【介護コラム】勝ち逃げー第11話ー

第11話
ふすまを開けると、ベッドに横たわり、脚だけ床に下りた状態で、がくがくと震えているIさんがいた。
かろうじて意識はあるらしく、私の姿を捉えると、驚くほど力強い目で、じっと射抜くように見つめてきた。
Iさんはトイレに立てず、失禁していた。
私は反射的に新しい下着と体拭き用のウェットシートを手にとり、失禁の処理をしようとした。意識が朦朧としているにもかかわらず、Iさんは私の手を振り払った。
「嫌われていようがなんだろうが、これだけはやらせてもらいます」と私は思わず叫んでいた。
はっとした表情を見せたIさんは、それ以上の拒否をすることはなく(体力の限界だったのかもしれないが)、私にされるがまま、身を委ねていた。
担当のケアマネジャーに連絡を入れると、程なく駆けつけてくれ、救急車を呼ぶことになった。
救急隊の手で担架に乗せられ、搬送されるまで、Iさんは一度も私の方を見ることはなかった。
ご家族に連絡を取るケアマネジャーの隣で、私は膝立ちのまま、ただ呆然と、遠ざかっていくサイレンの音を聞いていた。