【介護コラム】「お早う」が聴きたくてー第3話ー

第3話
数々の「Yさん行方不明事件」の中で最も印象に残っているエピソードは、年に一度のバス旅行でのことです。
自然公園を訪ね、普段の活動グループごとに園内を散策してから芝生の上に腰を下ろし、皆でお弁当を食べました。
食後に一息ついていると、遠足か何かで来ていた幼稚園生の団体が、楽しそうに横を通っていきました。黄色いチューリップハットをかぶって、二人一組で手をつなぎながら先生の後について行儀よく行進していく姿に目を細めていると、最後尾に、踊るようなステップで子供たちについて歩いて行くYさんがいました。
あまりにも自然に溶け込んでいて、最初はそれがYさんとは気付くことが出来ずにしばらく見送ってしまったほどでした。光景としてはとても微笑ましいものだったのですが(今でも思い出し笑いするくらいです)、その気配の断ちっぷりに当時は正直ゾッとしました。
その後も、時にはクスッとくるような形で、時には施設職員総出で捜索するくらい鮮やかに行方をくらますYさんは、ひょっとしたら、私たちの気が緩みそうになる頃合いを見計らって「油断大敵」と、教えてくれていたのかもしれません。