【薬の知識】認知症に関わる薬 Vol.6- 周辺症状に使われるお薬② 抑肝散

さて、前回に引き続き、認知症の周辺症状に関わる薬物治療についてご紹介していきたいと思います。

周辺症状は、いわゆる認知症と言われて思い浮かべる、記憶障害や見当識障害、失語・失認や判断力の障害といった中核症状に付随する症状で、鬱状態のような陰性の症状だったり、暴力・徘徊、妄想、過眠といった統合失調症のような陽性の症状のことを指します。

実のところ、介護者にとっての大きな負担になるものは中核症状よりも周辺症状でもあり、介護拒否や暴言など介護者にとっての深刻なストレスにつながっています。

前回紹介したグラマリールは、非常に効果も高いドパミンD2受容体遮断薬でしたが、今回は同じく第一選択薬と言われる漢方薬、抑肝散について取り上げてみます。

西洋薬 vs 漢方薬

そもそも漢方薬とは、中国で生まれた体系医学で、2000年以上の歴史を誇ります。

いわゆる一般的な西洋医学の医薬品の場合、治療したい病気や症状に関係する神経伝達物質や受容体、あるいは細菌などにピンポイントで作用し、その作用を強めたり弱めたりすることで症状を治療するものです。

しかし、神経伝達物質や受容体などは、複数の働きをしていることも多く、ここに作用することによって副作用が出ることも避けられません。

たとえば、バファリンなどに代表されるNSAIDsと言われる薬剤について簡単に説明してみましょう。
炎症などに端を発する痛みには、詳しい機序は省きますが、プロスタグランジンという物質が大きく関わっています。プロスタグランジン(PG)は、アラキドン酸という物質から体内で生成されるのですが、その際に働くのがシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素です。COXには1, 2という二つがあるのですが、この二つの作用を同時に止めるのがバファリンなどの作用機序です。

ただCOXに関しては、COX-2がPGの産生に関わっているのに対し、COX-1は体内に常在し、胃の粘膜を保護する作用を持っているため、これが同時に阻害されてしまうと胃の粘膜を保護できず、胃炎を起こしてしまうという副作用があります。

これを克服しようと、COX-2のみに作用するセレコックスという薬剤が開発されましたが、今度はCOX-1は血液の凝集作用が、COX-2は反対の血液凝集阻害作用があることから、今度は心筋梗塞などの心血管系の副作用を持つようになってしまいました。

一方漢方薬は、いわゆる中国で生まれた体系医学であり、2000年以上にわたる経験をもとに、体全体のバランスをとるのが特徴です。個々人の体調をいくつかの分類に分け、その体の状態や体質に合わせて処方を決めていきます。

そのため、ピンポイントで原因が特定できないような全身の不調や自己免疫疾患、自律神経失調症などに効果を発します。
副作用については比較的少ないものが多く、あっても食欲不振やのぼせといったものが主です。

抑肝散について

抑肝散は、1556年に出版された小児医学書「保嬰撮要」が初出と言われるほど、歴史の古い薬剤です。
元々は赤ちゃんや子供のうち「癇の虫が強い」と言われるような、夜泣きがひどかったり痙攣・ひきつけを起こすような子供に対して鎮静化させるために使われており、神経の昂りを抑えたり、筋肉のこわばりやつっぱりなどの緊張をほぐすような作用を持っています。

こうした作用から、パーキンソンやてんかん、鬱、不眠などにも使われるようになりました。

中身としては、以下の7つの薬草の組み合わせです。

  • 柴胡(サイコ); 熱や炎症を抑え、筋肉の緊張を緩めます。解熱・鎮痛・鎮静といった効果。
  • 釣藤鈎(チョウトウコウ); カギカズラのこと。手足のふるえ、痙攣やめまいなどを抑えます。
  • 蒼朮(ソウジュツ); 体内の水分循環を改善し、むくみをとるほか、健胃作用もあります。
  • 茯苓(ブクリョウ); 蒼朮と似た作用に加え、抗不安、動悸を抑える作用もあります。
  • 当帰(トウキ); 血液循環をよくして、コリや冷え性に効果を示し、強壮作用も持ちます。
  • 川きゅう(センキュウ); 冷え性、貧血などに作用します。
  • 甘草(カンゾウ); 甘みがあるため多くの漢方薬に配合されています。効果は様々な症状の緩和です。

一つ一つを見ると、様々な漢方薬に配合されている薬草なのですが、この組み合わせが重要です。

全体的に見て何となくわかる通り、興奮や不安、暴言、徘徊などの周辺症状の方に投与すると、ある程度落ち着くような作用がある、ということです。

グルタミン酸神経系の機能異常を改善する作用があるとも言われていますが、詳しい具体的な機序はわかっていません。

人間の体は非常に複雑で、何がどう絡み合っているのか完全に分かっているわけではありません。特になかなか原因が特定されないような慢性疾患に関しては、全身のバランスをとって治療していく漢方薬が、今後ますます存在感を増していくかもしれませんね。

CURATOR
ケアリッツマガジン運営者 Yuri
普段の業務に加えて、いろいろと記事を書いて情報発信しています。プライベートでは女子力高めなことが好きです。
ちなみに薬剤師の資格を持っていますがペーパーです 笑