶を交わすYさんに、どこか小動物的な愛くるしさを覚えたのが私の第一印象である。いったい自分の身に何が起きているのだろうと、終始不思議そうに周囲を見渡す姿も、一層小動物感を引き立てていた。
入れ代わり立ち代わり契約の手続きを済ませ、娘が「母には直接聞かれたくないことがあって」とYさんを2階へあげた。一人では心配だからと、先輩相談員に促され、私も一緒に2階へ行き、日当たりの良いベランダで一緒に洗濯物を取り込みながら世間話をして時間をつぶしていた。娘の内緒話は「母の認知症はいつ治るのか」といった内容だったと後から先輩に聞かされた。