10年以上勤務の介護福祉士に、月8万円の処遇改善??

ベテラン介護福祉士に月8万円の処遇改善?

いくつかのメディアなどでも取り上げられているので、業界の方はすでにご存じかもしれませんが、政府がかなりアグレッシブな福祉対策を打ち出し話題になっています。

その内容としては、介護サービス事業所における勤続年数10年以上の介護福祉士について、公費1000億円程度を投じ、月額平均8万円相当の処遇改善を行う、というものです。(出典; 日テレニュース東洋経済 )

このニュースについて、皆さんどんな感想を抱かれたでしょうか??

介護業界において長く働く人が少ない理由

まず、個人的な感想としては、狙いは非常によくわかるし妥当である、と思っています。

介護業界においての問題は、長く働き続けた際に、他業種のようになかなか給与が伸びていかないことにあります。

理由としてはいくつか考えられますが、小さな会社が多すぎるため、社内でのキャリアパスがほぼ皆無、ということが一番の要因でしょう。会社を移る際にはキャリアがリセットされてしまうことも多く、また、業界の9割超が社員数二ケタの零細企業、となると、独立する以外に給与を上げていく方法がない、というのもうなづけます。

また、給与、というのは、能力に対して与えられるもの、と思っている方も多いかもしれませんが、違います。
給与を上げる方法は2つで、希少価値が高い(そしてそれが会社運営に不可欠な能力)ことか、会社に多くの利益をもたらすこと、です。
いかに能力が高かろうと、それが会社の大きな利益にはつながらず、またその能力なしでも会社運営に問題はない(合った方がよいがなくても良い、といったレベルのもの)であれば、給与は上がらないのです。

この処遇改善施策の狙い

厳しいことを言うようですが、ヘルパーの能力についてもおそらくは近いことが言えます。
介護福祉士の資格は、確かに人数要件などに必要なので、各社ある程度の資格手当などを付けています。ただ希少価値がそこまで高いわけでもないため、その金額はおそらく月1-2万程度でしょう。
また、優秀なヘルパーさんはお客様に喜ばれるし評判も良くなるのは確かです。しかし、ちょっと極端なことを言うと高齢者が増えている状況においては、最低限のレベルのヘルパーがそろっていれば売上は上げられるのが実情です。例えば凄腕の営業マンや、天才エンジニア、という部類の人間は、会社に多大な利益をもたらすのと比較して、ヘルパーの能力が売上に直結するか、というとそこまでは言えない状況です。

こう考えると、なかなかヘルパーが経験を重ねたとしても、経営サイドからすると給与を上げづらいことがわかってくると思います。

そうした経営の原理では実現できない賃上げに対してできることは、国が介入し、補助金を与えることです。

これまでも、キャリア段位制度、などいろいろな仕組みを作り、介護の世界で長く働き続けてもらえるような施策を厚労省は考えてきたわけですが、やはり名誉、では人は動きません。今回のようなドラスティックな金銭インセンティブがあってこそ、効果があるのだと思います。

予算面からみた実現性

まず、対象がどのくらいいると想定されているのか考えてみましょう。

1人に年間100万渡す施策で予算が1000億(年間、と解釈します)、ということなので、10万人程度が想定されていることになります。

介護福祉士を持っており、介護に従事している人はざっくり90万人前後(2012年時点で63万人で、毎年6-7万人ずつくらい増えています)ということを考えると、介護福祉士の10人に1人が対象というわけです。

この割合は感覚的には違和感はないので、予算的には、ある程度充分に用意されているというわけですね。

運用面から見た実現性

ここは発表されているわけでもなくおそらく現在も詰め作業を行っているところなのでしょうが、どのように支払い、どのように認定するか、というのが大きな問題となってきます。

まず支払いについてですが、処遇改善加算のように事業所に支払う場合、本当に直接この金額が職員に渡るのか?という問題があります。今回の場合は金額も大きいため、いろいろと書類上の工夫をして不正受給を狙う事業所も増える可能性があります。

そして、一番難しいのが認定の問題です。同じ事業場で10年働いた場合しか認めないのか、同じ会社内で異動した場合には認めるのか、それとも転職しても介護職として働いていれば認めるのか、この辺りが一つ目の問題です。

仮に一つの事業場での10年しか認めないのであれば、人材の流動性を狭め、また対象者の職業選択の幅を狭めることにもつながります。例えば、今、勤続9年目だが人間関係で苦しんでいる人などは、どうするでしょう。おそらく我慢してでも働き続け、壊れてしまう人も出てくるかもしれません。

また、週2-3日しか働かない人や、途中で子育てなどで介護職から離れていた人をどうするか、またそもそもがどこまでを介護職とみなすのかといった定義の問題、このあたりがクリアになってこないと、この政策の可否を判断するのは難しいのが現状です。

8万円という金額の持つ意味

そして金額の是非についてなのですが、現状年収が300万円台の人が、年間100万上がるということのインパクトを、果たして国はちゃんと理解しているのでしょうか?

年収600万から700万になるのとは訳が違い、この金額感での100万円は住む家が変わり、食べるものが変わり、生活がガラッと一変します。そうなってくると、この対象になれるかどうかというのが非常に大きな人生の分かれ目となってきて、判定基準ギリギリの人たちにおいては大揉めするのが自明です。

個人的には、いきなり10年目においてこうしたドラスティックな変化を与えるのではなく、3年、5年、7年、と節目節目ですこしずつ金額を上げていくことで、長く働き続けてもらえるような仕掛けを作る方がよいのでは、と思っています。

いずれにせよ、政府の強い問題意識と本気は感じることが出来る発表でした。

CURATOR
ケアリッツマガジン運営者 Yuri
普段の業務に加えて、いろいろと記事を書いて情報発信しています。プライベートでは女子力高めなことが好きです。